略奪者12
「二つ試してみたいことがある」
春さんはそのまま言葉を続ける。
「一つ目。わたしが認識できる『クラス』は整理できる。それを行おうと思う」
春さんは僕の腕をとる。僕が不思議に思っていると、その手を、春さん自身の頭においた。
春さんは一体何をしたいのだろうか、とりあえずなでればいいのかな。
僕はそう思い、春さんの頭にのっている手を動かす。
「ふぁっ」
春さんが不思議な声を出し、僕の方を見て、
「何してるの?」
と春さんが問いかけてくる。かすかに頬を染めているように見えなくもない。
「いや、なでて欲しいのかと思って」
「違う。さっき言った『クラス』の整理のため、こうすることが必要」
そういって春さんは視線を前に戻し、
「また『クラス』の検索を行ってみて欲しい」
と言う。
僕はその言葉に従い、『クラス』を探し始める。
そういえば、何を探せばいいのだろうか。
『クラス』の検索を開始してすぐに、僕はそう思った。しかし、その疑問を春さんに問いかけることにはならなかった。
『クラス』たちが高速で動き回っていた。距離や時間の概念があるわけではないので、実際に動いている訳ではない。頭の中で物事を整理する時、必要なものは近くに、いらないものは遠くもしくは頭から消す感覚。それを勝手にやられているような感じがした。あまり気持ちの良い感覚ではない。気持ち悪いと言い切る程でもないけど。
しばらくすると、認識しやすいところにある『クラス』が動かなくなっているようだった。そのため、それを見てみることにした。その『クラス』は『水』というものだった。その後ろにも、『炎』など良く利用される魔術の『クラス』が並んでいる。
「一旦このくらいにしておく」
よく利用されそうな『クラス』が認識しやすくなっていて、少し感動していた僕は、春さんの言葉を聞き、目をあける。
「良く使われそうなものを、探しやすいところに持ってきた。ちょっと魔術を使ってみて欲しい」
「ありがとう。わかった、試してみる」
僕は春さんに礼をいいつつ、返事をする。
既に飛び上がってしまいたいほど嬉しかったが、春さんが上に乗っているため、できない。僕は、春さんに言われたように、魔術を使うことを試みる。
まず、見つけやすくなった『炎』を複製する。
複製したものに、位置情報を付け加える。そして、現実に反映する。
普段より遙かに短い時間で、魔術を発動する。
「春さん、ありがとう」
魔術が発動したことを認識した僕は、春さんを今以上の力で抱きしめる。うれしさのあまり、自分の魔術の結果を確かめることもせず。
「アキヒコ、苦しい。離して」
僕はとっさに手をはなす。そして、今の状況を思い出し、急に恥ずかしくなる。端から見れば、顔に朱がさす様子が見て取れたことだろう。
「ごめん」
「気にしなくていい。痛くはなかったし、嫌でもなかった」
その言葉を聞き、意味を理解して、僕はさらに顔が熱くなるのを感じた。