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僕がキミを好きなワケ

作者: 小兎

以前魔法のiらんどに投稿したものを修正したものです

僕が彼女をいつから好きになったのなんて覚えていない。


たぶん高校1年の冬、僕は初めて彼女を認識した、らしい。


非常に曖昧で申し訳ないがなにせ彼女の容姿はごく普通。背が高いわけでもなければ、賑やかしで目立っていたわけでもない。


失礼な話しながら集団に紛れてしまえば彼女を知る以前なら探し出せない自信がある。


過去形ね、ここポイント。

今はきっと彼女の髪の端しっこだけでも見分けがついてしまう。


不思議だよね。


なんでかなホント訳わかんない。


あ、思い出した。


あの日はえらい寒い日だった。


偶然通りかかった時に化学室の中から水音と国民的時代劇のテーマソングのハミングが聞こえてきたんだ。

人生の苦楽を歌ったアレです。


イントロから効果音まで付けてかなりヤケクソ気味に。


高校生が選ぶにはえらい渋い選択に『誰だよ?』と思ってチラと覗いたら彼女が一人で洗い物をしていた。


うちの高校はお湯なんて出ないから、うわ冷たそうと思ったがそのまま一旦通りすぎたんだが自販機をフト見て何となくホットミルクティーを買って化学室へ引き返した。


だけど彼女はもういなかった。


名前も顔も分からないのにやけにその後ろ姿が記憶に残ったんだ。


それが最初。


だけどその時はそれで終わりだった。

後から彼女を探したりとかはせず、一過性の気まぐれに興味を覚えただけだった。



うちの高校は毎年クラス替えがあり僕は2年になった。


新しいクラスには同中で仲のいい奴とか一緒で一月もしないうちに馴染んだ。


最近の話題はその友達に出来た彼女の事だ。

と、言うよりも単なるノロケだ。


チッ、リア充爆発しろ‼


「俺はお前に彼女イナイっうのがナゾ。」


「だよなー、お前この前1年の女子に告られてなかったか?」


「なんだよ! お前の方がよほどリア充じゃねーか! 爆発しろ!」


「はぁ? あんなんガチじゃねーよ。ナンつーの? ノリ? だろ。」


「「「それでも1度は言われてみてーんだよ!!!」」」


うん、まぁ確かにイベント前にはよく告られる。

でもマジでちょっと言ってみましたみたいなノリだぞ?

ガチで返事したら冗談だよーとか言われそうな。


「だがしかし! 今の俺には調理実習で作ったものを恵んでくれる彼女がいる!」


奴は拳を振り上げて高らかに宣言した。


なんと女子は今日の家庭科調理実習だったのかよ。それを聞いてさりげなくトイレにでも行くふりをして席を立った。


「・・・おまえ、その貰ったもの絶対完食しろよ?」


奴にそう忠告を残して。


さてこのまま廊下を進むとその女子たちにバッティングしてしまうのでちょっとショートカットをしよう。


会ったら不味いのかと聞かれれば非常に不味い。

さっきあいつらが言っていたように僕はそこそこ人気がある。

そこそこここ重要、女子は何故か実習等で製作したものを男子に食べさせたがる。当然彼氏持ちは自分の彼氏にあげる。彼氏がいない娘は自分達で食べるかするのだが分け与える女子もいるので大抵人数分より多く制作する。

で、その余った分をどうするのかというと本命もしくはあげても惜しくない男子に「あげるねー」と言って配るのだ。

あげても「あいつ俺のこと好きなんじゃね?」とか勘違いをしない、または周りに「えー、〇〇って〇〇のこと好きなの~?」とか言われても嫌じゃないやつに。


僕はそういったポジションで頂くことが何度かあった。

デパ地下のお惣菜が売れ、コンビニがあちこちにある昨今お腹が空いたからと言って自炊をする女子高生が何人いると思う?


味見したのか!それは!?


的なモノから僕は自分のお腹を守るためこういう時には姿を眩ますのがベストだと学習した。

僕は中まで火が通っていないハンバーグや味のしない炊き込みご飯や生煮えの肉じゃが等は食べたくない。


ちょっと普通じゃない通路(?)を通って家庭科室の側を通り過ぎようとしていた。


その時教室の中からコロッケの歌が聞こえてきた。


これって、あの時の彼女か?


僕はそう思って窓から中を覗いた。

中では一人で片付けの最中だった、


また一人で片付けしてんの?


歌は玉ねぎをみじん切りにするところだった。


「ねえ? なんで一人で片付けしてんの?」


「うっひゃう!?」


声をかけたら面白い叫びが上がった。そして拭いていたのか手に持っていた鍋のふたが飛んだ。


ガッコーン・・・カランカラン・・・


物凄い勢いで振り返った彼女と僕は見つめあった。


いや、睨みつけられた。


あ、あれだ、思いがけず野良猫に出会ってしまったときの猫がわの反応だ。言葉に成らないけど


「アンタダレ! アンタダレ!」


って全身の毛を逆立てて威嚇してくるあの姿にそっくりだ。


うわ、ちょっとショック。今までここまで露骨に警戒されたのはじめてだ。


気まずい空気を消したのは


チン!


と鳴った電子レンジの音だ。


「ごめんね? 驚かせちゃった?」


なるべく警戒して野良猫モードに入っちゃった彼女を刺激しないように穏やかに聞いた。


「当たり前じゃないですか2階の外窓越しに声をかけてく人なんて普通いません。」


と彼女の反応は冷ややかで心が折れそうになった。 


声がモロ不機嫌だ。


 ついでに僕の存在なんてマル無視してサッサと片付けを続行してた。


 こっちが気になってチラチラ見ながらとかじゃなくて、まったくこれっぽっちも関心がありませんって感じ。


 自分これでも女子にはそこそこ人気あるハズみたいなんだけどなぁ・・・


 2階の外窓だよ?


「わぁ、危ない!」 とか、


「早く中に入ったほうがいいですよ」 とか


 そういうリアクションは?


 あ、無いんだ。・・・結構傷つくかも。


「あの」


 声をかけられるまで、彼女が側まで来ているのに気づかなかった。


「はい!?」


 声が裏返った。


 しくしく、ミットモナイ。


「いつまで、いるんですか? 窓閉められないんですけど」


 非情な言葉にガックリしながらもなんとか会話を継続させようと僕は足掻いてみる。


「ん、だって最初の答えもらってないし?」


 なんで一人で片付けてるの?


 僕はそう聞いたはずだ。


「そんなの、いても役に立たないからに決まっているじゃないですか。下手に仕事増やされるのなら、一人のほうが能率も効率も上がるんですよ」


 うわぁ、キツ!


 一瞬も考える事無く返された返事に何だかメリコミそうになった。


まぁ、確かに手際のいいのは認めるけど、その言い方はやさしくないだろう。


 そう思って口に出そうとしたが、それよりも先に腹の虫が盛大に自己主張した。


「・・・お腹すいてるんですか?」


「え、いや、あの・・・はい」


 たしかに腹は減っている。

 

 いやでもさ、その前に言おうとしてたじゃん?


 ちょっとカッコよく言おうとしてたじゃん?


 ってか、何故このタイミングで鳴る。


「リゾットで良ければ食べていきますか?」


 うっ、さっきからそれがいい匂いさせてたんだよ。

 僕は食欲に負けた。


「もらっていいなら、いただきます。」


僕は窓枠を乗り越えて中に入ると手近な椅子に座った。


「食器は持ち出せないのでここで食べてしまってもらえますか?」


そう言って彼女は僕の前にリゾットを出してくれた。


「あぁ、もちろん。ありがとう。いただきます。」


「はい、どうぞ。召し上がれ。」


そう答えてくれた彼女は僕の座った机の端に座ると自身も食べ始めた。


リゾットはトマト味で普通に旨かった。


「あのさ、頂いてて何なんだけどなんでご馳走してくれたの?」


僕とは初対面の筈だがこんなに簡単にご馳走してもらえる物なのだろうか?


「食べきれそうになかったんです。持ち帰るにも入れ物がなかったですし、食器は持ち出せないと言いましたよね。ですから残ったら捨てるしかなかったので、捨てるぐらいなら食べてもらった方が生ゴミ出ませんし助かるんです。」


・・・いわゆる残飯処理ってヤツですか・・・


別に旨いからいいもん!哀しくなんかないもん!


「他の人達は? 食べなかったの? 旨いのに」


そう言うと彼女は


「これ元は炊き込みのチキンライスなんです。部分的に味が片寄っててまともに食べれそうなところだけ他の人達は持っていきました。」


「そう、なんだ。色々大変だね。」


「いえ、別にいつものことですから。それより食べ終わったんなら片付けるんで出てくださいね」


 そう言って後片付けを全部すませた彼女は窓を閉めてガス栓のもとまで点検してから実習室を出て行ったんだ。


なんか、スゲー嬉しい。


 思わず顔がニタニタ笑ってしまう。


 あの後ごきげんだった僕に友達はついに脳ミソが湧いたと思ったらしい。


 いいな、彼女。


 教室もどったら、ゴミ箱に元はチキンライスと言われたものが何個も捨てられていたりしたけど。僕は美味しくリメイクされたリゾット食べたもんね。


 実は彼女は同じクラスだった。なんで気がつかなかったかな僕は。

で彼女は僕の席から左側前方。


 外を見ているふりをして僕は彼女を眺めていた。


 毎日毎日ただ見ていた自分はストーカーの素養があるんじゃないかと本気で心配したくらいだ。


 朝おはようと声をかけて、彼女の関心の有りそうな話題を振りまいてみる。


 芸能、お笑い、スポーツ。今日の天気から週間予報まで、自分でも涙ぐましい努力だと感心する。


 なのに、カスリもしない。


 今まで女の子の話しは向うから一生懸命に話してくれたのにただ肯いていればよかったんだ。


 そうすれば、話しをちゃんと聞いてくれるいい奴だって評価は向うから転がり込んできた。


 ごめん、


 今までスゲー手抜いてた。


 話しなんてしてくれるもんだと思ってた。

 

 今までの子達もこんなに必死で自分との会話を考えてくれてたのかと思うと、なんかマジでごめんなさいって言いたくなった。



だけど本当に彼女の攻略方が見つからない。


 彼女の好きなものとか、


 ハマっているものとか、


 さり気なく聞き出したいのに本人には果てしなくスルーされて、回りの友達に聞こうにもその相手がいない。


 彼女はいつも独りでいることが多い。


 友達がいないわけではなさそうなんだけど、特別仲のいいグループがあるようには見えない。


 部活をやっていることもなく、

 

 バイトをしている様子もない。


 いつも静かに本を読んでいるか、


 ⅰPodで何かを聞いている。


 本は厚くて細かい字がいっぱいので、音楽はクラッシックだったりする。


 マンガとj-POPがせいぜいの自分とは接点なんて無いのかもしれない。


 でも、僕はあきらめたくは無いんだ。


 知らないから知りたい、


 判らないから判りたい。


 生真面目で几帳面で、独りでも毅然としていられる彼女の側に近づきたいんだ。 




土・日・月の三連休の後の火曜日、神様は僕を見放さなかった。


 昼休みいつもどこでお昼をしているかナゾだった彼女をやっと見つけて、どうやって隣の場所を確保するか迷っていると、彼女の方が僕を見つけるやいなやダッシュで駆けて来た。


 ガシッと両手で僕を掴むと、必死な声で目をきらきらさせて叫んだ。 


「お願い!」


「はいッ!」


 なんだかよくわからないが勢いにつられて僕まで叫んでしまう。


「そのジャンプ見せて!!」


 え? ジャンプ?


 僕の手には購買で買ってきたパンと、今週号のジャンプ。


 なんだかよくわからないがとりあえずどうぞと差し入れだすと


「ありがとう」


 今まで見たことがない満面の笑顔が返ってきた。


 よっしゃ!! 来た、来た、来たァ~!


 ジャンプよ、ありがとう!

 

 思わず心の中でガッツポーズする。


 日当たりのよい場所を確保していた彼女はいそいそと座り込んでページをめくり始めた。


 隣に一緒に座って話しかける。


「何読んでるの」


「銀ちゃん」


「面白い?」


「うん」


 ほとんど聞いていないような返事なんだけど、ニコニコしてちっちゃい子みたいな彼女が可愛くて


「ねぇ、つきあって?」


 思わずそういっていた。


「・・・・」


 あれ?


 返事がナイ。


 覗きこむと読みながら笑っている。


 これはもしや、耳に入ってない?


「あのさ、」


「ちょっと待って」


 言うなり間髪置かずに右手でストップがかかった。

 僕の告白、銀さんに負けた? 


 ガーンとしている僕を尻目に彼女はジャンプを堪能し終わると今週も銀さんカッコよかったぁと吐息を漏らした。


 そうか?


 いつもと同じマダオだったぞ?


 内心釈然としない思いで軽く突っ込みを入れていると、くるりと僕に向き直った。


「ありがとうございました」


 深々と頭を下げてジャンプを返してくれ、スクッと立ち上がった。


「それで何所に付き合って欲しいんですか」


 そう言われた瞬間頭がクラクラした。


 わざとか?


 さりげにスルーされたとか?


「えっとね、そういう意味じゃなくてね。きみのことが好きだからつきあって欲しいっていう意味なんだけど?」


 面向かってハッキリ言ったんだけど、彼女はキョトンとして言った。


「はぁ? 何でですか?」


 何でって今言ったじゃん! 


 あまりのことにさすがに次の言葉が見つからない


 あー、うーと唸るしかないところに、彼女は畳み掛けてくる。


「ありえないですよね? だってお互いの事ほとんど何も知らないんですよ。挨拶程度で好きとか言われてもその判断基準わからないんですけど?」


 ・・・確かにごもっともです。


 しかしこの子はどうしてここまで冷静なんですか!?


 普通女の子が告られたら頬を赤らめるとか動揺して言葉が出て来ないとかじゃないか?


 やっぱ面白いよ、この子。


「そういう普通の返事が返ってこないとこがいいんだけど」


 笑いながらそういったら


「なんかものすごく嘘っぽいんですけど」


疑惑の目を向けられて僕は慌ててそんなことないでしょうと言い募る。


「でも、私はあなたの事ほとんど知らないことは変わらないでしょう?」


 まずい、これはごめんなさいコースだぞ。


「知らないからお付き合いして、お互いの事よく知るんじゃない?」


 粘れ自分!


「趣味も好みもわからない段階で付き合っても沈黙が痛いだけですよね」


「でもそれじゃ、知り合いとしか付き合えないじゃん、世界が狭いでしょ」


「別に不自由は感じませんけど」


 まずい、マジヤバい完全にお断りモードだぞ


「つまりごめんなさいってこと?」


「有り体に言えばそうなりますね」


 そこで冷静に言わないでよ、イタいからさ。


「知り合い以外は最初からハジクのはフェアじゃないんじゃない」


 フェアじゃないのフレーズに彼女は反応した。


「フェアじゃなかろうとなんだろうといきなりお付き合いは出来ないって言っているんです」


「じゃあ、友達は?」


 ぐっと彼女は言葉に詰まる。


 ほらグルグル考えている。


 根気よく返事を待っているとしぶしぶの様子で口を開いた


「まぁ、それならいいですけど」


 よっしゃ! とりあえず友達認定はゲットしたぞ。


「んじゃ、自分たちは友達ということでオッケー?」


 不本意の気配ありありで彼女は頷いた


「じゃあ今日一緒に帰ろう」


僕がニッコリ笑ってそう言うと彼女は目を見開いて


「何でそうなるわけ!?」


 と顔中口にして叫んだ。 


「だって友達なら一緒に帰るとか普通じゃない?」


 ケロリと言う僕を物凄い目で睨む。


 あはは、スゴイ手応え楽しい~


「ね?」


「~!! あなた温厚そうな顔して実は物凄く腹黒なんじゃないの!?」


「まさか、人聞き悪いな夕子ちゃんてば」


 へらりと名前を呼べば何で名前呼びしてんのよとキレた。


「だって友達でしょ。僕の事も洸って呼んでね」


 強引に約束させられて彼女、もとい夕子ちゃんはプリプリ怒って行ってしまった。


多少強引でもこうでもしなけりゃ彼女は自分の事を眼中にも入れてくれないのは確かだ。


 あきらめられないのなら頑張るしかないのだから仕方ない。


 まぁ、彼女には気の毒だけどしょうがないよね?



その後腹を括った彼女は僕とお友達付き合いを容認した。


 帰りは一緒に帰ってあちこち寄り道をしたり、休みは一緒に出かけたりした。


 そうやって一緒に行動していると彼女は女の子ということをほとんど感じさせない。


 言いたいことはハッキリ言うし、


 自分の事は自分でするし、


 出かけても疲れたといいだしたりとか、


 何かをねだったりとか無くて


 非常に一緒にいて楽というか、安心というか、僕的にはずっと一緒に居たいって思った。


 行く場所もゲーセンとかバッティングセンターとか男友達とほとんど変わらない。


 っていうか、格ゲーとかめちゃ強い。対戦で何度負けたか。


 気さくに付き合えてしかもスゲー楽しいそんな感じだった。


 あのときまでは・・



購買部でパンを買っていたら遅くなった。


 月曜はジャンプの日。


 一緒にお昼して、その後彼女はジャンプを読む。


 僕はその隣で彼女の気配を感じながら昼寝。


 こういう何気ない時間がすっごい幸せを感じる。


 自分結構お手軽?


 片っぽがマンガ読みふけっていて、その隣で黙っているのってキツクね?


 って聞かれるけど、僕は思ったことはナイ。


 たぶんフツー、ツッマンねぇ~なんだろうけど、あの子ある意味フツーじゃないから。


 ニマニマしながら読んでいて突然話し振ってきたりするし。


 ウルキ〇ラってなんで穴あいてるのとか、 


 ラーメン食べているのを見たら食べたくなったから帰りに行こうとか。


 ナチュラルにフツーに楽しい。


 行くといつもの場所にいない。


 初めて僕が告ったあの場所だ。


 おっかしいな、


 先に来ている筈んなんだけど。


 探しながら歩いていくと、


 いた。


 ちょっと建物の影になる場所だ。


「ゆう、」


 声を掛けようとして、止めた。


 誰かと一緒だ。


「加藤君と付き合っているの?」


 自分の名前が出てきていてビックリする。


「友達づきあいならしているけど」


 それが何?


 的なぶっきらぼうな彼女の返事。


 聞いているこっちがヒヤヒヤする。


「はぁ? 何言ってんのアンタ。一緒に帰ったり出かけてたりしといて白々しいこと言ってないでよね。ベタベタしてキショイんだよ」


 一体何人いるんだ、自分ここで出て行ってもいいのか?


 いや、なんかそれは余計こじれる気がする。


「友達と帰ったり出かけたりって普通にするでしょ。どこが変なの? 別にベタベタしているつもりもないし、それ以前になんであなた達にそういうこと言われるのか理解できないんだけど」


 強い、んで、凄い不機嫌。


 くだらない


 そう思っているのが有々と判るし、それを隠そうともしない。


 自分が絡んでいることながら、むやみやたらと敵つくりそうな雰囲気にヤバげな感じがする。


「女同士とオトコとオンナじゃ話しが全然違うじゃん、そんなこと当たり前でしょ」


 その後セセラ嗤うように言った言葉に猛烈に腹が立った。


「あぁ、そっか。鈴木さん友達いないもんね~ 解んないか、ゴメンねぇ~」


 うわ、こいつらマジ性格悪い。


「とにかく、付き合ってもいないなら加藤君の周りチョロチョロしないでめ・ざ・わ・り」


 沸き起こった嘲笑を凛とした彼女の声が遮る。


「私が誰とどういう風に付き合おうとあなた達に指図される謂れはない」


 格好イイ。


 ああいう所ホントすげー好き。


 震えてても、歯を食いしばってても、流されないブレないその姿勢にホレボレする。


 いつもへら~っとした自分には無いもの、それに僕は憧れていたんだと気が付いたのは最近だ。


「鈴木さんズルイよッ!! 

アタシ知ってるんだから! 

加藤君が告ったのに振ったじゃない! 

なのに何で一緒にいるのよ! 

どうして側にいるのよ! 

ズルイよ、酷いよ! 

アタシの方が先に好きだったのに後から来てアタシのずっと欲しかった場所とってるくせに、加藤君の事好きでも何でも無いくせに!!」


 ワァーと泣き出す声と口々にヒドイ、ズルイと彼女を責める声。


「だからぁ、何度も言うようだけどサァ。加藤君の事友達としてしか見てないんだったら離れてくんない?こうやってさ、マジで好きな子とかもいるわけよ。でアンタがそうやって側にいると、この子達はチャンスが無くなっちゃうのよ。そりゃさぁ、好きで付き合ってんならこっちが我儘言ってるだけだから諦めさすけど、違うなら離れて。」


「加藤君だって可哀想じゃん? 振られてからも側にいられたらもしかしたらって期待しちゃうよね。それって生殺しで残酷だよね。失恋ってさ、次行かないと中々立ち直れないしさ、加藤君の事チョッとでも友達として大事に思ってんのなら離れてあげるのも彼のためだと思うけど」



僕のため?


 何白々しい事言ってんだコイツ等。


 そういうのを大きなお世話っていうんだ。


 やっと彼女が僕といるのに馴れてきてくれたんだ


 隣で笑っていてくれるようになったんだ


 それが本当に嬉しくて


 楽しくて幸せなんだ。


 だから、頼むから壊さないでくれ。


 祈るように僕は拳を握り締めた。


「・・・そう、わかった」


 え? 何が?


「あなた達の言い分はわかった。」


 う、嘘だろ・・・


 何でそうなるんだ?


「ホント? ありがとう!」


 ありがとうってどういうことだよ。


「ちょっと待てよ、お前ら! 何勝手な事言ってんだよ!!」


 キャァー甲高い悲鳴が耳を刺す。


 何でここにいるのとか、うそ、やだ、どうしようとか騒ぎ出す。


「うるせぇよ! 黙って聞いてりゃ勝手な事ガタガタ抜かしやがって、お前らにそんな事言う権利がどこにあるんだよ!」


 怒鳴りつける僕をそいつらは信じられないとばかりに目を丸くしている


そりゃそうだ。

 

 今だかつて女の子にこんな風に声を荒げたりした事なんて無かったんだ。


 いつもニコニコ、

 

 愛想よくしていれば面倒な波風は立たないし


 楽だ。


 でもそんなの本当は誰にも興味が無かっただけだ。


 適当に無難に世間を渡っていく処世術だ。

 

 そんなの誰だってやっているし、まともにぶつかって傷つくのなんてバカバカしい。


 そう思っていた、今までは。


 だけどそれじゃホントに欲しいものは手に入らないってやっと気がついたんだ。


 だから・・・


「振られたって側にオレが居たいからここにいるんだよ! みっともなかろうがなんだろうがオレの勝手だろ! お前らにガタガタ言われる筋合いねーんだよ!」


 一気に吼えて息が上がる。握り締めた拳がワナワナ震える。


「邪魔すんなよ! 目障りなんだよ! たとえ振られたってオレはお前なんて絶対好きになんかなんねぇんだッ・・・!?」



 バシーッン!!



 僕は最後まで言い切れなかった。


 遮ったのは彼女の夕子ちゃんの凄まじい平手打ちだった。


「言い過ぎ、それ以上言ったら見損なうよ」



え? な、なんで?


 何で僕が彼女に引っ叩かれなきゃなんないんだ?


「言っておくけど、傷つけられたからってその相手にどんな暴言吐いても言いわけじゃないんだからね」


 怒りに燃える瞳が真直ぐに僕を射抜く。


「それに」


 続けながらふっと目を伏せて


「自分で言った言葉に後で傷つくのはアンタなんだからね」


 そう小さな声で囁いた。


「それから、言われたのは私。どうするか決めるのも私」



 じゃあね


 彼女は踵を返して行ってしまった。


 振り向きもしないで。


嘘だろ?


 何でこんな事になってんだよ。


 ほんの5分かそこらの間にどんだけ彼女との距離が開いちゃったんだ?


 この何週間かでようやく縮めた距離がドンドン遠くへ離れて行く。


 僕にはそれをとめる手段も思いつかなくて


 どうしようもなくて


 自分の手の中から大事なものがサラサラこぼれていってしまう心細さと、情けなさで


 イタイ


 痛くて気持ちが萎えそうだ


 ジャア、コノママアキラメル?




 ・・・チクショウ


 んなこと出来るか!!!


僕はダッシュで彼女の後を追った

 

 「夕子ちゃん!! 待って!」


 彼女の後姿に叫ぶ。


 聞こえている筈なのに彼女は足を止めてくれない。


 一気に間をつめて腕を掴んだ。


 「お願いだから、待って」


 かろうじて足は止めてくれたものの、振り向いてはくれない。


 「ごめん、嫌な思いさせて」


 「謝らなくていい、洸のせいじゃない」


 声が硬く強張っている。


 「うん・・・ でも、ごめん。夕子ちゃんはあんなこと言われるすじあい無いでしょ。僕が自分の気持ちを押し付けたから八つ当たりされたわけだから」


 彼女は最初から僕に興味も好意も無かったんだから。


 ただ、僕が彼女に振り向いて欲しかった。


 一緒にいたかった。


 笑いながら歩きたかった。


 そばにいたかった。


 ただそれだけなのに


 うまくいかない・・・

 

「ごめんね。俺、重かったでしょ?」


 返事は無い


 「切られてもしょうがないんだけど、誰かに何か言われたからって理由はかんべんして」


 

 ねぇ、俺のことどう思ってる?


 少しは好きになってくれてた?


 一緒にいて楽しくは無かった?


 そう聞きたい。


 でも聞いたらいけない。


 今でさえ彼女の肩は小刻みに震え、握り締めた拳が白くなっているというのに、


 これ以上彼女を追い詰める事は出来ない。


 今僕がなにを言っても彼女の負担にしかならない。




 「・・・手、離して」



 何度か深呼吸した後に彼女は吐き出すように言った。


 小さな小さな声だった


 

 「今は、ムリ。考えられない」



 手から力が抜ける。


 離れてしまう。


 大事なものが、大切に想っている人が・・・



 「待ってるから!!  いつもの場所で俺ずっと待ってるから!」



 

 今の僕に出来る事なんてなんにもナイ


 ただ待つだけ


 ひたすら忍の一字で待つのみ



 つらいよ~



 好きな人目の前にして話しかけらんないんだもん


 おはよう、いいとこそんなもん



 つ、つらい・・・



 んで、昼休みは彼女と一緒にいた場所で独り淋しく昼飯を喰う


 必然、ため息も多くなる


 吐いているつもりがなくとも


 口から魂抜けてんぞ と周りに言われる


 だって、仕様がないじゃん


 淋しいんだもん


 メシ喰ったって、ゲーセン行ったって


 何してたって


 足りないんだ、


 決定的にタリナイんだ。


 彼女が。


 あ~、どうしよう。


 振られたらずーーーっとこんなに淋しいのか??


 振られても、もう一回


 再チャレンジ!


 とかしてもいいのか



3日すぎて、一週間すぎて、10日すぎても彼女は何も言ってはくれない。


 こりゃマジでフラれたか。


 なんだかもう、情けなくて自嘲するしかない。


 気持ちのどっかで自分に都合のいい結果を考えてた。


 でも彼女からすればウザイチャラ男が纏わり付かなくなって今頃清々してるとか。


 ネガティブスパイラルで地の底まで沈んで行けそうだ。


 気力も覇気もナイ状態で購買部に行ったって、昼飯などGet出来るはずも無く弾き飛ばされて争奪戦に負け、売れ残りのパンをようやく手に入れたときにはいつもより大幅な時間が過ぎていた。


 のたのたといつもの場所へ辿りつくとそこに



 彼女がいた。


 

 いたんだけど、どうも様子がおかしくないか?


 妙に緊張してるような感じで、またこの前みたいに誰かに何か言われているとか?


 「夕子ちゃん?」


 僕は恐る恐る声をかけた。


 そしたら彼女の体がこっちが驚くほどビクッと震えた。


 「どうしたの? なんかあったの?」


 思わずそう言ってしまうぐらい振り返った彼女の顔色は真っ青だった。


 「具合でも悪い? 大丈夫?」


 今にも倒れてしまうんじゃないかと思うぐらいだ。


 そしたらいきなり彼女の目からボロボロ涙が零れた。


 「え、な、何!? どうしたの!? どっか痛いとか!?」


 あまりに突然で


 オロオロ、オタオタ。


 瞬きもしないで、どっか壊れたか!?


 ってぐらい涙が落ちてくる。


 「・・・から」

 

 「え?」


 とりあえずハンカチか何かないかと探してたら聞きのがすぐらいの声が聞こえた。

 

 「いないから・・・ いつも、いたのに、いないから・・・」


 ポッケの中にはティッシユしかなくて


 「もう、待っててくれないん、だ。っておも、もって・・・」



 マン喫のしょぼいティッシュの袋から2,3枚とって彼女の顔をふいてあげた。


「ごめんなさい」

 

 ハッキリと彼女はそう言った。

 

 ゴメンナサイ

 

 あぁ~、オレフラれた~


「ごめんなさい、わたし、洸に、酷い事してた」


 しゃくり上げながら一生懸命言葉を紡いでゆく彼女は痛々しくて、もういいからと言ってあげたくなる。


 好き嫌いは別にしても、人との関係を切るのは痛い。


 切る方も、切られる方もツライから。


「洸が、毎日ココに、来てくれてるの見てホッとしてるのに、自分でちゃんとするって言ったのにちゃんと出来なくてごめんなさい。」


 毎日いるのは知っててくれたんだ。


 ちょっとは気にしてくれていた事にホッととする。


「洸はわたしなんかのどこがいいんだろうって、今は物珍しさで面白がってくれているけど、きっとすぐにつまんなくなっちゃうんじやないかとか考えたら怖くなった」


怖い?


「いつか失くしてしまうものなら最初からない方がいいって。今ならまだ洸にツマンナイ奴って思われたわけじゃない。今なら寂しいって感情をチョッと我慢すればやり過ごせるって」


 いや、違うから。

 そこ我慢しちゃダメなとこでしょ


「だけど今日いなくて、どうしようって・・・ ちゃんと答えを出さなくても洸が待っててくれてるってことに甘えてた。そうやってズルイこと考えたからバチがあたったんだ」


 バチって・・・


「見限られてもういらないってきっと思われた。本当につながりが切れちゃったって考えたら凄い苦しくて、ちょっと寂しいのを我慢すればなんて嘘だった」


 『私の事好きならそのぐらい待ってなさいよ!』

 

的なことを平気な面してみんな言うのに君は自分を責めるんだ。

 

人付き合いに不器用なくせに誠実であろうとする君は今までどれだけ傷ついてきたんだろう。

 

最初からもたなければいいなんて思えるほどに・・・


「僕は夕子ちゃんのこと好きだよ。つまんないなんて思った事ないし、僕は夕子ちゃんと一緒にいるときスゲー楽しい。一緒にいらんなかった14日間辛かった。淋しかったし、何やってもなんか物足りないし、気がのらないし。ねえ? 僕といたときちょっとは楽しかった?」


彼女は首を縦に振る。


「・・・いやなら、嫌だって言える・・・」


「そっか、よかった。ならさ、いま無理して答え出さなくてもよくない? 僕は夕子ちゃんが僕のこと異性としてちゃんと好きと思ってもらえるように頑張るから、頑張りを見ててそばで。」


「・・・洸は私を甘やかし過ぎでしょ。」


「僕は好きな子は甘やかすタイプだから。」


いいんだ。


そう言うと私がそれを利用して図にのったらどうするんだとかなんとかブツブツ文句を言っていた。


「じゃあ夕子ちゃんは僕のことキライ? 好きじゃない?」


「そう言う聞かれ方は答えにくい、キライじゃない。でも異性として好きかと聞かれたら判らないとしか言えない。」


「前にさ、付き合って欲しいって言ったときよく知らないからって断られたんだけど。改めて恋人になってくださいって言ったら?」


「そ、それは問題集の答を先に見てしまうのと一緒だろ!」


「? 意味が通じないんだけど?」


「・・・自分から言う。洸の事がちゃんと好きになったら自分で言う。」


「ホント!? 」


「うん。待っていてもらえると嬉しい。」


「わかった、待ってる。でもなるべく早くお願いします。」


僕がそう言って頭を下げると彼女は朗らかに笑った。





ねえ?

夕子ちゃん気がついている?


きみいま好きになるから待っててねって言ったも同然だってこと。



僕も彼女と一緒にニッコリ笑った。


僕が君を好きな理由はそういうところもなんだよ


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[良い点] こういうお話大好きです! 自覚無しの告白とか、はあ~(*´艸`*)、ってなります(笑) あ~、久しぶりにキュンキュンしました(*>∀<*)ノ
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