出会い7
「ついた。今回の蟲の大本はここにいる」
花鳥さんが呟く。今まで花鳥さんに離されないように必死に走っていたため、僕は呼吸を整えるのに精一杯だった。荒事の依頼もあるので、学園では戦闘実技の講義が多々ある。僕は戦闘の講義よりも、魔術の知識面の講義を優先していた。魔術の発動速度を速める方法を見つけるため、というもっともらしい理由つけてそちらを優先していたが、純粋に戦闘や、直接身体を動かすことが苦手という理由もあった。この苦手を克服することを後回しにしてきたことのつけが回ってきてしまったようだ。
「このサイズはまずい。全体を一度に消すのは不可能」
少し先にいる大きな蟲を見ていた花鳥さんが、淡々としているが、焦りのようなものが感じられるような声でいう。
「どうしてまずいの?」
呼吸を整え終えた僕は、全体を一度に消すのが無理なら、少しづつ削っていけばいいのではと考え、質問を返す。
「蟲たちには、それらを生み出している蟲がいる。あれがその大本の蟲。それには核というものが存在し、そこを消せば蟲も消滅する。逆に核を消せないと、すぐに復活してしまう」
「核を探す方法は?」
「あるにはあるけど、かなりの時間、あの蟲を観察する必要がある。その時間を蟲たちがくれるとは思えない」
そういって、小さな蟲の大群に目を向け、その一部を魔術を使って消す。
「僕が蟲を引きつけられればいいのだけど。小さい蟲は僕に触れられないようだし」
落ちていた木の枝で蟲を殴りつつ――こちらからは触れられるらしい。そして意外と有効で、その蟲を倒すことができた――、言う。
「小さい蟲から触れられないって本当?」
花鳥さんが視線を向けて、聞き返してくる。
「うん」
「なら、いけるかも」
そう言った花鳥さんが少し薄くなるように感じた。
「私の存在が薄くなるように、魔術で情報の書き換えを行った。完全に消えた訳じゃないから一人しかいない場合は効果が無い。けど、他に何かいる状態なら、そっちに意識が集中するはず」
情報を書き換える魔術が存在することは知っている。物質の位置などの書き換えはよく使われている。しかし、存在などの情報を書き換えられることは知らなかったし、思いもしなかった。一瞬、その魔術の仕組みについて質問したくなったが、今はそんなことをしている場合ではない。
この魔術の効果はてきめんだった。花鳥さんに向かっていた蟲たちが、すべて僕の方に向かってくる。
木の枝で反撃しているが、あっという間に取り囲まれてしまった。先ほどから、いっさい攻撃を受けていないが、周りを囲まれると正直不快だ。
その蟲たちは僕の周りを平面的に取り囲み終わると、次は立体的に取り囲んできた。僕に攻撃してきた蟲が落ちて下にいる蟲に乗っているだけなので、意図してやっていることではないと思うが、不快感はより募る。
顔の高さまで蟲に囲まれたかと思うと同時に、その蟲たちが急に苦しみだし、動かなくなり、しまいには消えた。
視界が明瞭になり、周りを見渡すと、大きな蟲も見あたらなくなっていた。
花鳥さんがある方向に手を向けているのが見えたので、僕は声を掛ける。
「倒せたの?」
「蟲の反応が完全に消えたので、おそらく」
そういって、僕を見つめてくる。なんだろうか。そんなに見られると、恥ずかしいのだけど。
「あなたは、人型の蟲ではなかったようね。昨日と今日はごめんなさい」
そう言って謝ってくる。
「でも、あなたのような存在は聞いたことがない。私の魔術が効かなかったことといい、蟲の攻撃をうけなかったことといい、不可解なことがたくさんある。蟲やこの止まった世界に私より詳しい人がいるからその人に問い合わせてみる。その返答が返ってくるまでは、あなたをどうするかは保留」
そう言って去っていく花鳥さん。
僕としては聞きたいことがたくさんあったので、引き留めようと思ったが、やめておいた。保留ということは、また、会うことができるのだろうし。同じチームなのだから、学園でも会う機会があるだろう。