豆太の一日2
ピクリって目が覚めた。
ふあぁって、欠伸して周りキョロキョロ。まだみんないない。
お水飲んで、窓辺で寝そべる。
良いお天気。お外は多分、あっちっち。
僕良い子だけど、ちょっと寂しい。
だからお店に行くドアの前にお座りして、寂しいよぅって鳴いてみる。
「豆太、どうしたの?」
おかあさんがドアを開けてくれて、尻尾を振る。そしたら首輪とリードを付けられて、お店番の仲間入り。
「こんにちわー」
うげぇ、なんか来た。
お店のドアに付いてる音が鳴る貝殻揺らして現れたのは、嘘吐きの子。七海ちゃんに似てるけど、七海ちゃんじゃない女の子。
僕がふいってして寝てたら、その子は側に来て乱暴に僕を撫でる。
「豆太ってば、湊吾先輩みたい。可愛くなーい。」
湊吾に似てるのは嬉しいもん。君のが可愛くないもん。
だってね、七海ちゃんが来たって言うから喜んで会いに行ったのに、違かったんだもん。それにこの子、僕の事、そんなに好きじゃない。
「お前は噛まないんだね?」
噛まないよ。僕、良い子だもん。
もう!ツンツン突つくのやめてよね!
「おい、美波。豆太嫌がってんだろ。やめろ。」
助けて湊吾ーって見つめたら、湊吾は苦笑してる。
近くに来て撫で撫でしてくれたから、尻尾で応える。
「美波、犬苦手だろ?」
「はぁ?そんな訳ないじゃん!」
「嘘だな。豆太のこの反応、わかってんだよ。な、豆太?」
うんうん。僕おりこうさんだからね、わかってるんですよ。
「ミナ、小さい時犬に噛まれたんだよね?」
「そうだっけ?覚えてないし!」
嘘吐き子ちゃんはやっぱり嘘吐き。
でも湊吾も七海ちゃんも、わかってますよって優しく笑ってる。だから僕も、優しくしてあげよう。
「な、舐めるなよ!」
痛い事しないよー
大丈夫だよー
優しいよー
って、そっと舐めてみる。そしたらまたツンツンされた。
ツンツンいやー
「だから突つくなって、こうやって撫でるんだよ。」
ぽこんって湊吾に軽く叩かれた嘘吐き子ちゃんは不満顔。
僕は湊吾に撫でられてご満悦。
そろり手が伸びて来て、舐めると嫌みたいだから僕はじっとしててあげる。なんだか恐々撫でられてる。
「お前は、可愛い、かも…」
うむうむ。僕は可愛くておりこうさんなんですよ。
湊吾はまた七海ちゃんの所に戻っちゃった。けど何故か、嘘吐き子ちゃんが僕をじっと見てる。
眠いんだから、あんまり見ないでよね。
「ねぇ、あんた、寂しくないの?」
んん?何が寂しいのかな?
目を開けて首を傾げてみたら、嘘吐き子ちゃんはむすってしてる。
「飼い主、取られちゃったじゃん。あんた一人、置いてきぼり。」
んん?僕、置いてきぼりなの?
誰に置いてきぼりにされちゃったの?
「あんたは私と一緒だね。」
んー?よくわかんないけど、寂しいんだね。
大丈夫?って、舐めてあげる。
「顔は舐めるな!」
怒らりた…
ワガママさんだなって、手をぺろぺろする。そしたら、嘘吐き子ちゃんはじっとしてる。
「おい美波、お前も教えてやろっか?こっち来いよ?」
あれれ?寂しいそうだったのが、わざとむすっと、でもなんだか嬉しそう。
「教えてもらってあげない事もないわ!」
「お前めんどくせぇ。」
「うっせ。何やってんの?」
「ヘンプ編み。好きな色の紐三本選べ。んで、飾りもここから好きなの選べよ。穴は開けてやる。」
「ナナがやってるのもそれ?」
「うん。ブレスレット作るの。ミナもやろう?」
「……やる。」
嬉しい癖に、素直に喜べば良いのにな。美波ちゃんは不器用さん。
いつの間にか真剣にやり始めた美波ちゃんを、湊吾と七海ちゃんが優しい顔で見守ってる。
おバカだなぁ、気付いてないだけで、誰も君を置いてきぼりになんてしないのに。
僕はお店に来るお客さんにご挨拶する。看板犬のお仕事。
湊吾は七海ちゃんと美波ちゃんに教えたり手伝ったりしながらお客さんの相手もしてる。作るのに興味を持ったお客さんに教室の紹介してるあたり、湊吾は商売人だと僕は思う。
日が暮れたら、僕はお散歩。と、護衛のお仕事。
湊吾と一緒に七海ちゃんと美波ちゃんをお家に送って行くのです。
なんだか三人で楽しそう。だから僕はおりこうさんに湊吾の隣を歩く。
お家の中より暑いけど、お散歩は楽しい。
海の匂いも好き。
湊吾も好き。
七海ちゃんも好き。
「豆太、またね!」
美波ちゃんはやっぱり乱暴だけど、嫌いじゃないよ。
お散歩して帰ったらご飯食べる。テレビを観るおとうさんのお膝の上で、僕は撫でられてうっとり。
おかあさんがおもちゃ投げて遊んでくれて、取りに行ってまた投げてもらう。
遊び疲れた僕は、基地に戻る。
「おやすみ、豆太。」
みんなに撫で撫でされて、おやすみのご挨拶。
今日はとっても楽しかった。また明日も僕の一日はきっと、とっても楽しい。




