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ちょっとした冒険気分です。

本日二話目!

 夜に村の外に出るのはさすがに無謀だろうという事で、村人が起き出す直前を狙って行動を起こした。


 未だ太陽は昇っておらず、まだ暗い時間帯に俺は静かに目を覚ました。俺は隣で寝息を立てているミレアの肩を軽く揺すって起こし、ふたり連れ立って両親や姉が目を覚まさないように、焦らずゆっくりと部屋を出る。前もって準備して家族の目につかないところへ隠しておいた荷物を担ぎ、家を出た。


 冷たい外気が頬を撫でると、寝起きの頭がスッキリ覚める。霜が地面に降りており、日が出てくればさぞ美しく輝くだろう。


 周囲に誰もいない事を確認して、速足で村の入り口へと向かった。その途中に荷車が置かれているので、それを回収していくのも忘れない。荷車を引いて歩くと結構音がするので、ここでもかなり慎重に移動する必要があった。


 幸い誰かに気付かれることもなく村の入り口まで辿り着き、イードたちと合流。誰かに見つかると困るので、俺たちはそそくさと村を出発した。


「いやー!こんなの初めてだけど、やればできるもんだな!」

「僕は父さんたちにバレないか、ヒヤヒヤしたよ」

「おい、お前ら気を抜くな。村からは離れたが、危険なのはここからなんだぞ」

「あっ、ご、ごめんなさい」


 村から出てしばらく経った頃、さすがにもう大丈夫だろうとエイルが盛大に声を上げ、それに続くようにパーバルも楽しそうな声を出すが、最年長のイードに諌められパーバルは小さくなってしまった。


「まあまあ、そんな心配することないって。この辺りならたまにオヤジたちと狩りに行く途中で通るけど、危ない動物は居ないよ」

「だとしてもだエイル、あまり気を抜きすぎるなよ。俺たちは失敗するわけにはいかないんだから」

「わかってるって、イードは真面目だねぇ」


 言い合っているが、イードとエイルの言葉に棘は無い。数少ない歳の近い友人という間柄で、仲がいいのはよく知っている。パーバルは最近大人っぽく振る舞おうと必死らしく、よくイードたちと一緒にいるのを見かける。


 イードは年齢が一番上だと言うのもあるが、もともと責任感が強い。ちょくちょくリーダーっぽい行動を取る子供たちのお兄さん的な存在だろう。エイルは好奇心旺盛で典型的なムードメーカーだ。父親が狩人なため昼間はよく狩りに出かけている。まあ性格が災いしてあまり腕は良くないそうだが、明るく陽気な性格のおかげで彼を気に入っている大人も多い。


 対して俺は、六歳からの奇行が目立つせいか村の中では変な子供扱いだ。村人との交流は積極的に行っているのだが、大人からも子供からも一定の距離を感じる。ミレアも未だ村に来て数日しか経っていないため、村の中では浮いた存在だ。


 エイルが賑やかして、パーバルがそれに追随し、イードがそれを諌める。俺とミレアはそんな様子を眺めつつ、行程を確認して進んで行くといった具合だ。荷車は全員で押して運んでいる。


 今頃村では俺たちが居なくなった事で騒ぎになっているかもしれない。文字の読み書きもできないため置き手紙すらないのだから、正直罪悪感はある。戻ったら酷く叱られるだろう。このことを主導した俺は、イードたちの家族からもいろいろ言われると思う。それでも、俺はやると決めた。彼らを連れてきた責任として、誰ひとりとして欠かす事無く無事に村に戻ると心に誓った。



 村を出てから半日が過ぎようとしたころ、俺は見覚えのある場所へと差し掛かっていた。


 ところどころに深く抉られたような跡が見える地面。ところどころに散らばる木片のようなもの。デルクの馬車が大破していた場所だった。少しだけ依然と違ったのは道の脇に小さな墓標ができていた事だろう。土が盛られ、その上に木の棒が刺されただけの簡素な物ではあったが、それが確かに誰かの墓である事だけはわかる。


 思い出したようにミレアを見たが、俺には彼女がどんな気持ちで墓標を見つめているのかはわからなかった。


 それからさらにしばらく進んだところで、俺たちは一度休憩をすることにした。荷物をおろし、地面に座って体を思い切り伸ばす。


「あー……ただひたすら歩くのって結構キツいな」

「そうだね。いつもやってる畑仕事とかに比べれば全然平気なんだけど」

「確かに、体が疲れるのとはちょっと違うな」


 エイルが自分を扇ぐように手をヒラヒラさせながら不平を漏らし、パーバルとイードがそれに同意するように言葉を発した。ここで黙って聞いているのもいいが、終始無言では俺とイードたちの間で変な壁が生まれてしまうかもしれない。少しずつでも会話に混ざって行った方がいいだろう。


「それはたぶん、慣れない事をしてるせいで知らないうちに緊張していたからだよ」

「そうなのか?」


 俺の言葉に不思議そうな顔で聞き返したのはイードだ。


「うん。いつもなら安全な村の中で畑仕事をしてるから、周囲に危険が無いか気を張る必要なんてないけど、今は村の外だから何か危険があるかもしれないって、自分でも気づかない内に体に力が入っちゃってるんだと思うよ」

「それなら俺は、たまにオヤジたちと一緒に狩りにもでてるし、慣れてるから疲れるのはおかしいんじゃないか?」

「うーん。エイルさんの場合はお父さんたちと一緒だから、安心して村の外で活動ができるんじゃないかな?今は狩りに慣れた大人たちじゃなくて、外の事に疎い俺たちだけしかいないから、同じように疲れを感じるんだと思う」

「ああ、そう言われてみれば確かにそうかもな。……というかライズ、よくそんな事知ってるな?」

「そうだな。ライズと話してると、たまに年下だというのを忘れそうになる」

「たまたまだよ。なんとなくそうじゃないかと思っただけで、本当にこれが正解かはわからないよ。だから、「そうかもしれない」って程度に聞き流してくれればいいから」


 実は精神年齢は三〇歳超えてますとか、説明するのも面倒なので黙っている。まあ思いついた事があればどんどん言うから、子供っぽくない子供だという村の認識が出来上がってしまったけれど……。


 そんな風に雑談をしつつ、ある程度体力を回復させたところで移動を再開した。


 ときどき小動物が顔をのぞかせる以外は特に変わり映えのしない風景が続く。ミレア以外はこんな場所まで来たことなど一度も無く、周囲に対する警戒心が増す。


 特に何事も無く予定していた時間帯まで歩き続けた俺たちは、今日の寝床を確保するために準備を始める。空が茜色に染まるころには野営用のテントを張り終え、道中拾っておいた枯木を使って火を起こした。


 焚き火の中でパチパチと音を立てて枯木が爆ぜる。それを平均年齢約十一歳の子供が五人が囲って質素な夕食を摂っていた。品は言わずと知れた極薄スープである。とはいえ、そんなものでも冷えた体を温めるには充分だ。


 遠くに見える森の方から、時折獣の遠吠えが聞こえる。焚き火をしていれば大丈夫だとは思うが、さすがに見張りを立てずに眠れるほど図太いはずもない。交代制で見張りをすることになったものの、初日は不安でほとんど眠る事ができなかった。


 二日目も似たような風景の中をただひたすら歩くだけで終わった。三日目は大型の肉食獣がいた痕跡をエイルが見つけた事で、始終辺りを警戒していたが、結局何かが起こる事はなかった。四日、五日と過ぎて行き、徐々に俺たちの気力も擦り減っていく。


 そして、村を出てから六日目。ついに目的の場所へと辿り着いた。村らしき場所を発見した瞬間、全員のテンションがおかしなことになったのは言うまでもないだろう。子供には六日の道程すら厳しいものだったのだ。


 その村は俺たちが過ごしていた村より活気があり規模も大きなものだった。というか、こちらが村だとすれば俺たちが住んでいたのは集落と言った方が適切かもしれない。村人の様子も俺たちのように痩せこけているという事も無く、血色も良さそうだ。何より、太っている人を久しぶりに見た気がする。


 そのせいで、見た目からして貧相な俺たちは悪目立ちした。まともなのはミレアくらいだろう。


 歩いてたった六日の距離だと言うのにこの差は何なのだろう?そんな風に考えてしまう。


 しかし、そんな事を考えている場合ではないのだ。出来る事ならさっさと買えるだけ食料を買って帰らなければならない。


 変な目で見られているのを知りつつも、あえて無視して村の中を進んで行く。


「ミレア。この村のどこで食料が買えるかわかるか?」

「うん。あの人がこの村で保存食買ってたから、そこならわかるよ」

「そっか。じゃあ悪いけど案内頼むよ」


 そう言ってミレアに先導してもらい辿り着いたのは、倉庫のような建物だった。他の家よりも幾分か大きいその建物に近づいていくと、その入り口部分に簡素な屋台のようなものが設置してあった。そこで商人っぽい格好の恰幅のいい四〇歳半ばくらいのおじさんがいるのも見える。


「あそこだよ」

「ああ、確かにそうみたいだ。とりあえず行ってみようか」


 そう言って、建物へと近づいていく。すると向こうもこちらに気付いたようで、商人風のおじさんがこちらを見た。


(あー、あれは良くないな)


 俺がそう思ってしまうのも仕方がないほど、おじさんの表情はあからさまだった。嫌な物をみるようなその視線に、とても不快な気分になる。それでも俺は、その視線を我慢して何とか食糧を手に入れなければいけないのだと、自分を鼓舞して気分を持ち直した。


「あの、すみません」

「あー、なんだ?」


 面倒そうにしていても、一応話を聞くつもりはあるらしい。思わず眉を顰めて睨みつけそうになるのを堪え、俺は用件だけを伝えようとしたその時、いつかと同じように目に痛みが走った。


 以前よりも痛みは弱かったものの痛いものは痛い。おそらくまた魔眼が発動したのだと思うが、今は悠長に確認するわけにもいかないので、何事も無かったように振る舞う。


「食料を売ってほしい、そこにある小麦の袋はひとつでいくら?」

「あ?これか?これは……」


 店主は口を開こうとして、止めた。その後、俺たちに見下すような視線を向けて、何かを考えるような素振りをした。


(これは……まずいな。確実に足元を見た値段を提示するつもりだ)


 俺が何か対策が無いか考えている間に、店主の方は決まってしまったらしく、もったいぶって口を開いた。


「そうだな、これひとつでさn……」

「ライズ、これひとつで4,580G(ギア)だよ」

「なっ!おい!!」

「何?違うの?さっき買ってた人はこの値段だったよね?」

「チッ、知ってやがったのかよ!だったらいちいち聞いてくるな!」


 嫌味たっぷりの表情で値段を言おうとした店主の言葉を遮り、ミレアが自信満々に値段を俺に教えてくれた。


 店主の反応を見るに、値段に間違いはなさそうだが、どうしてミレアは知っていたのだろう?今まで俺たちと一緒に居たのだから知る機会など無かったはずだが、どういう事だ?前通った時の値段を記憶していた?いや、あれから日数が経っているし、値段が変わっている可能性は充分あった。ミレアがあれだけ自信を持って言えるはずがない。


 疑問に思いつつも、正確な値段が知れたのだからひとまず良しとしよう。回答は後でミレアに直接聞いてみればいい。それにしても態度悪いなこの店主。俺たちの村が困窮してなかったら絶対利用しないぞこんな店。


 それはそれとして、今はこちらに集中しよう。俺たちの所持金はデレクたちが持っていた約八万だ。あれ一袋でおそらく三〇キロ前後ってところだろう。


 ちなみに1ギアは銅でできた一円玉サイズの小さなコインだ。10Gが銅板。100Gからは鉄製のコインになり、500Gで鉄の板になる。1,000Gからは銀製のコインで、5,000Gなら銀板。10,000Gは金貨になり、50,000Gなら金板という風になる。一応贋金防止のために絵柄のようなものがついてはいるが、あまり出来はよくない。おそらく結構な量の贋金が出回っているだろうと思う程度には雑な作りだった。


「おい、買うのか?買わないのか?買わないならさっさとどこかへ行ってくれ!」

「買うよ。買うけど、どのくらい買うのかを決めるからちょっと待って」

「チッ、早くしろよ」


 ……ほんと何だコイツ。なんで俺こんなヤツに金払おうとしてるんだろう?いや、今は我慢だ。落ち着け藤原義実。体は幼い子供でも中身は大人だ。多少の理不尽は許容するんだ。もし、買えない事になったら困るのは俺だけじゃないんだ。


 よし、大丈夫。俺はクールだ。目の前のデブをぶちのめしたいなんて欠片も思ってないぞ。


 俺は必死に気持ちを落ち着かせて、一旦店の前から離れイードたちと購入する種類と量を相談する。結局、小麦の袋と干し肉などの保存食を荷車に積める分だけ購入することになった。干し肉は小麦に比べて値段が高いため、大した量は購入できなかったが、無いよりはマシだろう。


 店主の嫌な視線をできるだけ気にしないようにして金を支払い、そそくさとその場を後にする。


「あの店主、俺らをバカにしすぎだろ!」


 憤慨したように声を荒げるのはエイルだ。それも当然と言えば当然で、先ほどの店主は事もあろうに、小麦袋の中身をすり替えようとしたのだ。もしミレアが気付いてくれなかったら大変な事になっていた。


 その時はさすがに我慢しきれず、本気で殴り掛かろうと思ったのだが、その時になって再度目に激痛が走り、それどころではなくなってしまった。


 最終的にはちゃんとした小麦を手に入れられたものの、どうにも納得しがたい気持ちが残った。


「まあ、なんとか食糧は手に入ったんだし、あんなヤツさっさと忘れたほうがいいよ」

「そうだな、さっさと忘れよう!俺は二度とあんなヤツとは関わりたくない」


 怒り狂うエイルを俺がなだめるが、どうにも我慢できないみたいだ。まあ、エイルの様子を見たおかげで俺の方は落ち着くことができている。


「それじゃ、早くこの食糧を村のみんなに届けなきゃね」


 そう言って、場を締めくくると、重くなった荷車を全員で押して進み始めた。

次回更新は早め(できれば明日)にするつもりですが、今のところは未定です。

ストックなどは端から無い上、体調不良で筆の進みが遅いです。

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