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凍てつく王国  作者: 玖波 悠莉
前編
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番外編

番外編です。

最初はこんな感じの話を書く予定だったのですが…

一体どこで間違えた(最初から)

「あれ…?ハインツじゃない…?」

ほてほてと朝の街をシグルーンと連れ立って歩いていたアリアが横の路地を指さして言った。

「ほんとだな。…目、開いてないか?」

2人して路地を覗き込むと、向こうの通りのパン屋の壁に寄りかかっている男がいた。すぐにそれと分からなかったのはいつも半ば閉じかかっている糸のように細い目が今日はぴっしりと開いていたからである。

「…どしたんだろ…。」

「ほんとどうしたんだろうな…。何か悪いものでも食ったんじゃないのか…。」

驚いてはいるが、言っていることはひどかった。

路地を覗き込んでこそこそ話し込む挙動不審人物が目の開いているハインツに見つからないわけもなく、

「おや。お二人とも、デートですか?」

からかわれた。

「いや、お前な…人に買い出し押し付けといて、それか?」

彼等は遊撃隊の必要物資の買い出しに出かけていた。遊撃隊の他の面々も、各々別の買い出しや、消耗品の買い付け、果ては質屋に入れた武具を取り出しに出かけていた。

「おや、押し付けたとは人聞きの悪い。今日は非番ですよ?」

「奇遇だな。俺もだ。」

にっこり笑うハインツにシグルーンも負けじと嫌味を言う。

「非番?てか、シグはそもそも非番も何もないんじゃないの?」

「年がら年中非番だ。本当はな。」

「無償労働?」

「いえ、もらうものはもらってますよ、シグは。」

「それ使ってんのは俺じゃないがな。」

「どゆこと?」

「遊撃隊の予算になってるな…主にこいつ、ハインツが使ってる。」

「人聞きの悪い。上手くやり繰りしてるっていうんですよ。」

「わかった、わかった。で、お前はこんなところで何をしてる?上官に雑用押し付けるほど大事な用なんだろ?」

はぁ、と溜息をついてシグルーンは髪をかきあげた。

市の立つ日の朝は早い。彼らがそうやって話している間にもどんどん人が増えて、ちらちらと彼らに視線を投げては通り過ぎてゆく。

「そうです。なんで目、開いてるんです?何してんですか?」

真っ白な眉根を寄せる。

「アリア、別にこいつに敬語とか使わなくていいんだぞ…。」

「なんか心の距離を取りたいっていうか…。」

ぼそぼそと答えながら、心なしかハインツから遠ざかるアリア。

「あ、そう…。」

肩を落としてシグルーン呟いた。

そんなどうでもいい話をしている間にも彼等を眺める視線は増えていく。

「心外ですね。開いてたらいけないんですか?」

「いや、そういうわけじゃ…。」

むむ、と更にアリアの眉間のしわが深くなる。

「ま、それはいいとして、何をしてるかは教えてほしい。なんというか、まぁ、俺たちは人目につくんでね。」

先程から視線が彼らに集まっていた。

パン屋の壁に寄りかかる長身の金髪、碧眼とそろった美形。今日は目が開いているので普通にただの美形だ。うさん臭さは微塵もない。

そこに話しかけるシグルーンは顔かたちこそあまり目立ちはしないものの整ってはいるし、何より軍服を着て、剣を佩いたままだ。剣を佩いて、高位官職の軍服を着るにはあまりに若すぎるにも関わらず。多少ものを知っている者たちは、シグルーンに好奇の視線を投げていく。

そして、とどめを刺すのがアリアだ。まず見た目が目立ちすぎる。輝く透明にも見える白い髪、雪のような肌、紅い瞳。それが明らかに軍紀を逸脱した服を着て、剣を佩いているのだ。それも、双剣。

「ああ、それもそうですね。」

軽く笑って、ただの美形のハインツは何でもない事みたいにさらりと言った。

「女性をね、待ってるんですよ。」

「「え。」」

「そういうわけですから、邪魔しないでくださいね。」

にっこり笑うハインツかは邪魔したらどうなるか分かっているな、と言ってるようにしか見えなかったが。

その前の一言の衝撃でお子ちゃま2人は数拍、大いに固まっていた。


「びっくりした…。」

「あいつ、本当滅多なことでは目開かないんだがな…。」

「もっと他の事に本気使えばいいのに…。」

「1番大事な事なんだろ…。」

「そっか…。」

ぼそぼそと話しながら路地裏を行く。

買い物の前に、強盗が出たという店に話を聞きに行く。市が開いてもいない早朝から出てきたのはこのためだったのだが、ハインツの話に色々持っていかれてしまった。

「強盗、の話、聞きに行くか…。」

「そうだね…。ハインツの目ェ開いてたの、強盗じゃなかったんだ…。」

「その程度で開くほど勤勉な目じゃないな。」

「勤勉な目って何」

「さぁ…。」

しょうもないことを話しながら慌ただしい朝の路地を歩いていると、表通りの方が随分と騒がしくなった。

「なんだろ?」

アリアがひょい、と表通りを覗き込むのと、悲鳴が上がるのとが同時だった。

「え…?私?じゃないよね?」

慌てて顔を引っ込めてアリアがシグルーンを振り返った。

「そんな訳あるか。噂の強盗みたいだぞ。」

表通りの方へ走り出す。

「そんな馬鹿な。朝だよ?」

シグルーンに合わせて走りながらアリアが器用に肩をすくめた。

「馬鹿なんだろ。」

叫んでいたのは通りに面した店の女だった。いかにもな黒ずくめ達に小刀を突きつけられて震えながら何事かを喋っている。

「なるほどね。」

女の叫び声で人が集まってくる。その様子を見てアリアは納得したように頷いた。

人が集まってくるのをみた黒ずくめ達は少ない戦利品を持って逃げだした。

「朝からそんなに金持ってるわけないのにねぇ…。」

呟いたアリアに

「追うぞ!」

既に駆けだしていたシグルーンが叫んだ。

お粗末な手口とは裏腹に黒ずくめ達は器用に逃げていく。次々に角を曲がっては路地へ飛び込み、あっという間に見えなくなった。

「くそ!出遅れた…。」

シグルーンは表通りに駆けこんだが、集まった人だかりに邪魔されて強盗から引き離されてしまった。ようやく人だかりを抜けたころには強盗達は影も形もなかった。

「上からなら見えるかも。」

舌打ちをするシグルーンをみて、アリアが少し首をかしげて言った。

「上?」

「うん。」

頷いて、軽く地面をける。軒と壁を蹴りながらあっという間に屋根の上に飛び上がる。

「いたぁ!」

屋根の上のアリアが楽し気に叫ぶ。

「あっち!」

まるで平地を走る様に屋根の上を駆けた。

「嘘だろ…。」

ぼやきながらシグルーンもアリアの声に合わせて走る。

「あっちじゃなくて具体的に言ってくれ!アリアの方からは見えても俺からアリアは見えないんだよ!」

店を開ける準備や、荷を下ろしている人々の間を風のように駆けるシグルーンを人々は驚いた様に眺め、次いで、屋根の上を駆けるアリアを見つけて顎を落とした。

「3本目の通りを右!その後すぐの角を左!その突き当りの倉庫の裏から入れる廃墟!」

「分かった!」

返事をするが早いか、シグルーンは一気に加速した。今まで走っていたのは何だったのかと言いたくなるほど、一瞬でアリアを引き離した。

人気のない方へ、さらに速く。

「相変わらず…速すぎ。」

軽やかに出窓を飛び越え、ほとんど足音を立てずに屋根に着地する。目下にはシグルーンが倉庫の扉を蹴破っているのが見えた。

「負けてらんない…。」



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