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略奪者4

「今日はどこの店に行くの?」

 僕に抱きついている美夏みかねぇに問いかける。僕の姿――化粧してウィッグをつけ、昔の美夏ねぇの服を着ている姿――に、いつもより気を許しているのか、美夏ねぇの僕への密着度が非常に高いように思う。

「私も知らない。おすすめの店があるって、黒河くろかわさんが言ってたから、服を買う店は任せることにしたの」

 今日、僕が女装しているのは、依頼に備え、女装に慣れるということだけが目的ではない。依頼の時に着る服、女装した僕にあう服を買うという目的もある。

 その目的達成のため、僕、美夏ねぇ、はるさんの三人は、黒河さんと合流すべく、待ち合わせ場所に向かっている。

 それにしても、いつもと感じる視線が違うように思う。

 普段、美夏ねぇに抱きつかれていると、男性からは妬むような視線が多く感じられる。女性からは、不思議そうな視線や蔑むような視線を多く向けられる。

 今は、それとは異なる視線を感じている。男性からは熱のこもった視線、女性からは微笑ましい物を見るような視線だろうか。普段とは異なり、慣れていない視線なので、確証はもてない。好奇な視線ではないようなので、僕の正体が露見しているということでは無さそうだ。


「美夏ちゃんたちじゃない。三人そろって、今日も仲がいいわ……あら、今日は妹さん? 弟くんは?」

 ある女性が声をかけてくる。僕ら三人で学園に行くときに、よく会う女性だった。

「はい、今日は妹なんですよー」

 そう美夏ねぇが返答する。

 つっこみどころしか無い返答だった。しかし、正体をばらしたくなかった僕は、美夏ねぇの発言を訂正しなかった。

「そうなの。うーん、たまには、春ちゃんもかまってあげなさいな。家族なんでしょ」

 その女性は美夏ねぇにそう言う。

 春さんが家族という言葉は、あまり言われ慣れていない言葉だった。しかし、僕は少しも違和感を覚えなかった。僕が既に、春さんは家族の一員という認識を持っているからだろう。

 血のつながりだけで言うなら、僕も美夏ねぇや母さんたちとは他人だ。それでも、美夏ねぇたちは、僕を本当の家族であるかのように扱ってくれる。そんな風に接してくれるのが、僕は非常にうれしかった。春さんにも家族として接していこうと、僕は春さんがうちで暮らし始めてからすぐに思った。僕とは違い、春さんには本当の家族がいるのだから、迷惑かもしれないけど。

 その後、少し話をして、その女性とわかれた。

 結局、僕の女装はばれなかった。知られたくなかったので、少し下を向き、ほとんど話さなかったためだとは思うけど。


 しばらく歩き、集合場所に着く。そこにはすでに黒河さんがいた。

「あれ? 今日の主役は?」

 黒河さんは僕ら三人を前にしてそんなことを聞いてくる。やっぱりわからないよね。僕も鏡を見たときかなり驚いたし。

「ここ」

 春さんが僕を見つつ答える。

 なお、はるさんは歩いている間も、ずっと僕を見ていた。そのため、何度か置いてある物や壁にぶつかりそうになった。僕はその度に、春さんを助けた。その際、美夏ねぇの胸がいい感じに触れて気持ちよかった。このことは、今日のできごとのうち、数少ない良い思い出になるだろう。

「ほんとだ。よく見ると確かに」

 黒河さんは僕に顔をかなり近づけ、じっと見た後、そう言ってくる。

 身体を覆うようなローブを着ている黒河さんではあるが、近づきすぎて、軽く下を見れば、二つの大きな物によってつくられた隙間が見えそうだった。しかし、のぞくのはやめておいた。今日、僕の命運は黒河さんに握られている。彼女の機嫌を損ねるようなことは、避けた方がいい。

「かなり女装が似合いそうだとは思っていたけど、ここまでとはね。私より可愛いいのではないかしら。悔しいわね」

 黒河さんは、褒めているつもりなのだろう。しかし、僕としては、可愛いと褒められても全然嬉しくなかった。

「さて、行きましょうか」

 黒河さんは、さらりと話題を変える。本気で妬んでいるわけでなさそうだった。

 僕らは、黒河さんに連れられ、おすすめの服があるという店に向かった。

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