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魔術師見習いと止まる世界  作者: 鞍多 奧夜
管理者(アドミニストレータ)
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管理者2

 ある朝――――。


はるさんは?」

 学園に行く準備を終え、先に家の前に出て待っていた僕は、一人で家から出てきた美夏みかねぇに尋ねる。

「え、誰?」

 美夏ねぇが答える。最近、二人の間で軽い諍いが絶えなかったので、美夏ねぇが怒っているのではないかと思い、問いかける。

「美夏ねぇまた怒ってる? 春さんが何かした?」

「え、何のこと? 誰?」

 その声音には戸惑いの色があった。これは違う。美夏ねぇは本気で僕が何をいいたいのか分かってない。

 僕はそう判断し、

「ごめん、何でもない。寝ぼけてた」

 と誤魔化すことにした。

「ちょっと忘れ物したから、戻るね」

 僕は続けてそう言うと、家の中に戻り、春さんの部屋の前に向かう。部屋の前につき、一瞬の躊躇を経て、僕はその扉を開けた。

 そこには何もなかった。人が生活していれば自然に生まれる生活感といったものが一切ない。それどころか、寝具や椅子といったものに至るまで、本当に何もなかった。

 僕はその場にへたり込んでしまう。美夏ねぇと話した感触から、ある程度予想はできていたことではあったが。

「アキ君。この部屋、空き《・・》部屋に何を忘れたの?」

 僕の後を追ってきたのか、美夏ねぇに声をかけられる。その言葉は僕に追い打ちをかけるのには十分すぎるものだった。

「ごめん……な、何でもない」

 僕はふるえる声でそう絞り出すと、足に力をいれ何とか立ち上がった。

「……学園に行こうか」

 心配そうに見つめてくる美夏ねぇと共に僕は学園へ向かった。

 今日ばかりは、後ろから抱きついてくる美夏ねぇの温もりがありがたかった。


 学園でも春さんのことを覚えている人はいなかった。

 まるであの時――春さんが転入してきた時――のようだと僕は感じた。だとすると、現状は春さん、もしくは春さんの関係者が起こしたものなのではないだろうか。春さんが起こしたことだとすると、僕には記憶が残ることを知っているにもかかわらず、何も伝えずに消えたのか。僕は大きな寂しさとほんの少しの憤りを感じていた。


 その日の帰り際、僕は黒河くろかわさんに話しかけられた。

「これ」

 唐突に僕の前に手紙が差し出された。

「私のおじいさまから、あんたに渡すようにと言われたわ。帰る間際という時間まで指定された上で」

 何だろうか。会ったことはないどころか、黒河さんにおじいさんがいることすら知らなかったのだが。

 今朝のできごとによっていまだに沈んでいる僕は、返事もせず、手紙を受け取る。そしてどうでもいいやくらいの気持ちで手紙を開く。

 そこにかかれていた情報は、僕を驚かせた。

 手紙には「春という人物はそこにいる」という文章と、地図のようなものが載っていた。

「黒河さんのおじいさまっていった……」 

「秘密」

 僕の発言にかぶせるように、黒河さんは拒否を返した。かなり強く、しかし淡々とした口調であり、ただ強く言われるよりも余計にとりつく島がないように感じられた。

 気にはなるが、しかたない。僕は諦めて帰路についた。  

 

 学園からの帰り、ずっと迷っていた。

 行くべきかどうか。

 家についても迷い続けていた。


「今日学園ではずっと寂しそうな顔をしてた。あと、少し怒っている感じもあった」

 家についた後、僕の後ろからはなれると同時に、美夏ねぇがそう言ってきた。

「今は迷っている感じかな」

 美夏ねぇの言葉は続く。

 美夏ねぇは適当なようでいて、本当によく僕を見ている。

 僕は感心しながら話の続きを促す。

「アキ君が何を迷っているのか分からないけど、お姉ちゃんは、アキ君のしたいようにしていいと思うな。それに」

 美夏ねぇはそこまで言ってからためて、

「何があっても私だけは、アキ君の味方だよ」

 と言ってくれる。

 美夏ねぇは迷っていた僕の後押しをしてくれた。

 僕はこの手紙に書いてある箇所に行ってみようと決心した。

 勝手に消えた春さんに文句の一つでも言ってやりたかった。いや、それ以上に、ただ単に会って話がしたかった。

「明日からちょっと出掛けてくるね」

 僕は美夏ねぇにそう伝える。

「お姉ちゃんもついていっていい?」

 聞かれると思っていた。

「駄目っていってもついてくるよね?」

 僕は疑問に対し、肯定の意味を込め、疑問で返した。この姉がついてこないわけがない。

「そうだね。今はましな顔になったけど、今日ほとんどひどい顔していたから。心配」 


 次の日、手紙に記載された場所に向け、美夏ねぇと二人で家を出た。

 その日の夕方には目的地近くの村に着き、そこで宿をとることになった。

 道中、僕は何故美夏ねぇの同行を許可したのだろうかと思うことが多々あったが、それは割愛する。

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