4-2
広い廊下を2人分の足音が響く。彼ら以外はもう先についているのだろう、廊下には誰もいなかった。
「何の用だと思う?」
シグルーンが傍らを歩くハインツに声をかける。
「そうですね、とりあえず雪山に行けといわれることはなさそうですが。」
「それは自分達でやりたがるだろう、なにせ、英雄だ。やり遂げればな。」
ハインツが肩をすくめた。
「確かに。失敗したとしても表には出ない。最高ですね。」
シグルーンは天井を仰ぐ。
「なら…俺たちはその間の埃叩きだな、たぶん。アリアは連れて行くしかないな。」
そうですね、とハインツがうなずく。
「切り札みたいなものですか?」
「何もわからんからな…俺たちには。正直何もわかってないのに突っ込む無謀な役はしなくてよかったと思ってるよ。」
「あるいは、虐殺という最悪の役回りから外されて良かった、ですか?」
「可能性の一つではあるけど、たぶんそんなことはないだろ。アリアを見たらわかるだろ?」
「ああ、それで切り札に?」
「それもあるが、な。」
大きく、溜息をついた。
「思ったよりもずいぶん可愛いかったですしね。」
にや、と笑ったハインツがシグルーンを覗き込む。こういう顔は表情が分かりやすかった。
「は?!」
シグルーンは顔をはね上げた。眉がしかめられていた。
「おや、違うんですか?」
愉快そうにハインツは笑う。
「おい…お前らだってあいつのこと言えたようなもんじゃないだろ。」
むっとした顔でハインツに言った。
「私は飛ばされただけです。」
ハインツはしれっと返す。
「ああそうだな。お前以外は似たようなもんだろ。これでいいか?」
「あなたに拾われた奴ばかりですからね…。」
まあ、とシグルーンは呟いた。
「俺も人のことは言えんがな。」
「おや、拾われてきた子だったんですか?」
「違う。ていうか、お前知っててそういうこと言うなよ。」
「むしろ、実の子供でしかもそんだけ強ければ兄上たちはさぞ気に食わないでしょうねえ。」
「だからこんな損な役回りをもらいに行くんだろ。どうせ途中で死んで来いくらいに思ってるぜ。強くて賢いのが仇になったわけだ。」
「私は強いしか言ってないですけどね。むしろ賢いのはあなたの副官です。」
「あれ?俺の副官って2人もいたっけ?」
「いません。あなたの横にいる1人だけです。」
「賢い?誰かと間違えてるんじゃないのか?鏡見て来い。」
彼らの少し先の廊下の端に扉があった。
「はぁ。ま、いいでしょう。着きましたよ。」
「ああ。扉の向こうの愚か者どものあほ面でも拝みに行くとするか。」
「はは、その点は同感です。」
扉が、開く。