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凍てつく王国  作者: 玖波 悠莉
前編
30/86

5-3

「これが、今回の遠征の概要だ。何かあるか?」

ルイーゼの後に続いて3,40人ほどの隊員がシグルーンの部屋に集まってきて、その後、ハインツが遠征について説明していた。彼らが集まるより前にシグル-ンがアリアにしたそれよりかなり簡潔で、彼等以外が聞いてもよく分からないほど簡略化されていた。

「最後の砦、ほんとに山賊か?ウルサーンは関わってないのか?国境に近すぎるってこたぁないが。」

目つきの鋭い…というか悪い男が手を挙げた。

「わからん。」

シグルーンは簡潔に答える。

「今の国王はどんなだったけ?」

「確か…40がらみのおっさんだろ?」

「特に表に出てくることはなかったな。」

「あそこは代々表に出てくることは少ないだろ。」

ざわつき始めた隊員を見てシグルーンは傍らのハインツに尋ねた。

「今港造らせてるんじゃなかったか?」

ちょっとハインツは考え込んだ後、ああ、と答えた。

「そうですね、西の大陸との交易の港としては有益でしょう。しかし、なぜ今なのかは解せませんね。」

「よく分からんな。」

「結局、ウルサーンが関わっているかどうかは分からんな。まぁ、これだけ尻尾をつかませずにやっているんだとしたら、どちらにしても分からんだろうが、な。」

シグルーンとハインツのやり取りを聞いていた隊員達は肩をすくめたり、苦笑いを浮かべたりした。

「そうでない事を祈るってか。」

「そうなったら逃げよう。正規軍じゃない俺たちの特権だ。」

「確かに!」

周りがどっと沸く。

「あと、それから、アリアだ。今回の遠征から参加する。いつものように訳アリだ。あまりつつくな。」

シグルーンは笑う隊員達を手で制してアリアに注意を向けた。

「よろしくお願いします。」

ぺこり、とアリアは頭を下げる。

「待ってましたっ!」

「女の子じゃねぇかっ!」

またも大いに沸いた。

「あ、あと今回はルイーゼも参加だ。」

「え。」

部屋の中は一瞬にして静まり返った。

「こぉんな美人と一緒にいられて何が不満なのよ?」

心外、とルイーゼが唇を尖らせた。

「そういう所だよ!」

「今の、誰?」

「すみません。」

「ということで、アリアちゃんに手ぇ出したら殺すわよ。社会的にも。」

「にも?!」

一番乗りでやって来ていた小男が目を剥いて周りの笑いを誘った。

「あんたもうほとんど死んでるじゃない。」

「確かに!」

「はいはい、そこらへんで。他には?」

ハインツがパンパン、と手を叩いて静かにさせる。

「船でくだるって言ってたが、何使うんだ?」

ひときわ巨躯の男が尋ねた。

「ああ、それは正規軍が貸してくれるらしい。珍しく。」

シグルーンが答える。

「そりゃいい。使い倒してやろう。」

「2度と貸してくれないぞ。」

「2度目がそもそもあるかどうか…。」

ざわつく彼等を完全に無視してハインツは続けた。

「他は?」

特に質問が出ることはなく、彼等はお互いに顔を見合わせただけだった。

「なさそうですね。細かいところは後ででも構いませんので。では解散。」

「ああ、ジャック、ロバート、残っててくれ。後は、解散してくれ。荷物はいったん船着き場にとってある宿屋に。」

「うぃっす。」

「了解。」

「じゃぁねー。」

ばらばらとてんでに立ち上がり、さっと潮が引く様にシグル-ンが指名した2人を残してすぐにいなくなった。

「では。私は他の軍との話があるので。」

そう言ってハインツも出ていった。

「で、シグ、何の用だ?」

最初にやって来たやかましめの小男と、先程シグルーンに声をかけた、こちらは見上げるほど大きな男だった。

「ああ。用ってほどの事ではないんだが。アリアの事でな。氷の一族なんだそうだ。一応お前らに声かけておこうと思ってな。知ってるか?」

「いや、申し訳ないが知らない。」

「知らんなー。でも可愛い子は大歓迎だ!」

シグルーンはげんなりした顔をした。

「うん。そういう話じゃないけどな。…お前いつか本当にルイーゼにやられるぜ。」

そこでシグルーンはアリアの方に振り返って手招きをした。

「でかい方がロバート、小さい方がジャックだ。」

「紹介雑っ!」

「すごく分かりやすいと思うがな。」

「あるいはうるさい方がジャック、そうじゃない方がロバートだ。」

「確かに。」

「…。」

「ちなみに、ロバートは美人な奥さんがいる。」

ジャックはとても静かになった。



次の日、アリアは慌ただしく動きまわる隊員を見ながら城内や、船着き場をぶらぶらしていた。アリア自身、特に荷物もするべき役割も振られていなかったので。ハインツとシグルーンは忙しく城内を歩き回っていたし、ルイーゼは城下を歩き回っていた。そんなわけで、一人でぶらついていた。

夕方になってようやくシグルーンが諸々の仕事を終えて帰ってきた。ハインツはまだしばらく仕事があるようだった。

「お疲れさま。」

「おー。明日早いから、もう船に乗っとくぞ。」

手早く荷物をまとめながらシグルーンがアリアに声をかけた。

「了解。」

「あ、お前の部屋食糧庫にしたぞ。特に人も来ないし、寒くても全く問題ない。いやだったら…考えるが。ちなみに男どもは部屋なしだ。ルイーゼは…まぁ、うん。一番いい部屋とっていったぞ。そもそも、船室なんてほとんどないのにな…。」

階段を下りながらシグルーンが遠い目をした。

「ああ。全然問題ないよ。2日、だっけ?暫らく寝だめしてもいいかな?」

「いいけど。できるのか?」

「出来なきゃ聞かないよ。」

「それもそうだ。ああ、かまわん。特にすることもないしな。丸2日。ルイーゼもこもるって言ってたな、確か。」

「そうなんだ。」

「どうせ酒盛りしかしないだろ。むしろ来ない方がいいかもな。」

「なんで?」

「え?いや、ジャック見たらわかるだろ?」

「ああ。」

雪がちらつき、真っ白の暗くなり始めた道を彼等は城下に向かって下っていった。

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