3-5
再び彼らが階下へと足を進めて行くとやがて、地下へと続く鉄扉の前にたどり着いた。しかし、シグルーンはその扉の前を通り過ぎていこうとする。
「え?あの…殿下?」
慌ててアリアは彼を呼び止めるが、シグルーンは聞こえなかったかのように歩みを進めた。アリアは鉄扉とシグルーンの背中を見比べる。
と、シグルーンが振り向いた。
「殿、下…?」
「ああ、殿下っていうのは俺のことか。いや、すまない、俺を殿下って呼ぶのは…いや、いい。どうした?」
「地下に行くのでは?」
「いや、保管所は別。」
「そうなんですか…。」
アリアはほっとしたように彼の後を追った。
「あ、あとな、殿下と呼ぶのはやめてくれ。」
振り向いたシグル-ンが思い出したように付け足した。
「では、なんと呼べば…?」
「シグ、でいい。」
「は?」
アリアは目を見開く。それを見てシグルーンが軽く笑った。
「なんというか…あれだな、お前、目、開けると印象変わるな。」
すぐに見開いた眼を戻し、眉を顰める。
「…だから開けてなかったんですよ。そうすると、多少はそれらしく見えるでしょう?威厳があるようにとまでは言いませんが。」
アリアはため息をつきながら答えた。
「開けてなかった?」
「ほら、あの最初に逢った時の…。」
「ああ。なるほど。牢番が腰抜かして階段から落ちる程度には威厳があったな。」
アリアは憮然とした。
「何が言いたい?」
「はは…。うん、お前敬語じゃない方がしっくりくるな。そのままがいいな。」
「誤魔化さないでくれない?」
「…順応早いな…。」
「まあ、それはいいとして、本当にいいんですか?上下関係とか、他の隊士に示しがつかない、とかはないんですか?」
「ないない、俺んところはそういう隊じゃないしな…元々。」
「はぁ。では、遠慮なく。」