調律1
肌が燃えるように熱く、痛い。先ほどまで、実際に燃えていて、かろうじて消すことに成功したところなので、当然と言えば当然だ。
その痛みとは別の要因で全身が悲鳴をあげている。つい先刻から、走って逃げ回っているためだ。
僕は、ほの暗い洞窟の中を走り回っている。
現在は背中を向けて全力で逃げているため確認できないが、僕のすぐ後ろには、ドラゴンと呼ばれる魔物――人間を優に越える巨大なトカゲのような生き物、口から火を吐く魔物――がいるはずだ。
僕は、最初に一度、ドラゴンから口から炎を吐き出してくる攻撃、ファイアブレスを受けた後、全ての攻撃を紙一重で避け続けている。火事場の馬鹿力という言葉があるが、それと同様に緊急事態のため神経が鋭くなっているためか、はたまたただの偶然か。ただ、避けているだけで、反撃はできていない。そもそも僕の魔術では発動までに時間がかかりすぎる上に、このドラゴンに有効な魔術が何かわからない。絶望的な状況だ。
そろそろ次の攻撃を仕掛けてきそうだ。そう思った僕はドラゴンの方をちらりと確認する。
「……?」
変だ。何もしてくる様子がない。
不思議に思いながら、僕は意識を前に戻す。このままドラゴンの視野外に行き一度隠れよう。
そう考えた僕の眼前にもう一匹のドラゴンが現れる。
あ、これはもうだめかもしれない。
そんな風に思った僕の脳内に、まるで走馬燈のように、ここ数日の出来事――ドラゴンと戦うに至った経緯――が一瞬のうちに思い起こされた。