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人間って怖いです。

 すぐに出発しようと思っていたが、よく考えればもう昼を過ぎている。今から出たとしても大した距離は移動できない。


「なぁミレア、この村って宿泊施設みたいなものはあるのか?」

「んー、たぶん無かったと思うよ」

「それじゃ、前に通った時はどうしてたんだ?」

「あのときは、村の敷地内の空いた場所で野営させてもらったかな」

「じゃあ俺たちもそうするしかないか。許可とかいるのか?」

「んー、特に許可とかは貰ってなかったと思うけど?」

「そうか……」


 商店があったのだから宿泊施設もあるかと思ったが、違うようだ。以前デルクたちが野営した場所なら大丈夫かな?


 とりあえずミレアに、以前野営した場所まで案内してもらい、念のため近所に住んでいたおばさんに、野営してもいいのか確認しておく。


 話しかけた瞬間、嫌な顔をされたが、野営自体は特に問題はないとのことなので、遠慮なく居座らせてもらうことにした。


 エイルたちが、せっかくだから村の中を見てきたいと言いだしたので、俺とミレアは荷車の番としてこの場に残り、エイルたちには諌め役としてイードにも同行してもらう事にした。


 エイルたちが居なくなってからはぼんやりと空を眺めつつ、思考を巡らせる。まずは店主とのやり取りの際に感じた目の痛みについてだ。


 あの時感じた痛みは間違いなく以前魔眼が発動した時と同じだ。


(とりあえず久しぶりにステータスを確認してみるか)


*―*―*―*―*―*―*―*

ライズ 男 6歳

Lv.1

魔力22

筋力6

防御9

素早12

器用15


スキル:病気耐性Lv.2 回避Lv.1 潜伏Lv.1 忍び足Lv.1

ユニーク:初心の魔眼(1)

*―*―*―*―*―*―*―*


「へっ?!」


 思わず声を上げてしまった。なぜかステータスが根こそぎ上がっている。二年かけて少ししか変わらなかったはずの能力値が、たった数日で倍以上になるなどあり得るのか?


 それにスキルも増えている。特に【潜伏】と【忍び足】はデルクに雇われていた傭兵のひとり、たしかレスクグとかいうヤツが持っていたスキルだ。【回避】の事も含めて考えると、心当たりはあの時のワイバーンくらいしか思いつかない。


 だが、肝心の【魔眼】の表記には変化が無かった。どういうことだ?


「ねぇライズ、どうしたの?」

「……ん?」

「急に変な声出すから……、何かあったの?」

「あ、いや、なんでもない」

「……変なの」


 突然あんな声を出せば、そりゃ不審に思うよな。正直すまんかった。心の中でミレアに謝罪し、再び黙考する。


 店主と目を合わせた瞬間、【魔眼】が発動したのは間違いない。だが、肝心の【魔眼】の表記には変化が見られない。だとすると、あの時何が起きた?まさか能力値を奪ったってことは無いだろうな?いや、それは無い。荷車を押している最中も、運ぶのが楽になったとか、そういった差異は感じなかったし、さすがにそこまで凶悪な魔眼ではないはず……やばい、考えたら不安になってきた。


 一度あの店に戻って、店主のステータスを確認した方が良い。だが、今この場を離れるわけにもいかない。できればイードたちに早く帰ってきてもらいたいところだが……。



 結局、イードたちが戻ってきたのは日が暮れ始めた頃だった。もしかしたらまだ間に合うかもしれないという思いで、昼間行った商店へと駆け足で向かい、そこで店じまいをしている店主の姿を見つけた。


 これ幸いと、すかさず【魔眼】の使用を意識する。


*―*―*―*―*―*―*―*

エノコーリオ 男 41歳

Lv.6(肥満)

魔力0

筋力12(-3)

防御11(-3)

素早14(-9)

器用15(-8)


スキル:交渉Lv.1

*―*―*―*―*―*―*―*


 なんというか、レベルのわりに残念な数値だった。能力値の横にあるマイナスは肥満によるペナルティのようなものだろう。能力やスキルはデルクの劣化版のようだ。


 気になったのはエノコーリオに【魔眼】が無かった事だ。あの時感じた痛みは【初心の魔眼】が発動したときのものだと思っていたが、違ったのだろうか?


 ダメだ。わからない。考えている間に店主も建物の中に引っ込んでしまったようだし、もうここに用は無い。


 俺は一度思考を打ち切り、野営している場所へと戻った。



「お?おかえりー」

「ああ、ただいま」


 エイルが俺に気付いて声をかけてくる。既に食事の準備は終わっているらしく、全員で焚き火を囲って座っていた。

 今日だけはいつもより食事が豪華だ。それというのも、イードたちが村を散策中にパン屋っぽいものを発見したとのことで、買ってきてくれたようなのだ。


 久しぶりに口にするパンは、表面も中身も固く黒っぽい。口に含むと水分が奪われ、パサパサとした食感だけが残る。用意されていたスープを飲んで喉を潤し、ひと息つく。美味しくないはずなのに、気付けば全部食べてしまっていた。


「パンなんて食べたのいつぶりだろうな!」

「村だと小麦粥だもんな……」


 嬉しそうにパンを食べ終えて喋るエイルと、しみじみしているパーバル。イードとミレアは黙々と食べていた。


 俺はふと空を眺めながら、再び思考に浸る。どうして、俺はここに居るのか。なんのために【魔眼】なんてものを持っているのか。ずっと考えていた。結局答えなんてわかるはずもなかった。


 今はもう考えるのを放棄しつつある。今は生きるのに精一杯でそれどころではないし、何だかんだでこの生活に生きがいを感じていたりもする。


 日本ではこんなに必死になったことなんて無かったし、そこまで必死になる必要もなかった。命の危機なんて感じた事が無いし、食べ物が無くて飢えるなんて心配もなかった。


 人間関係も今思えば希薄なものだった。社交辞令や建前ばかりで中身を伴わない言葉。相手が不快にならないように気を付けて、適当に美辞麗句を並べておけばそれでよかった。


 それが今では村のためだと言って、自分から危険な事に手を出している。周囲まで巻き込んでこんなことをやっているのだから、巻き込まれた側からすれば、とんだ疫病神だと言われても仕方がない。


 必死に生きている。それだけで日本に居た頃には感じなかった達成感がある。ステータスに表示された能力値が上昇するたびに、自分が成長しているのだと実感できてワクワクしてしまう。【魔眼】や【スキル】、【魔物】に【魔法】。いつか見たアニメや小説、漫画の中の出来事が、今俺の身近にあると言う事実が楽しくて仕方ない。


 具体的に何がしたいかというのはわからないが、いつかこの世界を見てみたいと思う。小説で見たような冒険は、さすがに危険すぎて遠慮したいが、綺麗な嫁さん探しくらいはしてみたい。……ハーレムってどんな感じだろう?


 おっといかん、思考が煩悩に走ってしまった。未だ体は六歳児なのだから自重せねば。


 その後、夕食の後片付けを終え、それぞれ就寝する。一応見張りは立てたものの、特に何事も無く夜は明けた。



「さて、それじゃ早いとこ村に帰ろうぜ!」


 早朝から元気よく声を出したのは、言うまでも無くエイルだ。全員早朝からの仕事に慣れているので、この時間から活動しても苦にならない。ミレアも朝には強いようで、移動も問題無さそうだ。


「それじゃ、出発しようか」


 イードが代表して出発を促す。来るときよりも荷車が重いので、ゆったりとしたスピードで俺たちは進み始めた。


「くっそ、予想してたとはいえ、これは……重いな!」

「無駄口たたいてる体力があったら、しっかりと押せ!」

「わかってるっての!」

「…ゼェ…ゼェ…」


 エイルの悪態にイードが喝を入れる。パーバルは既に相当疲労しているようで、呼吸が荒い。


 出発してから数時間が経つが、このやり取りはもう何度目だろうか。ミレアはすでに荷車に手を添えているだけの状態だ。この辺りはやはり女の子なのだろう。


 このメンバーの中で最年少の俺はと言えば、まだ余裕があったりする。とは言っても、イードやエイルのように喋るくらいの体力は残っている程度だ。疲れているし、辛くもあるが、我慢できない程ではない。


 だが、あまり無理をするのも良くないだろう。ここは最年少の俺が休憩を提案するのが一番角が立たないと思う。


「疲れてきたし、そろそろ休憩しよう!」

「おう、無理をしてライズに倒れられても困るしな!」

「そうだな。一度休むとするか」


 案の定、エイルが俺の言葉にノッてきた。単に自分から言いだすのが格好悪いとでも感じているのだろう。メンバーの中で年齢が上なぶん、そういったプライドを持ってしまうのも仕方のない事だ。


 荷車を背もたれにしてその場に座り込むミレアとパーバル。俺は荷車の上に登って周囲を見張り、イードとエイルもそれぞれ休憩しながら周囲に気を配る。


 そんな俺の視界の端に何かが映り込んだ。何かと思って、それなりに離れた場所にある雑木林の辺りに視線を向けた瞬間、目の前に脳内にステータス情報が浮かび上がった。


*―*―*―*―*―*―*―*

ホン 男 22歳

Lv.6

魔力0

筋力15

防御18

素早16

器用13


スキル:忍び足Lv.1 潜伏Lv.1

*―*―*―*―*―*―*―*


 ひとつめを確認し終えると、続けてもうひとつ。


*―*―*―*―*―*―*―*

エノコーリオ 男 41歳

Lv.6(肥満)

魔力0

筋力12(-3)

防御11(-3)

素早14(-9)

器用15(-8)


スキル:交渉Lv.1

*―*―*―*―*―*―*―*


 記憶に新しすぎる名前だ。さすがにここから姿までは確認できないが、あんな場所に身を隠している以上、碌な目的ではない。俺たちを襲おうと考えているのなら、確認できていないだけでもう少し居るかもしれない。子供相手だからと人数が少ない可能性もあるが、あまり甘い考えをすべきではないだろう。


 この距離なら俺たちの会話が聞かれる心配も無いだろう。すぐに襲ってくる様子もないし、ここで対策を話し合っておいた方が良い。


「みんな、ちょっと話がある」

「ん?どうした?」

「何かあったのか?」


 エイルとイードが俺の言葉に反応してこちらを見上げてくる。パーバルとミレアも言葉は出さずともこちらを向いていたので、聞いていると判断して話し始めた。


「最初に、俺の話を聞いても絶対に視線を俺から外さないでくれ」

「ん?なんだ?どういうことだ?」

「エイル、黙ってろ。ライズ、何か見つけたのか?」

「たぶんイードの考えてる通りだと思う。俺が確認できたのは二人、どうも俺たちの後をつけて来てるみたいだ」


 俺の言葉に、全員がハッとする。気の弱いパーバルがキョロキョロしそうになったが、エイルがすぐに止めた。


「どこだ?」

「あの雑木林の辺り」

「あんな場所……ライズ、何かの見間違いじゃないのか?」


 イードが当然の疑問を口にする。ああ、これどうやって答えよう?


「見つけられたのは偶然だ。何かが動いたように見えたから、そっちを注意して見てたら、どうも人間っぽかったから」

「そうか……」

「少なくともふたりは居る。見えないからどうしようもないけど、もっと居るかもしれない」


 全員が黙り込む。会話している間も周囲に視線を走らせて警戒しているが、エノコーリオたちがあの場所から動く様子は無い。


 ああ、もう!本当に面倒なことになった。

次回更新は未定です。

書きあがり次第投稿いたします。

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