1-3
もとの1-3の内容を1-2に統合し、新しく1-3を加筆しなおしました。
大陸の背骨とも呼ばれる。その巨大な山脈は、大陸の北部を占め、全てを拒み、そこへ挑んだものは誰一人として帰ってこない。そんな人知の及ばない山脈の麓…正確には、山脈から流れ出る川の、巨大な扇状地だが…にアレストリアの王都は広がる。
もとは辺境の一砦に過ぎなかった城は、国土が広がるにつれて増築され続け、山肌に乗っかっていたころとは違い、今では山にしがみつくような格好になっている。横にも、縦にも伸びた王城の中は随分と迷うという。防衛上では長所とも言えるかもしれなかったが、ここ100年以上、王都が侵略の危機にさらされたことはなかった。
「ったく…ほぉんと、寒いわ。」
そんな、歪な形をした城を城下で見上げる者たちは、一様に白い息を吐いていた。
「全くっすよ。これじゃ、俺ん所は死人がごろごろ出る。いい加減にしてほしいっすね。」
他国の軍に侵入されることはなくとも、冬将軍の進軍は止められなかった。
「別に気にもしてないくせによく言うよなー。」
日暮れの道は白く染まって、道行く人々は足早に去ってゆく。
「一応、困るんすよ?声かけた奴が死体とか…あんま気持ちよくはないっす。」
「最悪って言うんじゃなぁい?そぉいうの。…で、そういう時に限って、だいたい知り合いなのよねぇ…。」
いつもならば、夕暮れ時からが盛況な歓楽街にも寒風が吹くばかり。
「うわー。それ以上言うのやめてくれ…。」
彼らが一様についた溜息は、白い靄になって、そして北風にさらわれていった。
「あー。どうしようかしらねぇ…こうも暇だと…困るわよねぇ…。一応、生活かかってる訳だしぃ?」
「姐さんとかはまだましな方でしょう?」
「そうだけど、ねぇ?」
特に目的もなく、店に入るでもない3人組が暗くなり始めた路地をぶらつく。皆下を向いて急いで歩くのと、彼らの様子は対照的だった。
「あ!そう言えば、シグが遠征がどうのとか…言ってなかったけ?」
「言ってましたね。そう言えば。…どうせ暇ですし、参加しますよね?」
「そぉねぇ…。」
「ロバートは来ると思うか?」
「行って聞いてみます?」
「いいわねぇ!あそこの家族、癒されるし奥さん料理上手いしぃ。」
「材料くらいは持ってこう…。」
雪がちらつき始めた王都の街を、彼等は歩き始めた。
彼等の足跡を、後から、後から落ちてくる雪が、じんわりと薄めていった。