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貧乏生活が極貧生活にランクアップしそうです。

遅くなってすみません。

 村へと帰り着いた俺は、無事に辿り着けた安心感で緊張の糸が切れたのか、そのまま村の入り口で倒れてしまった。


 次に目覚めたとき、目の前には姉イェンネとミレアの姿があった。ぼんやりする頭でなんとなく状況を理解する。


「姉ちゃん。みんなは……無事?」

「え?うん、大丈夫だよ。怪我した人はいたけど、死んだ人はいないって聞いてる」

「そっか……、良かった」

「でも、あの化け物のせいで、家とか畑とかいろいろダメになっちゃったみたいで……」


 イェンネが悲痛な顔をしてそう言った。確かに、あれだけ派手に暴れていたのだ。家だけでなく畑にも相当な被害があって当然だろう。怪我人も出ているから、今回の収穫量は今までよりもさらに少ないものになるだろう。

 今育てているのは、寒さに強い小麦のような植物と、いくつかの根菜だ。他は山で見つけた山菜。動物もいないわけでは無いが、数が少ないため乱獲できない。被害がどの程度かはわからないが、食糧難に陥るのは確実だろう。


 まずいな。なんとかしなければ……、確実なのは近隣の村などから購入する事だが、他の村の収穫情報などわかるわけがない。それに、その近隣の村というのも結構な距離があるはずだ。もし購入できたとしても、それを輸送するための手段が無い。一応デルクたちが持っていたお金は回収しておいたが、これでどの程度購入できるかもわからない。


 まずは大人たちと話す必要があるな。子供の言い分が通るかどうかわからないが、やってみなければ村全体が危ういのだ。ちゃんと説明すれば了承してもらえる可能性だって十分にある。


 善は急げとばかりに起き上がろうと体を動かした瞬間、全身に激痛が走った。


「ああ!?まだ寝てなきゃダメよ!すっごい怪我してるんだから!」


 うずくまって痛がっている俺の耳に、イェンネのお叱りが聞こえてくる。そういえば、ワイバーンを誘導する際に負った傷は結構なものだった。すぐに動くのは難しそうだな。それなら、イェンネに馬車の事を伝言してもらおう。あとは、傷を癒すのが先か。


 そう考えて、イェンネに村人たちへの伝言を頼み、俺は体を休めることにした。動くのは早くても明日からだ。


 しばらくの間、おとなしく寝転がっていると、徐々に痛みが和らいできた。そこで改めて自分の状態を確認する。イェンネはすごい怪我だと言っていたが、ほとんど擦り傷や切り傷、軽い打撲などだ。おそらく骨折などもしていないと思う。もしかしたらヒビくらいは入っているかもしれないが、たぶん大丈夫だ。先ほど全身に感じた痛みは、傷のせいもあっただろうが、感覚的にほとんど筋肉痛だと思う。


 そんなこんなで思ったよりも無事な事に安堵し、改めて体を休めようとするが、どうしても気になって仕方が無いものがある。


 ミレアだ。彼女は俺が起きた時も、イェンネに伝言を頼んでいる間も、考え事をしている間も、ひたすら無言で俺の方を見ているのだ。なまじ顔が整っているぶん、無表情で見られているとめちゃくちゃ怖いのだ。西洋人形や市松人形とまでは言わないが、妙な圧迫を感じてしまう。


「あ、あの、ミレアさん?」

「うん?」

「ずっとここに居ても暇だろ?俺は今日のところは体を休めるつもりだし、遊びに行ってもいいんだぞ?」

「知り合いいないから……」


 そうだった。失言にも程がある。


「それに、わたし、いや、ぼく?……ん~?」


 ミレアが何か言いかけて、自分の一人称で悩み始めてしまった。ああ、そうか、彼女自身はまだ俺に女だと気付かれていないと思ってるのか。まぁ確かにパッと見は髪型や服装から男の子に見えるし、ステータス見るまで俺も気付かなかったもんな。


「ミレアって女の子だよね?それならワタシでいいんじゃない?まあ好きに言ったら良いと思うけどね」

「え?こんな恰好してるのに、どうしてわかったの?」


 しまった!どう答えよう?俺も【鑑定の魔眼】を持ってるんだよ。とか言っていいのだろうか?正直まだ【魔眼】の希少性とかがわかってないから、村の人どころか家族にすらカミングアウトしてないんだよな。正直に言うべきか?いや、けど【初心の魔眼】に関してどう説明していいかわからないし……適当に誤魔化すか。


「あ~、その、なんとなくだよ。俺も最初は髪型とかで男かなって思ってたんだけど、よく見たら女の子らしい綺麗な顔してたから、たぶんそうなんだろうなって思って」


 勢いに任せて適当なことを口走る俺。それに驚いた表情で固まるミレア。何か間違ったか?いや、嘘は……吐いたな。外見だけで女の子だと気付いたという事実は無いのだから。とりあえず、真実も混じっているから大丈夫だ。たぶん。


「わたし……綺麗?」


 どこかの異常に口の大きな女性が言いそうなセリフを言うミレア。


「う、うん。綺麗な顔をしてると思うよ」

「……ありがとう」

「どういたしまして」


 ……なんだこのラブコメみたいな空気。俺は七歳の少女が恋愛対象になるような特殊趣味(ロリコン)じゃないぞ。誰か止めろ。おいライズ、今目覚めたら美少女が彼女になってくれるかもしれないぞ。


 とまあ、思考が変な所へぶっ飛んだ所で、イェンネが帰還し妙な空気が霧散した。いや、さすがは姉だ。いい仕事をする。


 伝言はしたが返事はまだだと言われれば、俺にはどうしようもない。


「そういえば、ミレアはどうする事になったんだ?」

「ん?」

「ああ、ミレアはしばらくはうちに住んでもらう事になったよ」


 俺の質問の意図がわからなかったミレアは首を傾げ、かわりに返事をしたのはイェンネだった。どうやら拾ってきたのは俺なのだから、面倒を見るのもお前だという事になったらしい。ついでになぜか俺以外には男だという事で通しているらしく、こっそりと「内緒」だと耳打ちされた。どういう意図があるのかは知らないが、とりあえず了承しておいた。


 話し終えたところで、いい感じに眠気も襲ってきたので、変な波風を立てないようにさっさと眠ることにした。



 そして翌日。俺は体の調子を確認し、軽く動く分には問題無さそうだと判断すると、いつも通りの質素な朝食を終えると同時に父、ベックスに今後の事について話してみた。


 まず、詳しい村の被害状況について。こちらは前日イェンネに聞いていた通り、死者は無し。怪我人が九人。内、仕事ができないほどの重傷者が二人だ。とは言っても骨折した程度なので、固定していればちゃんと治る。他は軽傷ばかりで普段通り仕事をしても問題は無いそうだ。

 畑の方は瓦礫に埋まってしまって、ダメになった場所が二か所。ワイバーンの羽ばたきが起こした突風の影響を受けた場所が数か所あるらしい。


 瓦礫で埋まってしまった方は、今回の収穫を諦めるしかないだろう。それよりも突風にやられた方の畑をなんとかする方が先だ。こちらは村人総出で取り掛かっているらしいので問題は無い。


 デルクたちが乗っていた馬車に関しても、既に村人が数人で処理に向かったらしい。回収できたのは食料が少しとその他雑貨。あとは傭兵たちが装備していた武器防具類が少々だ。死体は動物に食い荒らされたのか酷い状態だったらしいが、村人たちは穴を掘って簡単ではあるが墓を作ってあげたそうだ。


 あと念のため頼んでおいた馬車の車輪の回収だが、こちらは三つ回収できたそうだ。ひとつは損傷が酷かったため使い物にならなかったらしい。四輪の内三つが無事だったのだから運が良かったと思おう。


 何に使うかと言えば、荷車作りだ。車輪の加工などこの村でできるはずも無いので、大破した馬車の車輪でも使えればと思った。荷車を作っておけば、それなりの量の食糧が運搬できる。


 あとは村の皆に提案をしてみるだけだ。食料が足りなくなるだろう事は皆わかっていると思うし、なんとかなる……といいな。


 どうやらこれから今後についての話し合いを村の集会所で行うらしいので、俺も同行させてもらえるようにお願いする。最初の内はあまりいい顔をしなかったが、今後村に起こるであろう問題をひとつひとつ説明し、渋々ではあるが父を納得させた。全く子供らしい行動ではなかったが、緊急事態だ仕方ない。


 集会所には既に大人たちが集まっており、各々が不安を漏らしている。

 そんな中、村長が座っていた椅子から腰を上げ、口を開いた。


「揃ったようじゃな。そろそろ話し合いを始めようか」


 その声に反応した大人たちが、用意されていた席についていく。もちろん人数分しかないため、俺は立ったままだ。


 話し合いの内容は、概ね俺の予想通りだった。働き手の減少と畑の被害で、今まで以上の食糧難が予想される事。商人、デルクとの補填の約束が、当人死亡によって叶わなくなった事。そして今後の方針についてだ。


 方針については大した意見は出なかった。狩人たちが狩りの範囲を広げて、動物を狩ってくるというのもあったのだが、現実的ではない。

 結果として、他の村や町から食料を購入するしかなかったのだが、それも今持っている金でどの程度買えるのかがわからない。充分な量を購入できればいいが、そうでなかった場合は最悪だ。


 だからといって尻込みしていても、状況は悪くなる一方なのだから、ダメならダメだった時に別の方法を考えればいい。


 大人たちから意見が出なくなったのを見計らって、父に話したのと同じように俺の構想を説明する。回収してもらっていた車輪を利用して荷車を作る事、それを使ってデルクたちの持っていた金で買えるだけ食料を購入してくる事などだ。


「ライズよ、お前が言いたい事はよくわかった。しかし、一番近い村に行くだけでもかなりの距離じゃ。人の足では行って帰ってくるだけでも十日、もしかするともっとかかるかもしれん。食料の運搬をするにもそれなりの人数が必要じゃろう。人数分の食糧も準備せねばならん。買い出しに出た者たちの分の畑仕事だってある」

「……」

「それにだ、もし食料が買えなかったときはどうする?道中往復分の食糧は返ってこず、村を圧迫するだけの結果に終わるかもしれん。なにより、お主はまだ見た事がないから知らんだろうが、外には魔物や盗賊が居る。先日出たワイバーンほどのヤツはなかなか居ないと思うが、それでもワシらにとっては充分な脅威なんじゃ」


 確かに、村長の言う通りだ。考えていなかったわけでは無いが、認識が甘かったのも確かだろう。


「だけど、このまま待っていても状況は変わらない……です。このまま冬を迎えれば確実に餓死者が出る……ます。だから、少し無理をしてでも買いに行った方が……」

「無理じゃよ。すまんが、今そちらに人をまわせるほど余裕はない。もし仮に買いに行けたとしても、物価もわからんようなワシらでは値段を釣り上げられて良いように金を巻き上げられるのがオチじゃよ」


 そう言って村長は諦めたように首を横に振った。その後、俺がどれだけ説得の言葉を投げかけようと、その首が縦に振られることはなかった。


 家へと戻る道中、俺はどうすればいいかをずっと考えていた。あの村長の様子では、大人たちからの協力は得られない。それなら俺ひとりでも、などと考えては見たが、それこそ無謀と言うほかない。例えひとりで向かったとしても、運べる量は微々たるものだ。


 協力者が必要だ。かといって大人の手は借りられないだろう。そうなると残るは子供達くらいだが、さすがにそれは無理だ。仕方ない、村の大人たちひとりずつに協力を頼んでみるか。



 それから二日ほど費やして、大人たちに協力を頼んでみたが、色よい返事はもらえなかった。ダメならダメで仕方がないと考えていたとはいえ、本当にそうなってしまうとショックなものだ。どうしようかと途方に暮れていると、突然背後から声をかけられた。


「どうしたの?」

「ああ、ミレアか。いや、ちょっと思い通りにいかなくて、へこんでるだけだ。気にしなくていい」

「……食糧問題の事?」

「気付いてたのか」

「私たちのせいでもあるから……」

「ミレアのせいじゃないだろ。あれは……」


 デルクたちのせいだ、なんて言えない。


「いいよ、本当に私たちのせいだから。だから、私にも手伝わせて」

「え?」

「これでもずっとあの人に連れられて、いろんな物を見て来たから、商売については少し詳しいよ」


 確かに、ミレアは商人だったデルクの娘だ。商売に関して多少詳しくてもおかしくない。それに【鑑定の魔眼】なんてものも持ってるんだ。充分に期待できるだろう。


「でも、いいのか?道中はかなり危ないみたいだし、最悪俺とミレアの二人だけで移動する事になるかもしれないんだぞ?」

「いいよ。どうせこの村じゃ普通に話せるのはライズくらいしかいないから」


 協力者として少なくとも俺よりは相場という物がわかっていそうなミレアが、一緒に来てくれると言うのは確かに心強い。けど、こんな年端も行かぬ少女を危険な事に付き合わせてしまっていいのだろうか?ああ、クソッせめて馬でも居れば少しは危険が減らせるものを!とはいえ背に腹は代えられない。


 本来なら連れて行くなどあってはならない事だろう。それでも俺は、そんな無茶に十にも満たない少女を同行させる事を選んだ。


 ミレアを巻き込んだ事で、俺の中である種タガが外れた。力になってくれそうな人なら大人子供構わず声をかけまくった。その結果、俺に賛同してくれた一五歳のイード、一四歳のエイル、一二歳のパーバルの三人が協力してくれることになった。


 十歳を過ぎれば村では立派な労働力であり、彼らもそれぞれの仕事がある。それでも、俺の声に耳を傾けてくれた。これで俺を含め人数は五人だ。荷車だって既に完成している。


 ミレアから聞いて、近隣の村までの距離は大まかには把握できた。馬車でこの村まで来た場合の距離なので、あくまで予想でしかないが何も知らないよりはマシだろう。幸い、この村へ来るための道は人通りなどほとんど無いため、盗賊が出ることはほぼ無いと思って良いだろう。


 あとは村から出る許可だが、素直に言って承諾してもらえるとは思えないので、やるなら気付かれないようにヒッソリとだ。


 俺たちはいろいろと話し合い、その翌日、ついに行動に移した。

皆さんも風邪にはお気をつけください。

できれば今日はもう一話投稿しようと思います。

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