豆太の一日1
僕は豆太。柴犬、二歳。
僕の基地はね、お家のリビング。みんながいつもいる場所。
おもちゃがね、たくさんあるんだよ。
ロープでしょ、プピプピ音が出るお人形でしょ、あとね、ボール!
一人でも遊ぶけど、咥えて持って行くとみんなが遊んでくれるんだ。
お気に入りの僕のベッドで仰向けで寝てたら、足音が聞こえて来た。これは、湊吾だ!
急いで起き上がって、お座りで良い子に待つ。尻尾が勝手に動いちゃう。だってこれから、湊吾は僕と遊んでくれると思うんだ。
「おはよ、豆太。ちょい待ってろ。」
眠そうに欠伸した湊吾がわしゃわしゃって撫でてくれる。
あぁ舐めたい!舐めたい!舐めて良い?良いよね?
「わかったから、すぐ準備すっから待ってろって。」
朝のご挨拶で湊吾の顔をベロンベロン舐めてたら、笑った湊吾が立ち上がる。
待つ…けど、待てない!
顔洗って歯を磨いてる湊吾の足下うろうろ。でも良い子に待たないとダメだから、お座り。
あぁでも尻尾が動いちゃう!ブンブンしちゃう!
「お待たせ。行くか!」
やったね!お散歩だ!
湊吾が上にお洋服着てないから、海で遊ぶんだってわかった。海はね、しょっぱいの。そんで、楽しいの!
他の人がいない朝は僕は自由!でも良い子だから湊吾の言う事聞くの。おりこうさんだから!
「豆太!取って来い!」
ボールだ、ボール!
取って戻ったら、湊吾は海の中にいた。だから僕も追い掛ける。深い所に行くと怒られるから、怒られない場所まで。湊吾の側は、怒られない場所。
「気持ち良いな?」
うん!とっても!冷たくて気持ち良いよ!しょっぱいけどね!
「ちょい泳ぐから、待ってろよ?」
あい!波くんと遊んでます!
追い掛けると逃げる癖に、追い掛けて来るの!変なの!
「豆太、おはよ。」
波くんに遊んでもらってたら、お姉ちゃんが来た。えっとね、七海ちゃん!七海ちゃんだ!七海ちゃん好き!
「今日も砂だらけだね?湊吾さんは?」
泳いでる!泳いでるんだよ!呼ぶね?
「ワンッ、ワンッ、ワンッ」
湊吾!帰って来て!って呼んだら、僕の声に気付いた湊吾が手を振った。
嬉しくて、僕の尻尾はブンブンブン。
「すごいね?豆太は良い子。」
七海ちゃんに褒められた!
七海ちゃんは良い匂い。舐めると柔らかい。湊吾とも、おかあさん、おとうさんとも違う。
「おはよ、七海ちゃん。」
「おはようございます。豆太見てるんで、気にせず泳いでて下さい。」
「七海ちゃんも水着でくれば良いのに。」
「あ、中に、着てます…けど、恥ずかしいんで、大丈夫です。」
「この時間泳ぐの、気持ち良いよ?」
んもう!僕の事、忘れてるでしょ!
でも僕、空気読める奴だから、伏せて大人しくするんだ。
湊吾は七海ちゃんが好き。
七海ちゃんも湊吾が好き。
僕、知ってるんだ。
湊吾が海で泳いでると、七海ちゃんはうっとりって顔してる。湊吾の体も、ほんとはじっと見たいの。でも恥ずかしいから、赤くなってすぐに俯いちゃう。
僕のお兄ちゃんは真っ黒海の男だからね!見惚れちゃうよね!
「え?あの!湊吾さん?!」
大変!七海ちゃんが連れ攫われちゃった!
湊吾が抱っこして、七海ちゃんを海に連れて行く。僕も呼ばれたから一緒に行く。
「ダメ!やだ!きゃあっ!」
ばっしゃーんって、七海ちゃんは海に投げられちゃった。
「ほら、気持ち良いだろ?」
「もう!乱暴です!」
湊吾はにかって笑ってる。
七海ちゃんも、怒ってるふりで楽しそう。
僕も一緒で、楽しいよ!
バシャバシャパシャパシャ、海で遊んで、砂だらけの僕らはずぶ濡れ七海ちゃんを護衛する。
僕はリード付けられて、湊吾は七海ちゃんの事も手を繋いで捕まえてる。
七海ちゃん、嬉しいんだね?わかるよ!僕も湊吾と一緒、すっごく嬉しいもん!
「今日は、お店の方ですよね?お邪魔しても、良いですか?」
「うん。待ってる。」
二人ともゆるゆるに笑っちゃってさぁ、見てらんないよ!もう!
七海ちゃんをお家まで護衛した後は、僕と湊吾は走って帰る。お腹ペコペコだもんね!でもその前にお風呂。湊吾と一緒に泡々になって、綺麗になる。綺麗になったらブラッシングしながら乾かしてもらう。
これ、気持ち良いんだぁ。
湊吾優しいから、とっても上手なの。おかあさんがやると、乱暴でちょっと痛い。おとうさんは、まぁまぁかな?
ご飯食べてお腹一杯になったら、僕はねむねむ。
おとうさんとおかあさんに撫で撫でされて、行ってらっしゃいする。でももう眠くて、ベッドでうとうと。
湊吾も僕を撫でてから、何処か行っちゃった。
静かなリビングで、僕は夢を見る。
このお家に初めて来た時の夢。
知らない場所。知らない人。怖くて、ビクビクだったおチビの僕。
だけど僕の新しい家族は優しくて、僕はすぐに楽しくなった。
たくさん遊んでくれるし、ご飯も美味しい。
大好きなみんな、早く帰って来ないかなぁ。




