略奪者9
気持ち悪かった。それもとてつもなく。
親分と呼ばれる人物、盗賊たちの首領を見て、わたしが得た感想がそれである。
つぶれた鼻。離れすぎている目。その他の顔の部品も、わざと気持ち悪く見えるように作られているかのようであった。
「なんて、すてきな方」
となりからそんなつぶやきが聞こえてくる。声がした方を見ると、熱い視線で、首領を見ている。そのまま周りをうかがうと、その女性だけでなく、他の女性も同じような視線を送っているようだ。
皆、正気か。……ひょっとして、これが噂の女性を魅了する術なのだろうか。
わたしはそう考えながら、再度、首領を観察する。
やはり気持ち悪いとしか思えない。
さっきは顔にばかり気を取られていたが、体も醜い。その上、非常に悪趣味な格好をしている。特に目立つのが、首から下げられているペンダントであった。それは悪趣味というより、異常に不気味で、この世のものとは思えないほどのものであった。
「おや」
首領がそうつぶやき、わたしの方を見る。
まずい、わたしだけが熱い視線を送っていないことが、ばれたのだろうか。
わたしは内心焦り、他の少女と同じように首領を見つめる。
うぅ、見てるだけでも気持ち悪いよぅ。
「いつもどおりの対応をしておけ」
わたしの演技が上手くいったのかどうかは定かではないが、首領はわたしから目を離し、部下に指示をだす。
わたしたちは、首領の前から移動させられた。わたし以外の少女は、名残惜しそうに首領を見ていた。わたしもそれを仕方なく真似した。
一人ずつ牢屋に入れられる。性別を偽っているわたしとしては、個別なのはありがたいものだった。
さて、どうやらここが盗賊のアジトであるようだ。
わたしは、アジトの場所と首領の情報を伝えるため、魔術の準備をはじめた。今回の依頼に向けて、春さんに魔術について教えてもらったことを思い出しながら。




