略奪者10
「アキヒコ、あなたは『クラス』の検索が苦手。あってる?」
春さんは、僕に向かって唐突に質問をしてきた。
『クラス』の検索というのは、魔術を使うための四工程の最初、魔術の元になる『クラス』というものを探す工程のことだ。
「良く分かるね。その通りだよ」
現在、僕らは魔術を練習するための学園施設にいる。状況としては、僕の魔術の問題点及びその解決策について、春さんに教わりはじめたところである。ちなみに、美夏ねぇや黒河さんはいない。
「色々と聞くより、直接見せてもらった方が良さそう。そこに座って、炎を出す魔術を使おうとしてみて」
「わかった」
僕は、春さんに指示されたように座る。そして、魔術を使うことに集中するため、目を閉じる。
目を閉じてすぐ、膝に重さを感じた。
不思議に思って目をあけると、目の前にしっぽがあった。そのしっぽは、春さんの後ろ髪の一部がまとめられたものであった。
「何してるの?」
僕は春さんの行動が理解できず、質問する。
「アキヒコが『クラス』の検索を行うのを、詳しく観察するため、身体的な接触をしている」
春さんは僕の手をどかし、僕にのったままさらに近寄ってくる。
「手を回して」
そう言って、春さんは僕の手を自分の周りに巻き付ける。
「力をいれて」
僕は言われたとおり、春さんを抱きしめる。
春さんは、いつもの無表情で平坦な声であるが、どことなくうれしそうな感じで、
「よし」
と言った。
いや、良くないよ。
春さんの柔らかいところが、色々とあたっている。このままでは、僕の下半身の一部が大変なことになってしまう。
「? どうしたの?」
いや、不思議そうに首をかしげられても。
というか、かなり顔近いです。
春さんは僕に腰掛けたまま、僕の方をむいてきている。そのため、僕と春さんの顔は、かなり近くにある。
僕は顔を背ける。その顔は赤く染まっていることだろう。
「美夏さんがいつもアキヒコにやっていることだと思うのだけど。なんで、そんな反応になるの?」
春さんが問いかけてくる。
確かに春さんの言う通り、美夏ねぇにやられていることではある。とはいえ、恥ずかしいものは恥ずかしい。それに、いつもと立場が逆だし、相手もいつもどおりに美夏ねぇというわけではない。
ひょっとして、僕や美夏ねぇがうらやましかったのだろうか。それゆえ、こういった体勢になることを選んだのではないだろうか。そうだとしたら、その希望を叶えてあげてもいいかな。これから、魔術を教えてもらうことだし。
僕はそんなことを考え、春さんが問題ないなら、この体勢のままにしておこうと思った。
「まぁ、いい。とりあえず魔術を使おうとしてみて」
春さんは、この体勢をやめる気は無いようだ。
僕は、色々なものから意識を逸らすことも兼ねて、『クラス』の検索に集中することにした。