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「これが、今回の遠征の概要だ。何かあるか?」
ルイーゼの後に続いて3,40人ほどの隊員がシグルーンの部屋に集まってきて、その後、ハインツが遠征について説明していた。彼らが集まるより前にシグル-ンがアリアにしたそれよりかなり簡潔で、彼等以外が聞いてもよく分からないほど簡略化されていた。
「最後の砦、ほんとに山賊か?ウルサーンは関わってないのか?国境に近すぎるってこたぁないが。」
目つきの鋭い…というか悪い男が手を挙げた。
「わからん。」
シグルーンは簡潔に答える。
「今の国王はどんなだったけ?」
「確か…40がらみのおっさんだろ?」
「特に表に出てくることはなかったな。」
「あそこは代々表に出てくることは少ないだろ。」
ざわつき始めた隊員を見てシグルーンは傍らのハインツに尋ねた。
「今港造らせてるんじゃなかったか?」
ちょっとハインツは考え込んだ後、ああ、と答えた。
「そうですね、西の大陸との交易の港としては有益でしょう。しかし、なぜ今なのかは解せませんね。」
「よく分からんな。」
「結局、ウルサーンが関わっているかどうかは分からんな。まぁ、これだけ尻尾をつかませずにやっているんだとしたら、どちらにしても分からんだろうが、な。」
シグルーンとハインツのやり取りを聞いていた隊員達は肩をすくめたり、苦笑いを浮かべたりした。
「そうでない事を祈るってか。」
「そうなったら逃げよう。正規軍じゃない俺たちの特権だ。」
「確かに!」
周りがどっと沸く。
「あと、それから、アリアだ。今回の遠征から参加する。いつものように訳アリだ。あまりつつくな。」
シグルーンは笑う隊員達を手で制してアリアに注意を向けた。
「よろしくお願いします。」
ぺこり、とアリアは頭を下げる。
「待ってましたっ!」
「女の子じゃねぇかっ!」
またも大いに沸いた。
「あ、あと今回はルイーゼも参加だ。」
「え。」
部屋の中は一瞬にして静まり返った。
「こぉんな美人と一緒にいられて何が不満なのよ?」
心外、とルイーゼが唇を尖らせた。
「そういう所だよ!」
「今の、誰?」
「すみません。」
「ということで、アリアちゃんに手ぇ出したら殺すわよ。社会的にも。」
「にも?!」
一番乗りでやって来ていた小男が目を剥いて周りの笑いを誘った。
「あんたもうほとんど死んでるじゃない。」
「確かに!」
「はいはい、そこらへんで。他には?」
ハインツがパンパン、と手を叩いて静かにさせる。
「船でくだるって言ってたが、何使うんだ?」
ひときわ巨躯の男が尋ねた。
「ああ、それは正規軍が貸してくれるらしい。珍しく。」
シグルーンが答える。
「そりゃいい。使い倒してやろう。」
「2度と貸してくれないぞ。」
「2度目がそもそもあるかどうか…。」
ざわつく彼等を完全に無視してハインツは続けた。
「他は?」
特に質問が出ることはなく、彼等はお互いに顔を見合わせただけだった。
「なさそうですね。細かいところは後ででも構いませんので。では解散。」
「ああ、ジャック、ロバート、残っててくれ。後は、解散してくれ。荷物はいったん船着き場にとってある宿屋に。」
「うぃっす。」
「了解。」
「じゃぁねー。」
ばらばらとてんでに立ち上がり、さっと潮が引く様にシグル-ンが指名した2人を残してすぐにいなくなった。
「では。私は他の軍との話があるので。」
そう言ってハインツも出ていった。
「で、シグ、何の用だ?」
最初にやって来たやかましめの小男と、先程シグルーンに声をかけた、こちらは見上げるほど大きな男だった。
「ああ。用ってほどの事ではないんだが。アリアの事でな。氷の一族なんだそうだ。一応お前らに声かけておこうと思ってな。知ってるか?」
「いや、申し訳ないが知らない。」
「知らんなー。でも可愛い子は大歓迎だ!」
シグルーンはげんなりした顔をした。
「うん。そういう話じゃないけどな。…お前いつか本当にルイーゼにやられるぜ。」
そこでシグルーンはアリアの方に振り返って手招きをした。
「でかい方がロバート、小さい方がジャックだ。」
「紹介雑っ!」
「すごく分かりやすいと思うがな。」
「あるいはうるさい方がジャック、そうじゃない方がロバートだ。」
「確かに。」
「…。」
「ちなみに、ロバートは美人な奥さんがいる。」
ジャックはとても静かになった。
次の日、アリアは慌ただしく動きまわる隊員を見ながら城内や、船着き場をぶらぶらしていた。アリア自身、特に荷物もするべき役割も振られていなかったので。ハインツとシグルーンは忙しく城内を歩き回っていたし、ルイーゼは城下を歩き回っていた。そんなわけで、一人でぶらついていた。
夕方になってようやくシグルーンが諸々の仕事を終えて帰ってきた。ハインツはまだしばらく仕事があるようだった。
「お疲れさま。」
「おー。明日早いから、もう船に乗っとくぞ。」
手早く荷物をまとめながらシグルーンがアリアに声をかけた。
「了解。」
「あ、お前の部屋食糧庫にしたぞ。特に人も来ないし、寒くても全く問題ない。いやだったら…考えるが。ちなみに男どもは部屋なしだ。ルイーゼは…まぁ、うん。一番いい部屋とっていったぞ。そもそも、船室なんてほとんどないのにな…。」
階段を下りながらシグルーンが遠い目をした。
「ああ。全然問題ないよ。2日、だっけ?暫らく寝だめしてもいいかな?」
「いいけど。できるのか?」
「出来なきゃ聞かないよ。」
「それもそうだ。ああ、かまわん。特にすることもないしな。丸2日。ルイーゼもこもるって言ってたな、確か。」
「そうなんだ。」
「どうせ酒盛りしかしないだろ。むしろ来ない方がいいかもな。」
「なんで?」
「え?いや、ジャック見たらわかるだろ?」
「ああ。」
雪がちらつき、真っ白の暗くなり始めた道を彼等は城下に向かって下っていった。




