出会い4
「きゅぅー」
可愛い声が聞こえてくる。声のほうを見ると、黒河さんが倒れている。彼女の前には、大きな炎が存在している。現在、炎の魔術の実技試験中なので、その炎は黒河さんが出したものだろう。
「速度A、威力A以上で問題なし。威力に関しては、学園生の中でもかなり上位。しかし、相変わらず持久力は最低のE、といったところか」
そう言って、試験担当の指導員が記録をつける。
今回の実技試験は、魔術で炎を出すといったもの。その魔術を通して、実技試験で測定すべき、魔術を発動するための速度、魔術の威力、魔術の持久力――今回の場合は、魔術の使用可能回数――を調べる。
「栗原美夏、速度B、威力B、持久力はA判定の規定回数クリア。規定の能力には達しているな。何でおまえは、実績を積んで、魔術師になろうとしないんだ。いや、愚問だったな」
今回の試験について考えているうちに、美夏ねぇの試験が終わったようだ。行動こそあれだが、美夏ねぇは魔術師としての能力要件を既に満たしている。実績を積まないのが問題であり、その原因は僕らをはじめとしたチームメンバーにある。
「次、菅原秋彦」
僕が呼ばれ、担当指導員の前まで行く。
魔術を使うため意識を集中した。
魔術を使うためには四つの行程が必要だ。まず、使う魔術の元になるもの、『クラス』と呼ばれるものを探す。そして、それを複製する――複製されたものを『インスタンス』と呼ぶ。『インスタンス』に位置などの情報を付加し、最後に現実へ反映するといった四工程である。
僕は、『クラス』を探すのが苦手だ。限りなく存在する『クラス』、僕の認識では本当に数え切れないほど存在しているものの中から、どうやって該当するものを探したらいいのか見当もつかない。
美夏ねぇに聞いてみても「なんとなく」としか教えてもらえなかった。あまり仲良くない黒河さんにも恥をしのんで聞いてみたが、不思議なことを聞く奴だなという目をされ、「そもそもクラスはそんなに多くない」と言われてしまった。
今回も炎の元になる『クラス』を頑張って探してみたが、やはり見つけられない。いつまでも探している訳にいかないので、僕は方針を変える。数多ある『クラス』の中で、僕が簡単に見つけられるものが二つだけある。「現象」と「物質」だ。
僕は「現象」を見つけ複製して、『インスタンス』を作る。
作成した『インスタンス』に、情報を付加していく。「現象」には、ほとんど情報がないので、かなりの手間になる。持てる知識を総動員し、炎っぽい情報を付加する。その後、位置情報を付け加える。
最後に、その『インスタンス』を現実に反映する。
美夏ねぇが試験全体に掛かった時間の、数倍をゆうに越える時間を使い、僕は炎を生み出す。やはり遅い。
持久力の試験でもあるので、僕は、同じことを同じ時間をかけて繰り返す。
「威力B、持久力は時間がかかったがA判定の規定回数をクリアでいいだろう。ただ、速度が遅すぎる。判定としてはEだが、その下があれば、そっちになるといったところか」
魔術師として必要な実技技能は、速度、威力、持久力全てでB以上である。このままでは、たとえ実績を積んでだとしても、魔術師として認められない。前回から進歩していないこの結果に僕は肩を落とす。魔術を速く発動する方法を、なんとしても考えなければと再度決意した。
「最後に、花鳥春」
試験担当指導員によばれた花鳥さんが、指導員の前までいき目を閉じた。目を閉じてすぐ、花鳥さんの前に炎が現れた。そしてそれが何度か続いた。
「速度A、威力C、持久力はA判定の規定回数クリア。学園に入学したばっかりなのにすごいな」
僕はその様子を見て少しへこんだ。ただ、その魔術の発動速度については、非常に興味がわいた。そのため、機会を見つけて聞いてみようと思った。昨日、今日のことはまだ完全に整理できたわけではないけど、大分失礼な態度ではあったので、謝ることを兼ねて話しかけてみるのもいいかなとも思った。