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出会い6

「ん……」

 昨日早く寝たこともあり、僕は世界が止まる前に起きることができた。今日は美夏みかねぇが来ていないようだ。来ないことは今までも稀にあったし、昨日不機嫌になっていたこともあるので、そんなに不自然なことではない。

 僕は手早く支度をし、四時、世界が止まる時間になる前に家を出る。昨日と同じように襲われるなら、家の中ではまずいことになりそうだったからだ。


 家を出て少し経ち、四時を回った。


「やはりあなたが。人型は初めて見る」

 そんな声がした。その方向に向くと、昨日止まった世界で遭遇した人物がいた。昨日同様、体型を隠すような大きめのローブと、頭のほとんどを覆うフードをかぶっている。そのため、昨日と同じ人物だと確証は持てないが。

 その人物は昨日と同様に、僕に対し何かを放ってきた。身構えていたが、避けることはできなかった。昨日と同様、その何かが僕に触れる直前に消え去る。その直後、同じような何かが僕の目に複数うつり、同様に消えた。最初の一つに気を取られていたせいで、気づかなかったが、相手は連続で攻撃してきていたようだ。

 僕は相対している人物に、無防備に近づいていく。相手の攻撃が一切効かないようだからである。その人物は、逃げるという選択をせずに、一心不乱に何かを放ってくる。

 相手の格好であっても、顔が確認できそうな距離まで近づいたとき、視覚の端に、こちらに向かって――おそらく相対している人物に向かって――、飛んでくる物体を見つけた。

「――!」

 僕は、声にならない声を発し、とっさにその人物を押し倒していた。そんな僕に何かがぶつかった気がした。気がしただけで、ぶつかった感覚や痛み、違和感などはない。

 ふとあたりをみると、虫のような何かが落ちていた。虫にしては大きすぎるし、虫よりも嫌悪感を抱くような姿をしていた。

 あれが僕にぶつかってきたものだろうかと考えていると、その虫のようなものが僕に向かって動き出し、消えた。

「あれは……」

 目線を前に戻す。僕によって組み敷かれている人物が、虫のようなものがいた箇所に向けて手を突きだしている。やはり僕に向けて放たれていたものと同種のもので、目の前の人物が放ったもののようだ。

 目の前の人物を観察する。押し倒した時の衝撃のせいか、フードが脱げてしまっている。この顔は花鳥かとりさんだよなぁ。やはりここ数日のことと、止まった世界のできごとは関連があったのか。でも学園で見た彼女、こんなに無表情だったっけ。それに一体何が目的で僕をおそったのだろうか。あと、あの虫みたいなものは一体……?

 聞きたいことは色々あったので、まず何から聞こうかと考えながら、口を開こうとすると、

「まず、どいて欲しい」

 と言われた。

 その言葉を聞いて僕は瞬時に立ち上がった。

 先ほどまでの体勢を思い出し、顔が赤くなる。押し倒している僕、押し倒されている花鳥さん。花鳥さんの方は、攻撃のために力をつかっていたからだろうが、すこし息切れするように呼吸して、上気した顔をしていた。

「さっきのは何?」

 顔を赤らめていることを悟られたくないこともあり、僕は花鳥さんに質問した。

「先ほどの存在が何かという意味なら、あれはバグと呼ばれるもの。この止まっている世界でのみ認識できる存在。姿形は色々。放っておくと、現実世界に悪影響が出る。昨日と今日、私はあなたが蟲だと思って、攻撃していた。さきほどの様子から違うかもしれないと思って、今は質問に答えている」

 花鳥さんは、現在の無表情にふさわしい淡々とした声音で説明する。

「その蟲を倒した方法が何かと言う意味なら、触れたものを消す弾を放つという魔術。これはこの世界でのみ使える。私が持っている力の中で蟲に対する最も有効な手段だけど、なぜかあなたには通用しない」

「君はいったい?」

 淡々と語る花鳥さんに、僕はその質問をせずにはいられなかった。しかし、その答えに対する返答はなかった。

 彼女は僕から目線をはずし、

「くる」

 と呟いた。

 花鳥さんの目線を追うと、無数の蟲がかなりの速さで僕らに迫っていた。

 まずい。そう思いつつなんとか最初の数匹を避けた。だがまだ数十匹も後にいる。数匹避けただけではどうにもならない。僕は避けきることは不可能だろうと判断し、咄嗟に守る姿勢をとり、衝撃に備える。しかし、予想した衝撃はこなかった。

 目前まで来た蟲が、僕に触れる直前、突如勢いを失い、ことごとく地面におちていく。地面に落ちた蟲が再度僕に向かってくるが、同じように地面に落ちる。

 もしかして僕には触れられないのか。そんな風に思う。花鳥さんをかばった時も僕に直撃するように蟲が飛んできていたはずなのに、その衝撃はなかったし。

 蟲たちが僕の目の前にたまっていく。

 突如、その蟲たちが消え去る。僕の前の蟲を消したであろう花鳥さんの方をみると、何も起きていないように先ほどに位置に立っていた。その足下には動かなくなった蟲が大量に落ちている。

 この数を一人で? 僕は、蟲を見ていただけで何もできなかった自分を情けなく感じた。


「今ので大体の場所がわかった。向こうには捕捉されているから一旦逃げるのも厳しいし、今度はこちらから仕掛ける」

 そう言うと、花鳥さんは走り出した。僕も花鳥さんの後を追う。

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