調律4
大、中、小というより無。
黒河さん、美夏ねぇ、春さんの姿を見て、僕はそんな感想を抱いた。僕以外が見ても、そういう感想を抱いただろう。
ちなみに、まわりからみた場合、僕も中になる。
変な意味は一切無く、みんなの荷物の量である。なお、上半身のあの箇所の大きさも、さっきの感想と同じ順になる可能性は高い。大、大、無といった感じだろうか。黒河さんは常に身体をすっぽりと覆うようなローブを着ているが、その上からでもその大きさが分かるほどなので、おそらく美夏ねぇよりも……。
閑話休題。
僕はもう一つ感想を抱いていた。黒河さんと春さんの荷物の量はどちらも違う方向で異常だと。あまりに気になったので、普通に聞いてみることにした。
まずは黒河さんに聞いた。
「これは秘密兵器をたくさん持ってきたからなのよ」
黒河さんはそう答え、
「役にたたないはずのあなたにも協力してもらう予定だから。詳細は目的地に向かいながら話すわ」
と上機嫌な様子で続けた。
僕を示す言葉に苛ついて、「僕が役にたたないなら、あなたも役にたたないはずです」と返したかったがやめておいた。悪気がなさそうだったし――よくよく考えると、悪気がない、すなわち素でその言葉を使ったのだとしたら、なお質が悪い気がするが。
次に春さんに聞いた。
「もし足りないものがあったら、走って取りにくればいい」
確かにそんなものか、と僕は納得した。
「実は私も春ちゃんと同じ意見。この距離なら、そもそも宿泊する必要ないかな」
王城までは普通の大人がゆっくり歩いて一日ほど。そこから宿泊予定の砦まで、同じくゆっくり歩いて数時間の距離。砦から、洞窟までは半日ほど。
自分の身体に対して、能力向上の魔術を気軽に掛けられる二人からすると、遠いという認識はないらしい。
なお、その魔術を僕が使った場合、効果が切れるたびに数時間使って再発動させる必要があり、黒河さんの場合、使った後、数時間倒れるということが、一度試したため判っている。
美夏ねぇと春さんの二人にその魔術を掛けてもらえば良い話なのだが、僕と黒河さんは、それを拒否した。情けないからというのも当然あるが、身体に直接作用する魔術を他人に掛けるのは、自分に魔術をかける数倍の負担が掛かるという理由が一番大きなものだ。二人はその程度問題ないと言っていたが、魔物がいる洞窟に向かうのだ。戦力として優秀な二人にできるだけ負担をかけたくはない。
僕らは特に魔術を使わずに、まず王城に向かって歩き出した。