Icy memory 2-1
冬の間に厚く積もった雪も、南側の斜面では所々溶け始めていた。とはいえ、それでもまだまだ寒いうえに、高度も高いので、溶けたといっても表層の一部だけではあった。これほどの高度にもなると、一年中雪が解けないのが割合普通だった。
冬の積雪の中半ば埋まるようにしてかけてきた子供も雪の上を駆け下ってこれるようになったようだ。
子供は冬の間は雪に埋まって見つかりにくかった扉をたやすく見つけて、開ける。が、扉は凍っているのか開かない。
「ただいま!」
そう言って子供は乱暴に扉を蹴る。何かが壊れるような音がして、扉が内側に空いた。
「…ここはお前さんの家じゃないんじゃがのぅ。それと、この扉は外側に開くようになっとるんじゃがの…。」
疲れた顔で老婆が敷き布を子供に渡す。
「でもまちに行ったらわしにほうこくにこいって言ったのはばあさまだよ!」
すたすたと家の中に入っていくと、何の遠慮もなく老婆の出した敷き布の上に座る。
「いつもは来んじゃないか。だいたい誰か別んが来るがの?聞けばお前、いっつも町に下りた後はすぐに寝とるらしいじゃないか。」
老婆は自分も居住まいを正し、どっこらせと子供のそれより分厚い敷き布の上に座った。
「いっつもっていったってまだ3かいしか行ったことないもん。」
「ほいで、今日がその3回目と。何ぞあったんかいの?」
子供は敷き布を指でつまんで厚さを確かめた。ちら、と老婆を見る。
「だめじゃ。これは年寄り用なんじゃ。」
ぶすっと子供が膨れる。
「いつもはとしよりって言ったらおこるくせに…。」
「何か言ったかいの?」
「なんでもない!」
「なら、さっさと話さんか。はようせんと、寝てしまうんじゃないかのう?」
「ねないもん!」
「わかったわかった。ほいで?」
「あのね、あたしね、今日まちにいったじゃん。」
「うむ。」
「でね、でね、まちで小さい子にあったんだよ!」
「まぁ、街じゃし居るじゃろうの。と、いうか、お前も小さい子じゃがの。」
「いいの!あたしは町に下りれるくらい大きい子なの!」
「はいはい。ほいで?」
面倒くさそうに老婆は先を促した。