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出会い3

「なっ……」

 そういって、僕は座っていたイスから立ち上がる。

 相変わらず背中から抱きついていた美夏みかねぇが、「わわっ」と言った言葉を発し、少し困惑していた。


 僕が何に対して驚いたのかを説明するために、今日のこれまでの出来事を順を追って説明したいと思う。

 今朝、昨日と同じように、チームの部屋に呼ばれた。教授――僕らのチームの指導員――は、自身の研究以外に時間を使うことを嫌うので、二日連続で呼び出されるのを僕は意外に感じた。チームの部屋では昨日とほぼ同じ光景が繰り広げられた。美夏ねぇがやってきて僕に抱きつく、黒河くろかわさんがやってきて僕が睨まれる、といった具合に。ここまではある程度普段通りなので、昨日と変わらなくても驚くことではない。しかし、その後に起こった出来事が問題であった。

 なぜか昨日と同じように教授ともう一人の人物が入ってきて、

「こちら、花鳥かとりはるさん。今日からこの学園の生徒で、このチームの一員。後よろしく」

 と教授が言い、部屋を出ていったのだ。

 名前は昨日聞いたものと同じである。だが、教授の横にいる人物の容姿がまるっきり異なっていた。

 まず、性別が異なる。教授が「さん」づけで呼んだように、少女である。光の加減で、金や銀に見える透き通った髪をポニーアップにし、長めの前髪からのぞく顔は、文句なしに美少女といえるものだった。この美しいという点は、昨日の少年と共通していると言えなくもない。美しさの方向性が全く異なってはいるが。


「アキ君、いくら可愛い子だからって、そんな反応したら失礼だよ。あと、おねえちゃん以外に見とれるのは、姉としてちょっとショックだよ」

 立ち上がったまま少女を見つめている僕に、美夏ねぇが呟く。後半の部分は聞かなかったことにした。意味不明だし。

「いや、美夏ねぇ。昨日のこと忘れたの?」

「ん? 何のこと?」

 美夏ねぇは、とぼけているとかではなく、本当にそう思っている感じだった。黒河さんの様子も確認してみるが、とくに疑問には思っていないようだった。

 おかしい、二人ともなぜ現状をおかしいと思わないんだ。


「……やっぱり」

 はっきりとは聞こえなかったが、少女がそう呟いたように思えた。


 少女は少し思案するような顔をしていたかと思うと、思わず見とれそうな笑顔をし、

「花鳥春といいます。よろしくお願いいたします」

 と自己紹介を始めた。昨日の少年と同じように、その後色々な情報を伝えていたようだ。僕は昨日あったことと、現在目の前で起こっていることの整理ができずに混乱していて、少女の声はあまり耳にはいってこなかった。少女が話し終わるくらいになって、一旦昨日のことを考えないようにすることで、ようやく僕は自分をとりもどすことに成功した。


「伝え忘れてた。チームメンバー増えたことだし、今日能力試験やるって、カナちゃんが言ってた」

 少女が話しおわるのを見計らっていたかのように、再び教授がやってきて、必要な情報だけ言って去って行った。

 教授がカナちゃんと呼んでいるのは、この学園の学園長である。学園長と教授は幼なじみらしい。明らかに大人に見える学園長と、どうみても僕より幼く見える教授が幼なじみというのは、この学園の七不思議の一つだ。なお、学園長にこのことに関して質問した魔術師見習いの学園生が行方不明になったという噂が、まことしやかにささやかれている。


――閑話休題


 僕がどうでもいいことを考えていると、花鳥さんは黒河さんに

「能力試験ってどんなことをするの?」

 という質問をしていた。

 この後の時間帯には既に受けたことのある講義しか無く、能力試験まで暇だったため、僕も黒河さんの返答に耳をかたむけていた。

「実技試験と身体検査よ。まず、実技試験だけど、簡単な魔術を使い、学園生の能力を測る試験。これは毎回異なるから、今回の試験担当から詳しい説明されると思うわ。次に、身体検査だけど、一般的な身体検査とは全くの別物で、魔術師としての身体検査。やることは基本的に学園長とあって話をするだけ。学園長の研究は魔術師の能力に関するもので、魔術師を直接見ること、話すことで、ある程度の能力を割り出すことができるらしいの。一応魔術師の認定条件に能力の要件があるから能力試験なんて名前がついているけど、実質能力検査で準備をしておかなければならないことは特にないわ。こんなところかしらね」

 黒河さんが立ち上がりつつ、

「さて、私は魔術の歴史に関する講義を聞きにいくけど、花鳥さんはどうする? 一緒にいく? あそこの二人は暇しているようなので、学園に関する質問があるなら、聞くといいかも。都合よくこっちの話を聞いているようだし」

 と続けた。

「ひとまず講義の様子を見てみたい。ついて行っていい?」

 花鳥さんはそう返す。

「いいわよ」

 そう短く返し、黒河さんは部屋をさっていった。後を追うように、花鳥さんも部屋から出ていく。


 僕と美夏ねぇが取り残される。

 美夏ねぇは僕に抱きついたまま「試験に向けて弟分補給ちゅう~♪」とか言っている。

 僕は完全にやることがない上に、まわりに美夏ねぇしかおらず、集中して考え事ができる状況になった。僕に抱きついてきている美夏ねぇから意識をそらすこともかねて、僕は昨日起こったこと、今日起こったことを、頭の中で整理しはじめた。整理しきれないように思えるが、やらないよりましだろう。

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