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魔術師見習いと止まる世界  作者: 鞍多 奧夜
調律(デバッグ)
27/53

調律17

「あー!」

 美夏みかねぇが、洞窟の一角に向けて、すごい速さで移動していく。

 さきの一騒動の後、しばらく僕に抱きついて美夏ねぇは、洞窟の最奥に着く頃には離れていた。そのため、近くにはおらず、動き出した美夏ねぇを止めることはできなかった。 


 美夏ねぇは移動する途中で、一体の魔物をあっさりと倒していた。


 美夏ねぇはひとまず置いておき、倒れている魔物を観察する。

 通常のゴブリンよりも、ホブゴブリンよりも大きい。そして王冠のようなものを頭に着けている。その魔物は、学園や魔術研究機関では、ゴブリンキングと呼ばれている魔物だろう。おそらく、この洞窟のゴブリン達を統べている存在だ。

 今回の依頼が普通に進んでいた場合、出会う可能性のある魔物の中で、一番強い魔物であったはずだ。だが、美夏ねぇが通り過ぎると同時に、軽くはたいただけで、倒してしまっている。

 本当に僕ら――少なくとも美夏ねぇ――の能力が上がっているという実感を、その事実によって僕は得ることができた。

 

 魔物についてはもういいだろう。

 次は美夏ねぇだ。

 いったい何をしているのか。

 美夏ねぇは、洞窟の一角で、しゃがんで石を拾っていた。とても嬉しそうに。美夏ねぇは、石、特に魔石と呼ばれる何らかの魔術に関連した石、を集めることを趣味にしている。

 何か珍しい魔石でもあったのだろうか。

 僕はあきれつつも、周りを気にせず、好きなことを行えることを、少しうらやましく思った。


 僕は美夏ねぇからも目を離し、あたりを見渡す。

 依頼の目的である薬草がいたるところに生えていた。

 緑一面に生い茂る薬草は、ほの暗い洞窟でありながら、逆にそうであるが故に、神秘的で綺麗に見えた。

 僕らは、その薬草を採取し始める。持ちきれないほどの石を拾った美夏ねぇも、途中から採取するのに加わっていた。帰り道で薬草を持つ気は全くなさそうだが。

 この薬草を採取するという行動が、今回の旅の目的のはずである。しかし、残念ながら今までに起きたことと比べ、なんとも地味な作業である。

 僕らは依頼にあった分以上の薬草を採取した。黒河くろかわさんの鞄、薬を入れていた大きな鞄があったためである。


 僕らは帰路につく。

 洞窟の帰り道では、空気が変わることはなく、当然ドラゴンとあうこともなかった。

 その後、来たときと同様に砦で一泊した。来た時とは異なり、世界が止まったときに、はるさんが僕の部屋に来ることはなかった。少し残念だった。


 そして次の日、王城を経て、学園のある都市へと帰りつく。

 その日のうちに、学園で今回の依頼について報告をした。ただ、ドラゴンの件については、僕は報告をしなかった。他の三人がどうしたのかは聞いていない。


 僕らのチームの初依頼、そして、僕の初めての調律デバッグ――バグの原因解決――は、これにて幕を降ろす。

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