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姉さん、事件です。

 例の馬車がこの村に訪れてから三日、彼らは未だにこの地に留まっていた。これは普通に考えればあり得ない事だろう。せいぜいが一晩宿泊する程度であって、数日滞在するような価値はこの村には無いのだから。


 今のところは彼ら自身が準備した食料で賄っているようだが、もしも村の食糧を要求しはじめれば、あっと言う間にこの村は枯渇してしまうだろう。


 【鑑定の魔眼】が使用可能になってから、俺はもしもの事を考えて、村の中であの護衛の男たちに対抗できるステータスの持ち主が居ないか探して回った。しかし、せいぜい彼らのステータスの三分の一ほどでもあればいい方で、スキルの方も【農耕Lv.3】や【狩猟Lv.1】というのがあった程度だ。【剣術】スキルを持っているあいつらと戦闘になれば、まず勝てないだろう。


 全員で一斉に襲い掛かれば何とかなるかもしれないが、大勢の犠牲者が出ることは想像に難くない。できればさっさとこの村から出て行ってくれればいいのだが、彼らは一体何の目的があってこの村に留まっているのだろうか。


 村人たちの話を立ち聞きして把握できたのは、彼らが昼間どこかへ出かけていること。日没前には戻ってきて馬車で寝泊まりしている事。村人たちと有効な関係を築くつもりが全く無さそうだという事の三つだ。


 ご丁寧に交代制で夜番まで立てているらしいが、そんなに俺たちの事が信用できないなら、村の外で野宿をすればいいのにと思う。


 ちなみに馬車の持ち主らしい商人風の男はデルク・カフス。名前からしてミレアという少女の父親とみて間違いないだろう。彼に戦闘能力はほとんど無いが、意外にも筋力値は村人より上だった。スキルは【社交Lv.2】【交渉Lv.3】【鑑定Lv.2】となっていた。


 そして問題の護衛の男たちだが、先日対面したエデルリッソとバンデルの二人以外にも、あと二人いる。


 ひとりはレスクグという、他の奴らより軽装をした軽薄そうな男だ。赤茶色の髪は右半分だけ伸ばされており、反対側はほぼ丸刈り状態という奇抜な髪型をしている。もしかしたらナルシストなのかもしれない。スキルに【剣術Lv.1】と【潜伏Lv.1】さらに【忍び足Lv.1】というのがあった。どれもレベルは低いが、斥候職にあたるのだろうと見当が付く。


 残るひとりはグリエという、四人の中でも一番レベルの高い男だ。スキルも【剣術Lv.3】や【盾術Lv.3】、そして【火魔法Lv.2】を持っていた。この世界に来て初めて見る魔法スキルに驚いたものの、それを持つ相手が敵になるかもしれないと考えるとゾッとした。常に無表情を保っており、何かしているわけでも無いのに威圧感が凄いのだ。正直近づきたくないレベルである。


 正直な話、魔法にはかなり興味がある。ステータスの中で魔力値が一番高い俺としてはぜひ手に入れておきたいスキルだ。できれば教えてほしいのだが、初日の様子からしてまず無理だろう。



 結局、あの商人たちが何のためにこの村に来たのかわからないまま、一週間が経った。彼らは相変わらず村に滞在している。どうやら村人も近づかない山に入って、何かの調査を行っているようなのだが、あんな山に一体なにがあるというのだろうか?


 それよりも前もって用意しているはずの食糧もそろそろ底をつくころだろう。果たしてどうするつもりなのか。



 その翌日、ついに懸念していた問題が起きた。彼らが食料を要求してきたのだ。金は払うと言っているが、こんな辺鄙な村で金などなんの役にも立たない事などすぐにわかる事だ。買い出しに行こうにも、移動手段が己の足しかない村人にはとてもじゃないが辿り着けそうにない。食料が欲しいならその立派な馬車に乗って自分たちで買いに行けと言いたい。


 村を出て行った者も居るが、結構な覚悟を持って出て行ったはずだ。彼らが生きているかどうかもわからない。もし彼らに食料を渡してしまえば、俺たちの食糧事情はさらに悪化する事になるだろう。そうなれば、必ず体調を崩す物が出てくる。そうなればあとは衰退の一途だろう。


 さすがに村人たちもこれには黙っていられず、商人たちに直談判を行うことになった。村人総出で馬車が停まっている場所まで行き、村で一番ガタイのいい男ノウルが代表して声を上げた。


「商人さん!話がある、出てきてくれ!」


 ノウルの声が届いたのか、落ち着いた様子で件の商人デルクと、護衛の四人が馬車の反対側から姿を現した。


「これはみなさんお揃いで、どうしました?」

「食料の件で話がある」

「ほう、それは……」


 デルクは一瞬目を細めると、人の良さそうな笑みを浮かべた。一体何を考えているのかさっぱりわからない。


「はっきり言うが、俺たちの食糧は渡せない。買いたいというなら別の場所で買ってくれ」

「ご無理を言っているのは私もわかっているのですが、こちらにも事情がありまして、そうもいかないのです。相場の二割いえ五割増しでお支払しますのでどうか譲っては頂けませんか?」

「金などここでは何の役にも立たないんだ。わかるだろう?」

「そこをなんとか、あと数日分だけでいいのです。こちらの用が終わってからなら、後日あなた方のために減らしてしまった分の食料を運んできましょう。どうか譲っては頂けませんか?」


 そう言ってデルクが頭を下げた。そうまでされれば、もともと人の良い村人たちだ。ダメとは言えず、食料の補填がしてもらえるならと売る事を了承してしまった。


 しかし、俺はそのデルクの姿に何か嫌なものを感じていた。そのことを両親に伝えたのだが、困った顔で流されてしまった。まあ何の根拠も無い事なのだから、信じろと言う方が無理だろう。俺自身、何がそんなに不安なのかハッキリしていた訳では無い。


 結局、彼らに五日分の食糧を売り、対価として金を受け取ったが、長い間金とは無縁の生活をしていた村人には、本当にそれが相場の五割増しなのか、そもそも相場を知らないのだから真偽のほどはわからなかった。



 それからさらに三日後、いつも通り朝から山へと出かけて行ったデルクと護衛たちだったが、その日は少しだけ様子がおかしかった。

 いつもなら日暮れ近くにならないと戻ってこないというのに、この日に限って昼前に帰ってきた。それだけでは無く、何か妙に急いでいる様子で、そそくさと馬車へと戻り、出発準備を整えたと思ったら、何も言わずさっさと村を出て行ってしまったのである。


 村長にすら一言も無く、慌ただしく去って行った馬車を呆然と見送りながら、自分の中で嫌な予感が膨れ上がっているのに気付いた。


 あの様子を見た限り、デルクが食料補填のために再びこの村へ来る可能性は低いだろう。まんまと騙されてしまったのだと思うが、俺が感じている嫌な予感はその事とは無関係だと何故か思った。


 もう一度、彼らの去り際の様子を思い出してみる。彼らのあの慌てた様子は何だったのか。……あれはまるで何かから逃げているような……。


 そこまで考えた所で、急に視界が暗くなった。何事かと空を見上げたとき、ありえないものが目に映った。


「ぁっ……」


 深緑色の皮膚を持ち、両手に当たる部分には蝙蝠のような翼を持った全長五メートルはありそうな爬虫類のような姿の化け物。何かのゲームでも何度か見た事のあるソレがこちらを睨みつけるようにして見下ろしている。


 そこにいたのは竜だった。


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