第1話 農家の三男坊は出世の夢を見る
ニコル10歳
貧乏な農家の三男として生まれたオレだが、先祖代々貧乏だったわけではない。というか、ごく直近の爺さんの代は、なんと魔法使いだったというのだ。
名前はエレトン。魔法使いエレトンは相当な有名人だったらしく、村では知らない人はいない。
だったらなぜオレが、貧乏な農民のこせがれなのかが納得いかない。
オレは父親にそのことを尋ねてみた。
「なーなー、親父。エレトン爺さんって、どんなだったんだ?」
「……爺ちゃんのことを聞くな!」
親父はぶん殴るだけで教えてくれなかった。もしかして世界征服を狙う大悪党だったのだろうか?
母さんに聞いてみたら、こそっと教えてくれた。
エレトン爺さんはやはり高名な魔法使いで、しかも大金持ちだったそうだ。
その魔術の専門は美容整形。ご婦人たちから人気を博して、一財産築いたらしい。
そこで終われば万事最高だった。オレが貧乏農家の倅なわけがなかったのだが、成功することもあれば大失敗することもあるのが魔法らしい。その大失敗が、とんでもない時にきた。
エレトン爺さんはブスで有名なお姫様の整形魔法を引き受け、大失敗して更に見難いドブス姫にしてしまったのだ。
しかも喚きながら怒り狂うドブス姫を、謝るどころか「初めに失敗する『かも』って言ってただろうが!」と怒鳴りつけた上に杖でぶん殴ってしまったらしい。
果たしてエレトン爺さんは、首を切られた上に財産没収になったという。
なんか、想像してたのとちょっと違っていた。
悪人ではなさそうだ。善人でもなさそうだけど。善とか悪とかではなっくって、性格は普通の人っぽい。技術が高いだけのただの人。
ちなみに父ちゃんがオレくらいの年には、父ちゃんはボンボンでお屋敷に住んでたそうだ。
だから父ちゃんは、没落する原因になったエレトン爺ちゃんをとっても恨んでいる。
でもそれって逆恨みじゃない? お屋敷建ててくれたのもエレトン爺ちゃんの才覚だし、親父はその財の形成に何一つ寄与してないわけだし。
むしろ一代で村人みんなが知ってるレベルまで名を広めて、ブスの姫様(後にドブスとなる)から依頼が来る魔法使いになったんだ。
エレトン爺さんは尊敬に値する。農民に安住してる親父は全然ダメだ。
「母さんわかったよ」
「そう。ニコル、わかってくれたのね。とにかくお父さんはエレトンお祖父様のことを大嫌いなの。もともと貧乏なら貧しさも耐えれるでしょうけど、大金持ちから没落するのは辛いことなのよ」
ニコルとは、オレの名前だ。
オレは母さんに宣言するように言った。
「オレもエレトン爺さんみたいに、でっかい男になる。親父と違ってオレ、頭いいし」
母さんは賛成してくれなかった。むしろ曖昧な反対と言った感じ。
親父に言った所、もちろん大反対されてぶん殴られた。どんな理由だろうが、エレトン爺さんの名前を出した段階で親父の怒りゲージはマックスになっていた。怒りっぽすぎるだろ、親父。とてもオレの父親とは思えない。
オレはどう考えても爺さん似だ。
美容を極めし魔法使いエレトン、その知恵と知識だけを頼りに一代でのし上がった爺さんの背を追って、オレも頭脳でのし上がってやる!
少なくとも、農家の三男坊で終わる気はない!
はい、はじめまして。作者のギロチンです。読み始めてくださってありがとうございます。
たまにあとがきでグダグダ登場しますが、本編と一切関係ないので気に入らん人は読み飛ばして下さい。
書き始めは迷いました。脳筋側を主人公にするか、知恵袋側を主人公にするか。
どっちもキャラとしては好きです。話の展開も、どちらもあんまり変わらないでしょう。苦境を知恵で逆転も、卑怯な敵を力でなぎ倒すのも好きですので。
アルスラーンで言うと、ダリューンもナルサスも好きなのです。
ただアルスラーンポジションは書ける自信ないです。君主キャラは苦手ですねえ。
そいではお楽しみ下さい。