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君を泡にはしない  作者: よろず


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3/9

人間になった人魚

 違和感の正体に気が付いたら更に混乱した。黒子が消えるなんて、付け黒子だったのか?

 でも、彼女は違う。俺の人魚ちゃんとは違うって、何故か思った。

 顔も声も同じ。でも違う。纏う空気が、違ってた。

 ふんわり神秘的な人魚ちゃん。

 さっきまで目の前にいた"入江美波"は、普通の明るい高校生。どちらかといえば、太陽の部類。

 海で俺が会ってた人魚ちゃんは、月だ。月みたいに、静か。

 俺は海に目を向けて、自転車を止めた。

 波打ち際に、人影がある。夕陽に照らされたそのシルエットを、俺は、知ってる。

 自転車置いて、砂浜に下りた。スニーカーに砂が入って気持ち悪いけど、無視して走る。

 波音に混ざって歌が聞こえる。

 王子様の幸せを願って、泡になって消えてしまう人魚姫の歌。

 なんて歌だって、ぞっとした。


「に、人魚ちゃん?」


 声を掛けたら彼女の細い肩がびくりと揺れる。振り向いた彼女は、泣いていた。


湊吾(そうご)さん…」


 "先輩"じゃ、ないんだ。

 俺は近付いて、手を伸ばす。伸ばした指先で触れたのは、唇の下の、黒子。


「ねぇ、さっきのは誰?君は、誰?」

「わ、私っ…」


 ぶわっと涙が溢れ出して、彼女は両腕で顔を覆って泣きじゃくった。

 裸足でホットパンツで、海に入ってる彼女。

 スニーカーで、制服の裾も捲らず波に足下撫でられてる俺。

 沈み掛けの夕陽の中、向かい合ってる。


「入江美波ちゃん。俺と同じ学校だったあの子は、君にそっくり。でも、君じゃないよね?」


 こくこく、彼女は頷いた。それなら導き出される答えは決まってる。


「双子?」


 だって、本当にそっくりだった。見た目の違いは黒子だけ。一卵性の双子かなって、思った。

 答えを待つ俺の前で、泣いてる彼女はまた、こくこく頷く。


「なら、君の名前、教えて?俺が好きなの、君だから。」

「な、七海(ななみ)…私は、七海…七海です…美波(みなみ)じゃないっ……」


 細い体震わせて、泣いてる彼女は精一杯の叫びを上げた。

 俺の事を知らないのに何故か彼女の振りをした美波ちゃん。彼女の振りして、俺を好きだって、"美波と(・・・)付き合え"って言った美波ちゃん。あの子は何がしたいんだろうか?


「七海ちゃん…泣かないで?俺もちょっと、混乱中。でもね、俺が好きなの、君だから。美波じゃなく、七海が好き。」


 余計声を上げて泣いちゃった彼女を躊躇いながらも抱き締めたら、拒絶はされなかった。

 ぽつぽつ七海ちゃんが話したのは、遣る瀬無い気持ちになる話。

 美波ちゃんの方がお姉さんで、彼女は明るくてみんなの人気者。

 七海ちゃんは引っ込み思案で、いつも美波ちゃんの陰に隠れてた。

 それで上手く行っていた二人だけど、いつしか美波ちゃんは、"七海ちゃんの物"を欲しがるようになった。七海ちゃんが気に入っていた物、仲の良い友達、好きになった人。


『私達は双子。二人で一つ。だから、ナナの物はミナの物。』


 そう言って笑った美波ちゃんから離れたくて、七海ちゃんは、高校は別の場所にしたらしい。


「そ、湊吾(そうご)さんとミナが一緒に歩いてるの、見たんです。また私はミナに奪われるのかって思ったら…」


 悲しくて…

 だから歌っていたのは、王子様の幸せを願って消える人魚の歌だったんだ。


「俺の気持ち聞かないで、勝手に泡になんないでよ。……でも、すぐに気付かないで、悲しい気持ちにさせて、ごめん。」

「い、いえ!普通気付かないんです!今まで誰も、ミナが私の真似するの見破れなくて、湊吾(そうご)さんが初めてで…す、すごく…嬉しい、です……」


 可愛いなぁって、胸がきゅぅって苦しくなった。今までの奴らの目は節穴か。黒子で気付け!


「いや、あの…そこまで、私の顔を誰も見ないですし……黒子なんて、家族ぐらいしか……」

「えぇ?こんなに色っぽい黒子なのに?」

「えぇ?!い、色っぽいだなんて…そんな……」


 暗い中だけどわかる。彼女は真っ赤だ。


「ね、最初に見破ったのは豆太なんだ。会いに来てやってよ?」

「は、はい…」


 俺の制服ズボンはぐしゃぐしゃどろどろ。それに気付いた七海ちゃんは慌ててたけど、俺の気分は晴れやかだから気にしない。

 暗くて足下危ないからって言い訳利用して、七海ちゃんの手を取った。自転車の所に向かって砂浜を歩きながら、はたと気付く。


「七海ちゃん、俺は君が好き。君は?」


 俯いちゃったから、下から覗き込む。

 またうるうるぷるぷるしてる。


「す、き…です……」


 小さな小さな、波に攫われてしまいそうな声。

 でもちゃんと届いたから、俺はにっこり笑う。


「なら、君の事をこれからたくさん教えて。好きな物、好きな歌。思ってる事も、聞きたい。」

「が、がんばり、ます…」

「うん!俺はねぇ、今、七海ちゃんがすっげぇ可愛いなって思ってるよ。」


 照れてあわあわしてる七海ちゃん。

 人間の王子様に憧れて、人間になった人魚姫。だけど王子様は他の人と結ばれて、人魚姫は泡になって消えてしまう。

 もし俺が七海ちゃんの王子様なんだったら、俺は君を、泡になんてしないよ。

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