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プロローグ
目の前に霜に覆われた鋼鉄の扉がある。だが、霜はやがて消えるだろう。つまりは、どうにもならないのだ。
窓はなく、扉、真っ白になるまで霜に覆い尽くされた、ただそれだけのある部屋だった。身じろぎをすればガチャ…と凍った鎖のこすれる耳障りな音が鳴った。眉をひそめ、それから、ふと溜息をついた。凍えるように寒いというのに、落とした吐息は白さのかけらもなかった。
白い、白い部屋だった。だが、とても狭く、人ひとりがようやく横になれるかどうかという広さだった。元は汚らしい紙魚にまみれた石壁だったものが、下から這い上るような霜によって純白に輝いていた。過去に幾程の吐しゃ物や血にまみれたとも知れない土がむき出しになった床は、凍てつき、その汚れを氷の下に押しとどめていた。ただ、そのすさまじい冷気も、低い天井にはか細く垂れ下がった氷柱を幾筋か垂らしただけで、汚濁を押しとどめることはかなわなかった。