略奪者15
にらみ合う二つの勢力。
「助けに来たよ。帰ろう」
片方は助けにきた男たち。
「嫌よ。この方の近くを離れたくないわ」
もう片方は、盗賊にさらわれた女たち。それに加えてその女たちに守られている盗賊の首領。
似たようなやりとりが、随所で行われている。
どうしてこうなった。
もはや、ただ大勢で痴話喧嘩しているだけじゃないかな、これ。
それは置いておくとして、この状況をどう解決するかを考えないと。
わたしは、思案しながら、集団からさりげなく離れる。
「アキヒコ、助けにきた」
少し離れて二つの勢力を見ながら、どうしたものかと考えていたわたしに、声がかかる。
そちらを向くと、春さんと美夏ねぇ、黒河さんの三人がいた。なぜか美夏ねぇは男装していた。
「え、何で? 来ないで欲しいって伝えたのに」
「そのつもりだった。けど、美夏さんを止められなかった。一人で行かせるよりは良いと判断した」
かすかに困ったような顔で美夏ねぇを見つつ、春さんが答えてくれる。
「アキ君をこよなく愛する私は、他の男性に心を奪われることはない。だから大丈夫。念のため、男装してきたし」
春さんに続いて、美夏ねぇが言葉をはなつ。
全く理にかなっていないし、男装する意味もわからない。しかし、こうも堂々と言われると、何となく大丈夫な気がしてくるから不思議だ。
実際、首領が目に入っているはずだが、三人はなんともなさそうである。
「あんな奴のどこがいいのかしらね? 全く分からないわ」
三人を見て思ったことを肯定するような一言を、黒河さんがつぶやく。
でも、何でだろうか。何故、三人は大丈夫なんだろうか。
「異性の魅力を感じなくする魔術を、わたしたち三人にかけてある」
わたしが疑問に思っていることを察したのか、他の二人に聞こえないような小さな声で春さんが伝えてくる。
そんな魔術も使えるのか、すごいな。それも、自分だけじゃなく、他の二人にも。結構大変だろうに。
「なるほど」
色々思うところはあったが、わたしも小声で、簡単に答え、
「で、どうしようか、この状況。原因分かったりする?」
優先して対処すべきことについて問いかける。
「軽く見ただけで、首領の異性への魅力が高いことは分かる。見ただけで分かるのだから、異常と言えるほど高いと思う。でも、どうしてそんなに高いのかが分からない。蟲の可能性もある。ただ、そんな指令や情報は知らされていない」
春さんにも、明確な原因は分からず、知らされてもいないらしい。
再度、対峙する二つの勢力に目を向け、考える。
春さんが使っている魔術を女性たちに使ったらどうかな。魅力を感じなくなっても、既に惚れていたら意味がないのかも。何か他にいい方法は……。
色々と考えていると、ふいに、世界が止まるのを感じた。
少なくとも止まるような時間帯では無いはずだ。何か考えがあって、春さんが行ったのか。
そう考えながら、春さんの方を向き、目で問いかける。しかし、春さんも心当たりがないようで、首を横に振ってわたしに返答してきた。