調律17
「あー!」
美夏ねぇが、洞窟の一角に向けて、すごい速さで移動していく。
さきの一騒動の後、しばらく僕に抱きついて美夏ねぇは、洞窟の最奥に着く頃には離れていた。そのため、近くにはおらず、動き出した美夏ねぇを止めることはできなかった。
美夏ねぇは移動する途中で、一体の魔物をあっさりと倒していた。
美夏ねぇはひとまず置いておき、倒れている魔物を観察する。
通常のゴブリンよりも、ホブゴブリンよりも大きい。そして王冠のようなものを頭に着けている。その魔物は、学園や魔術研究機関では、ゴブリンキングと呼ばれている魔物だろう。おそらく、この洞窟のゴブリン達を統べている存在だ。
今回の依頼が普通に進んでいた場合、出会う可能性のある魔物の中で、一番強い魔物であったはずだ。だが、美夏ねぇが通り過ぎると同時に、軽くはたいただけで、倒してしまっている。
本当に僕ら――少なくとも美夏ねぇ――の能力が上がっているという実感を、その事実によって僕は得ることができた。
魔物についてはもういいだろう。
次は美夏ねぇだ。
いったい何をしているのか。
美夏ねぇは、洞窟の一角で、しゃがんで石を拾っていた。とても嬉しそうに。美夏ねぇは、石、特に魔石と呼ばれる何らかの魔術に関連した石、を集めることを趣味にしている。
何か珍しい魔石でもあったのだろうか。
僕はあきれつつも、周りを気にせず、好きなことを行えることを、少しうらやましく思った。
僕は美夏ねぇからも目を離し、あたりを見渡す。
依頼の目的である薬草がいたるところに生えていた。
緑一面に生い茂る薬草は、ほの暗い洞窟でありながら、逆にそうであるが故に、神秘的で綺麗に見えた。
僕らは、その薬草を採取し始める。持ちきれないほどの石を拾った美夏ねぇも、途中から採取するのに加わっていた。帰り道で薬草を持つ気は全くなさそうだが。
この薬草を採取するという行動が、今回の旅の目的のはずである。しかし、残念ながら今までに起きたことと比べ、なんとも地味な作業である。
僕らは依頼にあった分以上の薬草を採取した。黒河さんの鞄、薬を入れていた大きな鞄があったためである。
僕らは帰路につく。
洞窟の帰り道では、空気が変わることはなく、当然ドラゴンとあうこともなかった。
その後、来たときと同様に砦で一泊した。来た時とは異なり、世界が止まったときに、春さんが僕の部屋に来ることはなかった。少し残念だった。
そして次の日、王城を経て、学園のある都市へと帰りつく。
その日のうちに、学園で今回の依頼について報告をした。ただ、ドラゴンの件については、僕は報告をしなかった。他の三人がどうしたのかは聞いていない。
僕らのチームの初依頼、そして、僕の初めての調律――蟲の原因解決――は、これにて幕を降ろす。




