調律14
僕の右腕のナイフがドラゴンに刺さる。そのドラゴンは凍り、あっさりと倒れる。左側からもう一匹のドラゴンが僕に迫る。僕は何も持っていない左腕を握り込み、そのドラゴンの突進にあわせるように突き出す。僕の左腕が、嘘のように簡単に、ドラゴンの皮膚を破る。もう一匹のドラゴンも倒れる。
先ほどから、似たようなことが何度も起こっている。
僕が、素手でドラゴンを殴ることもこれが初めてではない。ナイフではなく、ナイフを持った手だけが、ドラゴンに当たったことがあった。その際、ドラゴンはそのまま倒れたのである。もしかしてと思い、ナイフを持っていない手で殴ってみたところ、あっさりと倒せた。その後、ナイフで攻撃したドラゴンをよく見てみたところ、実は凍らせる魔術により倒れているのではなく、ナイフがささったことにより倒れているようだった。
僕らが強くなったのではなく、ドラゴンが弱くなっているように思う。それも、僕の拳一つで倒れてしまうほどに。春さんは、洞窟の魔物について情報の組み替えをしたと言っていた。おそらくドラゴンが弱くなるように、変えたのだろう。
時間が経つごとに、出てくるドラゴンが何故か増えているので、完全に気が休まることは無い。ただ、ドラゴンが弱すぎるため、周りを見るだけの余裕はできていた。
僕のすぐそばで、美夏ねぇが複数のドラゴンに囲まれている。美夏ねぇは、一蹴りで、まわりのドラゴンを薙ぎ倒す。
僕の素手ですらドラゴンに致命傷を与えられるのだ。電撃をまとい、身体強化した美夏ねぇなら、全く問題ないだろう。
僕は美夏ねぇの姿に思いを馳せることなく――そこを考えてしまうと、僕は戦いに集中できない――、感想を抱く。
僕ら二人とは別の方向で、炎が生まれていた。その炎によって、多数のドラゴンが、燃え尽きる。その炎を出したであろう黒河さんを見てみたところ、倒れている様子はなかった。春さんに、支えられながら、自分で薬を飲んでいるように見える。
なぜだろうか? 春さんが何か補助でもしているのだろうか? ドラゴンと再度戦いだした頃、目に入った様子では、倒れていたように思うのだけど。
春さんは、宣言どおり、守りに徹していた。僕らがドラゴンの攻撃を受けそうになる度に、壁を出して手助けをしてくれている。一度春さんの守りが届かず――完璧に守るのが難しいのか、もしくはわざと守らなかったのかはわからない――、ドラゴンの攻撃を受けた。しかし、たいした痛手を負わなかった。そのため、壁による防御が意味のあるものなのかどうかは定かではない。ドラゴンが弱くなっているのを美夏ねぇや黒河さんに悟られづらくするために、行っているだけなのではないかとも思う。
周りの様子も気にしつつ、ドラゴンを倒し続けていると、上がっていたドラゴンの出現頻度が、徐々に下がっていった。その後、しばらくするとドラゴンが、完全に出てこなくなってしまった。
僕らは、一旦集まった。なお、僕だけ、明後日の方向を向いている。美夏ねぇや黒河さんを至近距離で見るのは色々と危険だ。
「先に進もうと思うわ」
春さんが提案する。
特に僕らに反対する理由は無かったので、一様にうなずく。ほとんど忘れかけていたが、本来の目的は薬草の採取である。それは、洞窟の奥にあるはずだ。
そういえば、このドラゴンがいる洞窟に、目的の薬草はあるのだろうか?
僕は少し疑問に思っていた。
奥に向かって歩いていたところ、唐突に、世界が止まる感覚がした。
一番前を歩いていた僕は、振り返る。




