出会い5
僕は自宅のベッドでふてくされていた。
実技試験であまりいい結果がだせず、その後の身体検査もあまりいい結果でなかったことが大きいが、それだけではない。
「結局、話せなかったな」
実技試験の直後、花鳥さんに話しかけて謝ろう、あわよくば魔術の発動速度に関して何か聞こう、と思っていた。しかし、結局、話し掛けることができなかった。話し掛けようとするたび、昨日のこと――花鳥春という少年のこと――が頭をよぎり、未知のもの、怪しいものに対する恐怖心が勝ったためだ。また、花鳥さんの方も、なんとなく僕を避けているように思い、余計に声を掛けづらかった。
このままではまずいと思い、今日家に帰って来てから、花鳥さんに関する話を美夏ねぇに何度も振ってみた。結果は芳しくなく、花鳥さんについて、美夏ねぇは全く疑問に思っていないという確認がとれただけだった。花鳥さんについて何度目かの話を振った後、なぜか美夏ねぇが不機嫌になったので、僕は自分の部屋に逃げ込んだ。
まわりの記憶が間違っているのか、僕の記憶が間違っているのかのどっちかである。ただ、結局のところ、この問いに意味はないと思う。まわり全ての記憶がおかしくなっているとしたら、実際には間違っていたのだとしても、その記憶は僕を除くまわりの人々からすると正しい、間違っていない記憶になるからだ。
現状考えなくてはならないことは、「どうしてこうなったのか」、だろう。おかしなもの、普段通りのものではないという同一性しかないが、なんとなく、今日の朝四時頃、止まった世界でのできごとが関連しているのではないかと少し思う。そうだとすると、明日も止まった世界で何か起こるのではないか。そう考えた僕は、色々と考えることをやめ、早く床に就くことにした。