調律15
目の前に、ほぼ裸の女性の上半身があった。ほんの少し動くだけで、その身体の豊かなものに顔が触れてしまいそうなほど、近くに。
そのままの体勢で、対象の人物を確認する。予想通り、美夏ねぇだった。美夏ねぇは僕に飛びかかるような格好で止まっていた。
この姉はいったい何を行おうとしていたのだろうか。きっと抱きつこうとしていたのだろう。
さて、この状況、あの箇所に触れない訳にはいかないだろう。春さんが何を思って世界を止めたかは知らないが、ここはありがたく……。
「だめ」
すごい勢いで何かが、突っ込んできて、僕の目の前で止まる。春さんだった。春さんは体勢を崩し、足を前に投げ出し、座るような体勢になってしまう。
「そうだった。静止世界では、アキヒコに攻撃できないのだった」
僕は美夏ねぇから少し離れ、春さんをみる。見えていた。春さんの大事なところが、白い三角のものが。
ふむ、白か、なかなか良いのではないでしょうか。
「アキヒコや私が触れているものは、この世界でも動いてしまう。美夏さんがアキヒコに抱きつこうとしていたから、慌てて世界を止めた。なのに、アキヒコから触られたら困る。この世界のことは、できるだけ内緒にして欲しい」
春さんは自分の体勢を気にかけず――美夏ねぇに触れることの阻止が最優先だったためだろう――、僕にお願いしてくる。
そうなのか。今回は残念だが、諦めよう。
僕は、春さんの白いものを凝視しながら、そう考える。
僕の視線に気付く春さん。とっさに、スカートをおろし、
「へんたい」
とつぶやく。そして、
「恥ずかしかった。仕返しをする」
と言う。その言葉の後すぐ、春さん自身に魔術を掛け、僕を抱き抱える。お姫様だっこであった。
え、これは大丈夫なの? なんで攻撃扱いされないの?
僕はこころの中で、今起こっていることに対して、疑問に思う。
かなり恥ずかしがっている僕をみてに、春さんは微妙にうれしそうに見えた。相変わらずの無表情なので、僕の勘違いかもしれないが。
「ドラゴンの能力を元に戻す作業をする。結構遠いから、このまま運ぶ」
そう言うと、春さんはものすごい速さで駆け出した。
前に世界を止めた際、ごちゃごちゃにした本棚の前にたどり着く。
「ここだ」
そう言って、本を手に取る春さん。春さんは本を読みつつ、戻していく。
これは僕も手伝った方が良さそうだな。
僕はそう思い、手伝いはじめる。
整理は、ほんの数分で終わった。
「戻る」
そういうと、再び僕を抱き抱え、走り出す春さん。
正直恥ずかしいので、止めてほしいのですが。何か急いでいるようにも思えるが、事情でもあるのだろうか。
僕は少し疑問に思っていた。
「このあたりかな」
そう言って、美夏ねぇのいるところより、かなり先で止まる。
「なんで、美夏ねぇたちの近くじゃないの?」
「世界を動いている状態に戻したとき、静止世界の間も動いていたものとして位置が計算され直す。前回は二人とも倒れていたけど、今回は立って歩いている。このあたりまでは動いていると思う」
なるほど、僕を抱き抱えるなどして、急いでいたのもそのあたりが原因か。
「私はまた倒れるかも。薬をお願い」
僕は、世界が動き出すのを感じた。