プロローグ 2
カツ―ン、カツ―ンと硬い足音が深い地下牢の壁に反響する。地の底まで下っていくような狭苦しい螺旋階段を2人の人影が下っていく。先を行く人影の持つ灯りは2人の影を怪物じみた大きさにし、大きく揺れるその影は、闇をより際立たせていた。
半ば霜に覆われた鋼鉄の扉の前に立つ。ただでさえも寒々しい最奥の牢獄は極寒の暴挙によってさらにその威容を際立たせていた。
「…あ、あの、こここちらでごぜえますだ。」
牢番はガタガタと震えながら、灰色の扉を示した。彼の持つランプの灯りは震えて、今にも消えそうだった。灰色の石畳に霜が煌めいては闇に沈んだ。牢番はちらちらと怯えたような視線で主にここから立ち去ってもよいかと訴える。彼が震えているのは無論寒さだけではあるまい。この最奥の戸の奥に潜む化け物か。はたまた、化け物の怒りか。はたまた…化け物を捕らる彼の主その人に、怯えていたのかも知れなかった。
主はそんな彼の有様を一瞥すると口の端に薄い笑いを張り付けた。
「無論、構わんとも…。ああ、鍵は俺に渡して行け。灯りもな。」
あからさまにほっとしたように牢番は霜の降りた扉から後ずさり、愛想笑いを張り付けた顔で主に鍵を手渡した。
「で、では、あっしはここで…」
ふらふら揺れる灯りを伴って牢番は立ち去ろうとした。
「灯りは置いて行けというのが聞こえなかったのか?」
「し、しかし、これがねえと、その、ああの…」
主の怒りを感じ取り、後半は尻すぼみになったが、それでもなお闇は怖いらしい。灯りを置いて行こうとはしない。
「貴様の用など知らぬ。闇が怖ければここに待っていれば良いだけの話だろうが。」
ガチャリ、と音が鳴って牢の扉が開く。霜や氷が押しつぶされて軋んだ叫び声をあげた。階段を半ば上りかけた牢番が押し殺した悲鳴に近い音で、息を飲んだ。牢の中には霜が降り、低い天井からは氷柱のなりそこないが所在なさげに垂れていた。その真っ白な牢は内側からランプの灯りを反射して、半ば暗がりに沈みかけて、震える灯りが闇を濃くしていた寒々しい通路に牢の内側から光が漏れた。