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凍てつく王国  作者: 玖波 悠莉
後編
76/86

12-4 伝説

遅くなってしまって申し訳ないです…

「馬…は2頭か?」

「うん…あ、見えた。そのうち一頭は人が乗ってる…なんか、手、振ってるみたい。」

「なんだ、それ。」

「さぁ…。」

雲の切れ間から時折覗く月が地上を照らし出して、彼らとその後をつける者たちを浮かばせた。けれど、それはほんの一瞬の事で、またすぐに真っ暗な闇の中に3頭の馬の影は消える。

それでも、後を追ってくる騎馬した人物は彼らからつかず離れず…いや、徐々に距離を詰めてきていた。奇妙な緊張をはらんだまま、距離は縮んでいく。

「…逃げよう、シグ。」

シグルーンの馬の尻の辺りにしゃがんでいたアリアが呟いた。

「敵か?」

前を向いたままシグルーンは馬を御す。

「めっちゃ性質悪い奴。」

明らかに知っている者に対する言い草だった。

「…。」

「ハインツ…。」

僅かにシグルーンが振り向いた。

「…逃げるか…。」

そう言いながらもシグルーンは馬首を翻し馬を止めた。そして、アリアの頬は膨らんでいた。


「無事で何よりです、シグ。アリアさんも。」

相変わらず糸みたいな目をした男はいつも通りに挨拶をした。

「ああ。」

「どうも。最近よく会いマスネー。何でここに?」

目つきの悪いアリアが尋ねた。

「最近も何も。私はずっとあなたと一緒でしたよ。」

「えっ…怖っ…じゃなくて。私一人で行けって言っといて、何でついて来てるんです。」

「さすがにそんな酷いことはしませんよ。」

シグルーンが心底驚いた顔をし、アリアが顔をひきつらせた。

「なんですかその顔は…。」

ハインツは心外だというふうに溜息をついた。

「いやでも言いましたよね、確か。」

「まあ、私はアレストリア国軍所属ですからね。表立っては動けませんから。」

アリアはやれやれと首を振る。

「火の回りが早かったのはハインツさんですか?」

「そうですね。あなたは目立ちますし、はったりもかませますし。私は見つからないようにこそこそ援護してましたよ。ああ、これ、あなたの馬です。」

軽く口笛を吹いてもう一頭の馬を呼んだ。

「あーそーゆう事ですか。便利な馬だなーって思ったんですけど。結局ハインツさんの後ろついて行ってただけですか、なるほど。」

「そう拗ねないでください。ここまで上手くいったのはあなたのお蔭でもありますから。」

「…今回に限って言えば、主な功労者は私じゃないんですか…。」

アリアが膨れる。

「はは、そうですね。で、話は変わりますがシグは生きてます?さっきから全く話に入ってきませんが。」

「お前が来るまではたぶん生きてたな…。」

「思ったより元気そうじゃないですね…。せっかく私があなたのために役職を用意してきたのに。」

「あのな…俺はお前達と違って半分は人間なんだよ。少しは労われ。」

「お前達と違って?」

「あれ、言ってなかったか。こいつはエルフだ。」

さらりと言われた言葉の意味が分からなかったのか、アリアは固まった。

「え。」

「だから寿命の話なんかも分かるんですよ。エルフも長命ですしね。」

そう言って長髪をかきあげると、ハインツの耳は人間のそれより確かに尖っていた。

「そっか…人間にしては夜目も効くし感覚も鋭すぎるし、なんか腹黒いし…エルフだったんだ。」

「…たぶん最後のはエルフ関係ないぞ。」

「これだけできる男の私が何の理由もなくこんな王位継承権激低の王子の副官なんて言う閑職やってる訳ないじゃないですか。それにまぁ、遊撃隊ははずれ者が多いですしね。そういうのも何人かいますよ。ロバートは何代か前がギガントですし、ジャックはドワーフですよ。」

話しの前半では盛大に眉をひそめたアリアだったが、後半で目を丸くした。

「へ、へぇ…そうだったんだ…ですか…。」

「それは良いとして、役職?って何だ?」

ぐるぐるしだしたアリアを横目に、ハインツとシグルーンは話を再開した。

「ええ。とびっきり位は高いですが馬鹿みたいな閑職です。」

「何だ?お前がわざわざこんな前線どころか敵国の真ん中まで来るなんて、よっぽど立派なんだろ?」

「ええ。かなりステキなお仕事です。」

「もったいぶらずにさっさと言ってくれ…。」

疲れた顔でシグルーンは先を促す。ぐったりと体は馬の鬣の中に預けられていた。

「じゃ、遠慮なく。王の執務補佐官です。」

「…?それのどこが閑職なの?5番目とはいえ、王位継承者で王の執務補佐をやってるとなると、実際かなりのものじゃない?」

ようやく混乱から回復したアリアが話に加わった。

「本来はな。」

「ん?」

またアリアが訳が分からない、と言う顔をした。

「今王国の実権を握ってるのは名目上王という事になってはいるが、実際のところ権力を行使しているのは兄たちだ。」

頷くアリア。

「それで、寝たきりで全く国政に手を出せない権力をはく奪された王の補佐官、となると寝たきり老人の介護役程度なんですねぇ。」

「おい、それはいくら何でも言いすぎ…。」

「なのになんでまた…?」

「王国が売り渡した貴方に高位の官職を与えた。なぜこんな不可解なことをすると思います?」

「…お前が頑張ってくれたんだろ?」

疲れたように、投げやりにシグルーンが言った。

「ええまあ私の働きなしではこんな立派な官位は得られなかったとは思いますが。」

「謙遜という美学の何たるかを知ればいいのに。」

ぼそりとアリアが呟いた。

「何か言いましたか?」

にっこり笑うハインツからぷい、とアリアは顔をそむけた。

「悪いが…さっきも言った通り結構きついんだ。そういうのは後にしてくれ。」

「あ、そうでしたね。すみません。弱ってるシグとか全く想像していなかったもので。」

悪かったな…とシグルーンが適当に返事をする。

「で、なにが問題なんだ?」

「先程、アリアさんが言ったように他国から見れば次の王位が約束されていてもおかしくないような重要人物に見えるんです、シグが。」

「それで?」

「そんな大事な人物を王国側がそうそう売り渡すはずもない、これは陰謀だ、といってこの国に因縁をつけます。適当な時期でも見て、ですが。」

「因縁つけるって言ったって…今奴らとここの軍は友軍とまではいかなくても、シグを排除するために手を組んでいるんじゃないの?」

「そうです。まあ、ウルサーンはどうか分かりませんが。」

「よく分からんな。」

「つまり、ウルサーンはあなたを始末するまではアレストリア軍に襲われることはないと思っています。そこに、突如大軍がやってきて、こういうわけです。『我らが次期国王をよくもやってくれたな!』と。今頃になって徴兵も始めてましたし。アレストリアはウルサーンと違って細かい国を併呑してできた国ですからね。多少の大義名分がなければ兵は動かせませんし。」

「なるほど。俺は消える。そして国境線も伸ばせるだけ伸ばそうって腹か。」

「で、もしも生きていても大したことのないお仕事が待ってるわけで。」

「最高にステキな官位だ。ありがとう、ハインツ。」

シグルーンは真っ白な溜息を夜空に向かって吐き出した。

「そう腐らないで下さいよ、これはそもそもあなたが死んでいる前提で奴らが建てた策ですから。建前上、あなたを堂々と他国に売り飛ばせはしないので、生きていた場合にも官位を与えるという体を取っているだけです。万が一にもあなたが生きているとは思っていませんよ、やつらは。」

「でまあ、残念ながら俺はまだ生きているわけだが…。」

何故かアリアがむっとした顔をした。

「私がなんでわざわざあなたのために孤軍奮闘してこんな高位の官職を手に入れてあげたと思っているんですか。そもそも私はあなたが死んでるなんて全く思っていませんでしたからね。そうでなくてはわざわざ危険を冒してまでシグを拾いにはには来ない。」

ハインツは肩をすくめて見せた。

「…俺に何をしろと?」

「あなたは正式な官位を手に入れた。加えて、あなた自身が圧倒的戦力だ。もう以前のように諾々とやつらの指示に従う必要はないんですよ。地位も力もある。奴らを粛正しろとまでは言いませんが、あなたができることはたくさんあるはずですよ。」

「なるほどな。わかった。しかし、ずいぶんと信用されたもんだな…。」

「ええ。貴方には頑張ってもらわないと。私の新婚生活が懸かっているんですから。」

その言葉に、アリアとシグルーンは固まった。

「え、嘘…。」

アリアは茫然と呟き、

「王都があんなことになってる間にか…?」

シグルーンはあきれたように嘆息した。

「あんなことになっている間だからこそです。彼女が困っているのに手を貸さない理由がありますか?」

「なるほど。そのついでに彼女の父親に認められることくらいはあったってことか。…あくどい奴め。」

「なんとでも。彼女以上に大事なものはありませんからね。なんだってしますよ。」

「分かった、分かった。…で、この後どうするんだ?」

シグルーンが両手を上げて、訳の分からない方へ行きかけた話を元に戻した。

「一応、ウルサーンの王都まで走る予定だったんですが。正直あなたの消耗が予想以上だったので夜を徹して走るのはやめた方がよさそうですね…。昼は身を隠すのが厳しくなりますが。」

ふと、アリアが首をかしげた。

「…人に見つからないように王都に入れればいいの?」

「そういう事になりますね。」

「山の中に抜け道がある。もう氷の一族しか使わなくなった古い坑道みたいな穴だけど、一応昔は密輸とかに使われてたみたいだから馬一頭くらいなら通れる。縦に並んでなら、たぶん行ける。」

どうする…とアリアが言外に問う。

ハインツがちらりとシグルーンを見て頷いた。

「…決まりだな。そっちの方が早いだろう。」

シグルーンの馬から飛び降りてアリアはハインツの連れてきた馬に乗る。

「聞きましたよ、私のシグルーンとか言ったらしいじゃないですか。」

馬によじ登るアリアにこそっとハインツが声をかけた。

「…へ?」

驚いたようにアリアが彼を見上げると、ハインツは小さく続けた。

「頑張ってくださいね、応援くらいはしてあげます。」

見る見るうちにアリアは真っ赤になった。

「ち、違…そういう意味じゃ…」

「…これでも、一番長くあの人のそばにいたんです、なんだかんだ言って私もあの人が可愛いんですよ。そんな手のかかる弟みたいなものですから、あの人の好みくらいはわかりますよ。」

慌てて否定するアリアにも構わずハインツは続けた。もしかしたら、笑っていたかもしれない。

「…??え、え?どういう…?ありがとう?」

目を瞬かせて馬からずり落ちたアリアはもう一度挑戦してようやく馬に乗った。

「分からないなら、それでいいですよ。あなた方はそう言う形もいい。」

さて、行きましょうと言ってハインツは馬首を山の方へ向けた。

「ハインツが親切…?」

アリアのつぶやきは冬の風にさらわれていった。



ここまで読んでくださってありがとうございます。

前話の…し…シグルーンの…し…の部分には知り合いが入ります。


―――――――――――――

以下アリアの回想(どうでもいいです。書きたかっただけです)

私の…?なんだろ。

友達…ではないし。なんかもっとこう…何だろ。

仲間?いや、ハインツさんに署名した紙破られたし…なんか違うし…

あああ!

知り合い?

なんかもうそれでいい気がする…


退化しました。と言う話です。どうでもいい話ですが…書きたかったんです!

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