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魔術師見習いと止まる世界  作者: 鞍多 奧夜
調律(デバッグ)
19/53

調律9

 世界が止まっている。

 春さんは確か、バグの解決を行うと言っていたはずだ。僕は、蟲を警戒して、周りを見渡す。倒すではなく、解決という言葉を使っていたことに少し違和感を覚えていたが。

 周りを見渡しはじめてからすぐに、世界が止まる前には存在しなかった、とても大きなものが目に入る。それは、様々な色をした巨大な棚であった。洞窟の壁一面に並んでおり、その棚には本がたくさん置かれていた。本棚なのだろうか。

 春さんは、一冊の本を手に取っていた。大きな棚に意識が向いてしまっていたが、再度あたりを見てみると、地面には多数の本が散乱している。

 手に取った本を戻そうと考えたのか、春さんは本棚に近づき、本を持った手を棚にのばす。微妙に届かない。春さんは、ぴょんぴょんと、跳びはね始めた。かなりの高さの本棚なので、梯子や台が多数存在しているようだ。近くにもあるのだが、春さんはそれらを使おうとはしない。

 気持ちはわからないでもない。もうちょっとだからって、そのままなんとかしようと試みることを、僕もよくしてしまう。大抵の場合、別の方針に切り替えるより時間が掛かってしまうんだけど。

 春さんの、ぴょんぴょんと跳ねる可愛い姿に目を奪われ、無駄に共感していたが、気にしなければならないことがたくさんあることを思い出す。

「世界を止めることができたんだ」

 春さんの様子から、蟲に対する警戒は不要と判断し、蟲についてではなく、現状を確認する言葉を投げかけた。

 春さんは、一旦、跳びはねるのをやめ、

「止める場所、範囲を限定すれば、私たち調律者デバッガには可能」

 と返事をしてくれた。

 再度春さんは、ぴょんぴょんし出す。

 情報が圧倒的にたりない。

「具体的には、どんな感じなの?」

「場所……はっ……洞窟げんていっ……」

 ぴょんぴょんしながら、色々と教えてくれる。とても聞き取りづらかった。

 聞き取ることができた内容としては、魔物がいる洞窟でしか使えない、範囲はほとんどの洞窟ならまかなえるほど、静止世界と同じように能力を使える、終わった後とても疲れる、といったものだった。

 聞きたいことはたくさんあるのに、このままでは文字通り、話にならない。

 そう思った僕は、春さんが持っている本を奪いとる。そして、春さんが本を置こうとしていた箇所の隣の列に本を入れる。見て予想していたものより高く、爪先立ちしてようやく届いた。悲しい。

「いや、そこじゃ……」

 春さんが、僕の行動をとがめるような発言をしようとして、途中でやめる。

 どうやら、僕が本をおいた箇所は正しかったらしい。

「どうしてわかったの?」

 どうしてって言われても。

「本の表紙に、置き場所の情報がちゃんと書いてあるし、色分けまでされているから、見るだけで簡単に分かると思うのだけど」

 僕はそう返答する。ただ単に、本の色や表紙の数字、棚の色や書いてある数字を見ただけであった。

 春さんは怪訝な顔をする。

「見ただけでわかるの?」

「いや、だから数字が書いてあるし。わかりやすく色までついているって」

 どうも話がかみ合わない。まるで見えているものが異なっているようだ。

「これは?」

 春さんは本を手にとって、見せてくる。

 その本は、赤い表紙で「二千五百二十七」と書いてある。

 本棚を見上げ、まず赤くなっているところを探す。見つけた。次に数字を見ていく。棚には、二十ごとにそれなりに大きな数字が、百ごとにかなり大きな数字が書いてあるため、それを元に場所を絞っていく。

「あそこの棚の上から五段目、そこの左から七番目くらいかな。置いてある本をみないと、実際にいれるところはわからないけど」

「そう」

 春さんは僕が指さした箇所に向かっていく。そして、さっきの本を置いて戻ってきた。

「あっているようだった」

 それはそうだろう。最初の本の場所があっていたのなら、その本もあっているはずだ。

「アキヒコは数字や色が見えると言っていたけど。わたしには、ただの黒い表紙の本にしか見えない。手にとってよく調べないと、どのあたりに置くべきなのかも分からない」

「そうなの?」

 本当に見えているものが違っていたらしい。そして春さんは、僕に依頼してくる。

「お願い。手伝って」

「わかった。そのかわり、いくつか聞きたいことがあるから、教えてくれる?」

「本を整理しながらでいいなら、答える」


 会話の主導権を握られていたため、僕から質問ができていなかったが、ようやくいろいろと聞くことができそうだ。

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