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仲直り

 昼休み、弁当食った後の遊びを断って俺が向かったのは一年生の教室。昨夜七海ちゃんから聞き出した、美波ちゃんのクラス。


「やっほー、美波ちゃん?」


 お、嫌そうな顔。七海ちゃんからなんか聞いたのかな?


「見破ったなら、私になんの用ですか?」

「まぁ、お話しを聞いてみたいなと。良い?」


 俺の誘いに頷いて、美波ちゃんはついて来る。あんまり人気の無い場所もあれだから、海の見える廊下の窓辺に移動。日差し強くて暑いから、あんまり人はいないけど皆無じゃない。


「なんでさ、七海ちゃんの振りしたの?」


 直球で聞いてみたら、美波ちゃんの顔が不機嫌に歪む。吐き捨てる様に告げられた言葉は、可愛かった。


「ナナは、私のなんだもん!」

「は?………あぁ、なる。」


 シスコンってやつですかい。でも美波ちゃん、君の愛情はどうやら、届いていないよ?


「ナナはぽやんぽやんしてるからミナが守ってるのに!いつの間にか変なのと知り合ってるし!女子校行ったからとりあえずは安全だと思ってたのに!」


 どうやら彼女なりの、妹を守ろうとしての行動だったらしい。見破って七海ちゃんへの愛を貫ける奴なら認めてやろうと、七海ちゃんの振りを繰り返していたんだってさ。でも誰も見破れなくて、やっぱり七海ちゃんを守るのは自分しかいないと思ってた所に俺が現れて、俺が美波ちゃんの告白に頷いたらボロボロのケチョンケチョンにして捨てるつもりだったとか…怖っ!俺の身、危なかったんだな。


「なんでそれ、七海ちゃんに本当の事を言わないの?」

「だって、私がやってるのは悪い事だし…ナナに嫌われるの、当たり前だもん…」


 しゅんと俯いた美波ちゃん見て、なんだかなぁって思った。


「確かにな、悪い事だよ。人を試すなんて良くないし、七海ちゃんも傷付いてる。でもなぁ…」


 ぽん、て美波ちゃんの頭に手を置いた。でもすぐ、振り払われた。

 猛獣かって笑って、俺は思った事を口に出す。


「本当の事言って、謝りな。大事な双子の妹なんだろ?嫌われてたら、悲しいだろ?」


 ぶっすぅって不満そうな顔して、彼女は俺と目を合わせない。美波ちゃんがどうするのかは彼女次第だけど、俺は勝手に、今聞いた事を七海ちゃんに伝える気満々。

 だって、七海ちゃんは美波ちゃんを嫌いじゃないはずだから。


湊吾(そうご)先輩…」


 目的達成で去ろうとした俺は、美波ちゃんに呼び止められた。

 振り向いてぶつかったのは、不敵な笑顔。


「私が認められなきゃ、ナナはあげません!」

「おぅ!頑張ります!」


 拳突き上げたら、美波ちゃんはふんって鼻を鳴らしてそっぽを向く。

 ツンデレかもしれない…。デレが出たらどんななんだろ、なんてくだらない事を考えながら俺はスマホを出して、七海ちゃんへ報告。そんで放課後、お迎えに行く約束を取り付けた。やったね!

 待ちに待った放課後、ウキウキしていた俺の気分は萎まされた。


「私も行きます!」

「えー……。美波ちゃんって待ち伏せ好きだな?」


 校門の前でまた待ってた美波ちゃん。デカイ声で名前連呼されて、流石に無視出来なかった。

 俺の自転車は二人乗り出来ない仕様だし、彼女でも無い子と二人乗りなんてして警察に捕まるのは勘弁。だから俺らはまた並んで歩く。そんなに離れた場所にある訳じゃないけど、待たせたら悪いからメールしとく。


「あちぃなぁ…美波ちゃん、大丈夫?」


 もう夏本番って感じの暑さ。日が陰っても、この時間はまだ暑い。世間話がてら心配してみたら、またふんって鼻を鳴らされてそっぽ向かれた。まったくこの子は…。


「可愛くねぇと置いてくぞ。」


 ぼそり低い声で呟いたら、すごい勢いで睨まれた。


「はいもうダメー、ブッブー。可愛くないんで置いて行きまぁす。」


 自転車に跨って、すぐに漕ぎ出した。なんか騒いでるけど、シカトする事に決める。だって、七海ちゃんとの時間邪魔されたくねぇし。


「そ、湊吾(そうご)さん…」


 俺を見つけた七海ちゃん。パアッて嬉しそうに笑った。

 なんて可愛いんだって、顔が緩む。


「待たせた?ごめんな?」

「大丈夫です。こっちまで来てもらっちゃって、すみません…」


 双子なのにこの違い。七海ちゃんは可憐さが半端ない。

 抱き締めたい!けど…我慢。

 並んで歩いて、向かうのは海。


「もうすぐさぁ、海は芋洗い状態になるじゃん?七海ちゃん、どこで歌うの?」


 ナンパな野郎が増えるからな。そんな危ない場所に七海ちゃんを一人では行かせられないって思う。


「ただのストレス発散だったので…もう、やめようかなって…」

「えぇ?!やめちゃうの?」

「はい…一度やってみたくて…その、人魚の気分で、海に向かって歌うの…」

「まんま人魚だったよ!俺、海に帰っちゃうんじゃねぇかって心配した!」


 ぽって赤くなって照れ笑い。

 ハグはまだ早いにしても、手は良いかな?でも暑いかな?汗、掻くよな…


「そ、湊吾(そうご)さん!」


 なんだか一大決心、みたいな顔した七海ちゃんに呼ばれた。見つめて首傾げてみせたら、言うのを躊躇ってる。まさか、七海ちゃんも手を繋ぎたいんじゃ…


「お店、見に行っても良い、ですか?あ、あの…とても、素敵だったので…」


 店にも負けた俺。悲しい…

 内心がっくり項垂れてるのは顔に出さないよう気を付けて、俺は頷いた。

 昨夜豆太に会いに店に連れて行って、両親は混乱してた。双子って説明したら、なんか言いたげな視線を向けられたけどシカトしておいた。豆太と触れ合った後で店内を見た七海ちゃんは、店に興味津々だったんだよね。

 ビーチクラフトの作品を主に扱った店だから、海!っていう感じの店内。人魚の彼女はそこにいるの、しっくり来てた。


「あら?こんにちわ、七海ちゃん。美波ちゃんも来てるわよ。」


 店行って、お袋の言葉にがっくり来た。やっぱ、来てたか。


「ナナ!湊吾先輩に意地悪されなかった?」

「さ、されないよ!ミナ、待ってたの?」


 俺はケダモノかってツッコミたくなる視線と言葉に、苦笑するしかない。二人、話しするかなって思って、俺は飲み物持って二人を流木ベンチに座らせた。

 二人きりにする為に、着替えに向かう。


「おいおい、お前、どっちが彼女だ?」

「あぁ?七海ちゃん。可憐な方だよ。」

「両方可憐だけどなぁ…黒子の色っぽい方か?」

「お、せいかーい!」


 正解した親父をすげぇじゃんって褒めてから、俺は豆太に挨拶して自分の部屋で着替える。

 豆太連れて戻った頃には、二人共、目が少し潤んでた。どうやら仲直りは出来たみたいだ。双子、っていうか、姉妹ってそういうもんなのかな。俺は一人っ子だからわかんねぇけど、ちょっと羨ましいって思う。

 まぁ、俺の弟は豆太だ。


 これから夏本番。

 七海ちゃんとラブラブしたい俺が、しょっちゅう美波の妨害を受けるハメになるのは、少しだけ先の話。

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