略奪者13
「二つ目」
僕の様子を全く気にしていない――体勢的に僕の様子が見えていないから仕方ない――春さんが言葉を続ける。春さんは思った通りのことを言っただけで、変な意図は全くなかったのだろう。
「『現象』に、温度を上げるという機能だけを付加して、魔術を使ってみて。もちろん位置情報はいるけど」
「え、付加させるのそれだけでいいの?」
僕は困惑しながら聞き返す。
「うん」
春さんの返事を聞き、僕は言われた通りに魔術を使う。付加する情報が、温度を上げるというものだけなため、時間はあまりかからない。ふだんよりかなり短い時間で魔術を発動させ、目をあける。
その現象を出したところには何もなかった。少なくとも視覚的には認識できない。
「どこ?」
春さんが尋ねてくる。
僕は、少し遠くのある空間を指さし、
「あのあたり。全く何も見えないけど」
と告げる。
春さんはその言葉を聞くと、僕から立ち上がり、そこに向かう。
心地良い重みがなくなり、僕は少し寂しかった。
初めての試みで危険かもしれないから、魔術の効果が出る場所を遠くにした。でも、近くにしとけば良かったかな。それだったら、あの体勢のままだっただろうに。
僕は先程までの状況を名残惜しく思いながら、春さんと同じように魔術の効果がでているであろう場所に向かう。
春さんは、魔術がある場所を見つけたようだ。さきほど炎をつついていた棒を、何もない空間に向けて動かしていた。事情を知らない人が見たら、なんとも間の抜けた光景であろう。
「触ってみて」
炎の時と同様に、春さんが棒を差し出してくる。
「温かい」
熱いとまではいかないが、その棒は熱を持っていた。
「戦闘用の魔術としてはこれで十分」
「どういうこと?」
春さんの言葉の意味がいまいちつかめず、僕は問い返す。
「戦闘では機能を持たせるだけで、十分通用する。わざわざいらない情報を付加する必要はない。逆に他の情報を付けない方が、敵から分かりづらくていいとも考えられる」
「なるほど」
僕は納得し、返答する。
「あと、アキヒコは魔術を独自に作ることができそう。さっきやったように、温度を下げる炎の魔術を作ったりできる。私にはそんなことはできない」
「そうなんだ」
冷静を装い返答したが、僕の心は躍っていた。
魔術を使う上での大きな問題が解決したのだ。その上、独自の魔術を作作成できることも分かった。嬉しくない訳がない。
さて、どんな魔術を作ってみようか。まずは、魔術や自然現象について色々調べる必要があるかな。学園の資料室を使わせてもらおう。
これからのことを考えている僕に、春さんが、
「『クラス』の整理を、依頼までは頻繁に行いたい。他人の『クラス』を整理したのは初めてだから、うまくいくか少し不安。それに、今回の依頼に必要な魔術を認識しやすくする必要もあるだろうし」
と伝えてきた。
ふむ。頻繁に春さんを膝にのせることになるのか。それは、素敵なことだな。
僕は先程までの、春さんの感触や重み、体温を思い出しつつ、そんなふうに思った。
こうして、依頼までの間、ほぼ毎日春さんを膝の上に座らせることになった。時には女装した状態のままで――こちらも依頼に必要なことなので仕方ない。
この様子を美夏ねぇに見られることがなかったのは奇跡だと思う。見られた時のことは想像すらしたくないけど。