調律16
春さんを抱きかかえている僕。
笑顔のまま、顔に青筋が入る美夏ねぇ。
世界が動き出し、位置が計算し直された結果、美夏ねぇと黒河さんは、僕と春さんのすぐ近くにいた。僕としては、あまり嬉しくない偶然だった。
「アキヒコ、はやくちょうだい」
目をつぶったまま、春さんがそんな言葉を発する。
薬がほしいのだろうけど、何故そんな言い方をするのか。
その言葉により、黒河さんは顔を赤らめ、美夏ねぇは爆発した。
無駄に一騒動あったが、春さんに薬を飲ませ、僕らはさらに奥へと進む。
『アキヒコ、聞こえたら、念じ返して』
どこからか、声が聞こえる。左右を見渡すが、出所が全くわからない。頭に直接響いているような気さえする。
『音として、発してはいない。その様子から聞こえていると判断』
その声は、そのまま説明を始める。
『静止世界で色々と聞きたそうにしていたから、さっきの騒動の間に、意思伝達の魔術を使った。あなたたちが、その状態になるのは目に見えていたし』
と続けた。この状態――美夏ねぇが僕に抱きついて離れない状態――の原因、さっき起こった騒動の原因は、声の主だと思われる春さんにもあるのだけれど。
『春さん?』
確認のため、そう頭で念じつつ、春さんをみる。
『あっている』
春さんが、小さく頷いてくる。
実際に使われるのは初めてだけど、すごく便利な魔術だね。これ。
僕は春さんに、心の中で念じて質問を始める。春さんとのやりとりに専念することで、背中にくっついている美夏ねぇから意識をそらしたいという理由もあった。
『一度目の止まった世界で、ドラゴンを弱くしたって理解は、あってる?』
『ただしい』
『何故弱くしたの? 出なくしたり、春さんが倒しても良かったのでは?』
『止める前に言ったと思うけど、能力を上げてもらいたかった。ドラゴンを倒すことで、ゴブリンを倒すことの数万倍は能力があがるはず。能力は、最初上がりやすく、高くなると上がり辛くなるから、私にもかなり近づいたはず』
『そうだったのか』
そういえば、黒河さん関連でも、聞いておきたいことがあったのだった。
『ドラゴンと戦っていたとき、黒河さんが魔術を使っても倒れないことがあったみたいだけど、春さんが魔術で補助していたの?』
『違う。能力が上がったから。彼女は、魔術の細かい威力調節ができない。私やアキヒコが一刻みで調節できると仮定すると、彼女は千刻みでしか調節できないくらいの違いがある。能力が上がり、調節できる威力よりも、魔力量、学園の言葉だと魔術の持久力が、高くなったから倒れなくなった』
『なるほど。彼女が倒れていたのには、そんな理由があったのか』
『ちなみに、アキヒコの魔術には、また別の問題がありそう。だから、能力を上げただけでは使えるようにならないと思う。詳しくは、後日話す』
『僕の問題も分かるの? うん、ぜひお願い』
『わかった』
春さんと、そんな会話――正確には念話だろうか――をしている途中、洞窟の空気が変わるのを感じた。緩い方向にではあるが。
『今のはもしかして』
『アキヒコが考えたとおり、ゴブリンのいる洞窟に戻った』
『軽く考えたことも伝わるのか。少し怖い』
その話をした後すぐ、数体のゴブリンが出てきた。そのゴブリン達を、黒河さんが魔術で一蹴する。
本当に倒れなくなったんだなあ、と感心する反面、僕は黒河さんを少し羨ましく思った。
その後もゴブリンと何度か遭遇しつつ、僕らは洞窟の最奥に到達する。そこが、依頼の目的、薬草が生えている場所である。




