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「で、今日は何を見に来たんだ?」
気を取り直すように禿頭の男がアリアに声をかけた。
「武器はもうあるんで…それ以外?」
「ああ、その腰のもんか。ちょっと見せて貰ってもいいか?」
「はい。」
アリアは鞘ごと腰から剣を一本だけ取り外し、男に渡した。
「ん?アリアちゃん、これ、隊長からもらった?」
男の横から剣を覗き込んだルイーゼが尋ねた。
「いえ?違いますけど。どうしたんですか?」
「んー、これ、うちの隊の紋章なのよねぇ。正確には隊長の、だけど。」
ルイーゼは長い指で剣の刃元に刻まれた戦女神の紋章を指さした。
「隊長?隊長だったら王家の紋章じゃないんですか?」
「王家の紋章?そうねぇ、確かに。言われてみればそうね。最初っから戦女神の紋章使ってたから気にしたことなかったわねぇ。」
「え?」
「私もよくは知らないけど、私が隊に入った時にはもう戦女神の紋章を使ってたわよ。」
「隊長とは関係ないのでは?」
「いや、たぶん母方の方じゃないかしらぁ?」
「親族と聞いたぞ、俺は。」
「…へぇ。」
アリアは刃元に視線を落としたが、すぐに頭を振った。
「おや、こいつぁ、珍しい。この刃渡りで片刃か。」
抜きかけていた剣を最後まで抜いた男が声を上げた。
「もらいものだけど。手になじんじゃって。」
壁に飾ってあるのかただ場所の節約のためなのかわからないほど乱雑に陳列された武具を眺めながらアリアは答えた。
「かなりいい品だ。売る気は…」
「ない。」
「あはは、振られたわね。」
作業台に軽く腰を掛けたルイーゼに憮然とした表情を向けると、男はため息をついた。
「はいはい、武器はこれでいい、それ以外ってことだったよな。」
男から受け取った剣を腰の後ろにもどすと、アリアは壁からルイーゼに視線を移した。
「制服だけって話だったんじゃないんですか?」
「え?そんな軽装で遠征に行くつもりだったの?」
「遠征?これ以上装備増やしたら重たいじゃないですか。」
当然のようにアリアは言った。
「当り前じゃない…。」
「ほら、だって剣とか、そういうのはよければいいし…。」
「矢に当たって死ぬぞ、お嬢さん。」
笑い含みの声で男が言う。
「や?」
かくっと首をかしげるアリア。
「矢。」
答える男。
「飛んでくる?」
もう一段階首をかしげる。
「そう。」
答えるルイーゼ。
「それは…やばいですね。」
首を元に戻して考え込む。
「はは、まぁ、もっともあんた等ん所の隊長は当たる前に敵陣まで突っ込めばいいとか言ってたぜ。」
「はぁ?どんな理論よ…。」
「…なるほど。」
男とルイーゼが同時にアリアの方を向いた。
「え?」
「確かに、自陣ではそう簡単に矢なんて撃てないですもんね。」
「いや、お嬢さん、そういう問題じゃないと思うぜ…。」
男は困ったように言った。
「なので、体が重たくなる装備は要りません。」
目を見開いて、慌ててルイーゼが止める。
「ちょっとちょっと、やめて、アリアちゃん!」
「え?」
「お願いだから!せめてほら、ちょっとなにぼさっとしてんの、さっさと出しなさい。」
ルイーゼは作業台を叩いて男に催促した。
「姐さんそりゃいくら何でも無理だ。」
「胸当てくらいあったでしょ。前おいてたじゃない。ちょうど黒かったし。」
「いやでもあれ規格外ですよ、姐さん。どこぞの貴族が道楽用とか何とか知らねえが、かなり小さくて細身だったぜ?」
ルイーゼはにっこり笑った。
「あるんでしょ。出しなさいよ。」
「そりゃありますけどね。」
奥にいったん引っ込むと、つやのある漆黒の胸当てを持って戻ってきた。
「はい、どうぞ。」
やや乱暴に作業台においた。
「ちょっと着けてみてくれない?」
ルイーゼは例の威圧的な笑顔でアリアに振り向いた。
「…はい。」
胸当ては首元から胸の下まで、ちょうど飾り帯の上までを覆う形になっていた。
「結構重い…ですね。」
「あら、ちょうどいいじゃない。」
胸当てをつけたアリアを見てルイーゼはあっさりアリアを無視した。
「おう、ほんとだな。」
ふたりの視線にさらされて、慣れなさそうにアリアが腕を軽く振る。それをみていたルイーゼだったが、ふと何かを思いついたように上着を脱いでアリアに渡した。
「ちょとこれ来てみてくれない?上から。」
ルイーゼは上着の下には白いかっちりとした服を着ていたが、やはりこれも胸元は大きく開いていた。男がその胸元を凝視した。ルイーゼは作業台の上から手ごろなものを拾うと、大きく振りかぶって、ぱかん、と男の後頭部を殴った。男は作業台の山に頭から突っ込んだ。
「さすがに前は閉まらないわね。」
胸当てをつけたその上に上着を羽織ったアリアを見て、ルイーゼは言った。
「姐さんも閉まってません…。」
小声で抵抗するアリア。
「他には?」
全く意に介さないルイーゼ。
「腰のところが隠れてると抜けないので、裾が短い方がいいですね。あと、普通に腕が長いです。」
「太さは?」
「中に籠手を着けているので、これくらいで。」
「ん。いいわ。私の所に制服、かなりあったはずだから、とりに行きましょ。」
「痛ってぇな…。」
山の中から這い出した男をルイーゼが見下ろす。
「はい、この胸当て、戦女神の紋章入れといて。いつも通りで。」
「はい、まいど」




