第七話 クエストを受けるの
第六話の最後に浅那が気絶する表現を追加しました。
ルート分岐でバッドエンドあります。最後にURL貼りました。
四ノ宮浅那は目を覚ます。
「……知らない天井だ」
「何を言ってるのじゃ。天井などなく、ただの青空じゃ」
「……その通りだな。あれからどれくらい経った?」
だんだんと思い出してきた。たしか沙耶に殴られたのか?そうあれは――アックスボンバーだった。
「ふむ、大丈夫そうじゃの。なに、5分ほどじゃ」
「いてて、全然大丈夫じゃねぇよ」
倒れたときに地面にでも打ったのか体の節々が痛い。まだ高校1年生だってのに。
「ではプリンの材料を買いに行くとするかの」
「プリン?あれ?確かなんかの揚げ物を作る予定じゃなかったか?」
「なに、記憶が混乱してるだけじゃろ。今はプリンじゃ」
「……そうか、えーとプリンの材料ってなんだ?」
「砂糖、卵、牛乳、バニラエッセンス……はないじゃろうから洋酒でいいかの。あとはバターがあればいいじゃろ」
「……ずいぶんと詳しいんだな」
「なに、せいぜ……時間がある時に練習したのでの」
「ヘーソウナノカー」
「……最低限の礼儀をわきまえるのは常識だと思うのだが?自分から聞いておいてそれはないじゃろう?」
「……それもそうだな。善処しよう」
「ふぅ、まったくなのじゃ」
「それはそうとして、金がないぞ?」
「……売れる物はないかの?」
「あるわけないだろ」
「……生産系スキルは?」
「覚えてない。第一材料がない」
「……路上で何かしらの歌を歌ったり、手品をしたりして稼ぐのはどうじゃ?」
「オレは歌えないし、手品は……昔、妹から教わったから少しできるが今手元にある物では何も出来ない。それにトランプを使ったものが多いからな。この世界にトランプはないだろう?」
「似たものならあるのじゃが?」
「手に入れる手段がないだろ」
「うぅー。ならば妾が」
「やめておけ。変なことして目立つのはよくない」
「うーん。ならばしょうが無い、依頼を受けるのじゃ」
「うーん、背に腹は代えられないってか?正直言って、もう動き回りたくないんだよな」
「我慢するのじゃ」
「あんまり動かなそうな薬草採取とかがいいなー」
「お約束じゃな」
**********
本日3度目となる冒険者ギルドのウェスタンなドアをくぐる。
「なんだ兄ちゃん、また来たのか」
「ええ、依頼を受けようかと」
「この討伐依頼なんてどうだ?」
「いや、もっと簡単な採取系で」
「じゃあここらへんだな」
そして渡された紙を見る。
「『ファラス草』の採取?」
「ああ、『ファラス草』はポーションの材料になるからな。町から出て少し歩いて森の前まで行けば見つかるはずだからお手軽なクエストだ」
「じゃあ、これを受けてみます」
そしてそのクエストが書かれている紙を受付へと持って行く。
「『ファラス草の採取』ですね。クエストを破棄する場合には違約金が発生しますがよろしいですか?」
違約金が発生するのか。金がない今は失敗するわけにはいかないな。
「ああ、問題ない」
「ではお気を付けて」
**********
「遠いなー自転車とかないのか?」
「我慢じゃ。そんな物あるわけがなかろう。あったとしても舗装もされてないからろくに使えないじゃろうなー」
「重いなー」
「我慢じゃ」
「いや、自分で歩けよ」
相変わらずに沙耶は浅那に肩車されて移動していた。
「何を言ってるんじゃ。移動するスピードも戦闘能力も段違いなのに歩いていけと申すのか?そんなの狂気の沙汰じゃ」
「うーん、一理あるんだよな」
「ほれ、森が見えてきたのじゃ」
「よし、さっさとファラス草を見つけて……あ」
「どうしたんじゃ?」
「ファラス草ってどういうのか知らねぇわ」
「なに、『鑑定』があるじゃろ」
「……ひとつひとつの草に鑑定かけるのか。めんどいなぁ」
「プリンのために頑張るのじゃ」
「はぁ、やるか」
そして2人は森の入口へとたどり着いた。
「まずはこれじゃ」
「『スキル・鑑定』えーと、『エイ草』……違うな」
食べられなくはないが苦いそうだ。
「これはどうじゃ?」
「『アイ草』……惚れ薬の材料らしい」
「ふむ、一応採っとくかの」
「いや、いらねぇだろ」
「持っておくに越したことはないのじゃ」
「捨てとけ」
「むー、えいっ」
沙耶が『アイ草』を地面に捨てる。うん、盛られたら怖いからな。捨てといて正解だろう。
「これならどうじゃ?」
「えーと、『トリカブト』じゃねぇか」
地球にもある。おもいっきり毒だ。
「拾っとくのじゃ」
「いや、それこそマジで捨てろ」
「これは譲れないのじゃ」
そしてアイテムボックスの中へと『トリカブト』をしまう。危ねぇな。こんなところに生えてるなんて。
「ほれ、これならどうじゃ?」
「おお、あったあったこれが『ファラス草』だ」
その場にある『ファラス草』を採り尽くさないように気をつけ採取する。
「よし、帰るのじゃ」
「いや、待て」
「どうしたんじゃ?」
「薬草採取は魔物に襲われるフラグなんだ」
そう、ここまで安全だと思わせといて帰り道に襲われるのはもはやお約束だと思う。
「いや、それはないじゃろ」
「なんでだ?」
「自分の職業を確認しなかったのかの?」
「え?『ウィンドウ・オープン』…………『フラグブレーカー』?なんじゃこりゃあ
そこには『職業:フラグブレーカー』としっかり表示されていた。確かにフラグブレーカーならフラグをきっちりと叩き折るだろう。
おい、これはどういうことだ?」
「ユニークを望んだのは浅那じゃろう?あのままにしておけば『勇者』になっていたというに、惜しい男よのぅ」
「それを先に言えよー」
こうしてオレ達は無事にコクトの町に戻るのだった。オレが肩を落とし、落ち込んでいる間ずっと沙耶に「早く肩車するのじゃ」と急かされていたのは言うまでもない。だって『勇者』だぜ?憧れるだろ?はぁ、失敗したかな。あれ?でも『勇者』もユニークじゃないのか?だって『勇者』もユニークならわざわざ『フラグブレーカー』なんて新しい職業を作る必要ないじゃないか。まぁいいや。そんなことを考える気分じゃない。早くおいしいプリンを食べたいな……。
**********
「よーし、買い物じゃ」
冒険者ギルドに行き、換金をしてきたところだ。沙耶がやけに張り切っている。
「プリンじゃー」
「いや、まずは生活用品買おうぜ?」
「むぅ、それもそうじゃな」
というわけでまずは必要な物をリストアップする。
「えーと、武器……はあるからいいとして、防具か?」
「ちょっと待つのじゃ」
「なんだ?」
「武器とか防具って生活用品なのかの?」
「……さぁ?」
「絶対に違うのじゃ。装備品は後ででいいじゃろ。冒険をするのならともかく、しばらくはこの町で過ごすのじゃろ?それなら服、歯ブラシ、コップ、石鹸、調理器具があれば充分じゃろ」
「そうだな。もし足りないようなら後で買い足せばいいし」
「そうと決まったらレッツゴーじゃ」
まずは服屋へと向かう。どうやらここは古着を売っている店らしい。新品の服を売っている店はみつからなかった。きっと新品は高いからこの世界では古着が当たり前なのだろう。まぁ、古着とは言っても新品と大差ないようにも思えるが。ちなみに沙耶はその事実を知り、ぶーたれていた。どうやら「ここら辺は管轄違いで知らなかったのじゃ」と言うことらしい。いや、ちゃんと調べてから来いよ。と言ったら睨まれた。ちなみにオレのおごりということで今は機嫌を直している。
「浅那ー浅那ー」
「なんだー?」
「これなんてどうじゃ?」
沙耶の手には淡いピンクのワンピース?が握られている。
「あー、いいんじゃないか?」
「むー、ならこれはどうじゃ」
次は水色のチェニック?でいいのか?だ。
「あー、いいんじゃないか?」
「次はこれなのじゃ」
白いブラウスだ。どうだ、これは名前を知っているぞ。
「ああ、いいんじゃないか?」
「……返しがコピペでつまらないのじゃ」
「いや、正確にいうと最後のはちょっと違う」
「そういうことじゃないのじゃ」
「じゃあ、どうすればいいんだよ」
「はぁー、まったくもって乙女心がわかってないのじゃ」
「いや、沙耶は乙女じゃないだろ」
「何か言ったかの?」
「なんでもないです」
「むぅ、全部購入じゃ。もちろん全額浅那負担じゃからな」
沙耶が頬を膨らませて言う。その可愛らしい仕草なのだが後ろから尋常じゃないほどの殺気が放たれているような気がしてその言葉に頷くしかないのだった。
「はい……」
こうして今日の稼ぎは沙耶の服へと消えていった。あぁ、オレって結婚したら尻に敷かれるタイプなのかなぁ。
**********
「なぁ、歯ブラシってあるのか?」
「代わりになる枝じゃな。ナイロンとかプラスチックがあるわけなかろう」
「それもそうだな」
「おお、あったあった。これじゃ」
沙耶に渡された枝はほんとにただの枝だった。なんかそこら辺に生えてそうだ。買わなくてもよくね?とも思ったが多分これ用の枝とかがあるのだろう。素直に購入する。それにしても古着のことは知らなかったのに歯ブラシのことは知っているなんて変なやつだな。まぁ、変だから変態なんだけど。
次は石鹸だな。石鹸があるかどうかもわからなかったのにシャンプーとかリンスとか言ってもないだろうな。ああ、よく考えてみるとめちゃくちゃ不便だな。こんなに大変だったのか異世界トリップ。そしてコップは適当に選んだ物を買った。もちろんプラスチックではなく、木製の手作り感のある物だった。調理器具を買うのに意外と時間がかかった。沙耶がこだわったのだ。ということで一通り買い物が終わったので『腹ぺこ亭』へと向かう。
「なんだいまた来たのかい?」
「ああ、金ならある」
ギルドカードを渡す。
「じゃあ60ハルだよ…………なんだいこれ」
「え?」
「貯蓄金額が60ハルもないじゃないか」
…………どうやら買い物で金をほとんど使い果たしてしまったようだ。今はもう夜。新たな依頼を受け町の外に出るのは危険だ。ということはもしかして…………。
「金がねーならさっさと出てけ!!」
またもや追い出された。デジャブだ。さぁ、どこで寝ようか。
「どうする?」
「どうするのじゃ?」
「…………また野宿?」
「…………そのようじゃな」
どうやら、町に着いたとしても宿屋には泊まれないらしい。
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「なぁ、なんでこんなことになってんだ?」
「なんでじゃろうな」
オレ達は今、馬小屋にいる。オレ達のことを不憫に思った腹ぺこ亭の従業員さんが馬小屋でいいならと提案してきたのでお言葉に甘えることにしたのだ。いや、確かにゲームでも馬小屋で寝泊りはできたけどさ。ねぇ、まさかほんとに寝ることになるとは。もう早く寝よ。
「お休み」
「お休みなのじゃ」
隣にいる紗那の気配を感じながらオレは深い眠りについた。
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四ノ宮浅那は夢を見る。辺りを見回すとそこには水が広がっている。川か?海か?それともプールだろうか。この場所には浅那一人しかいない。いや、よく見てみると周りにはたくさんの人がひしめき合っている。それに囲まれている?この円の中には目の前の泣いている少女。誰かはわからない。だけど見覚えがあるような気もする。いったい誰だろうか。あれ?自分も泣いている?そこで浅那は自分も涙していることに気づく。さらには浅那を囲んでいる人達から声が掛かけられていることに気づく。なにを言っているのかはわからない。だけれども確実に少しずつ浅那の心を蝕んでいく。辛い。逃げたい――――そこで目を覚ます。
「はぁ、はぁ、はぁ、夢か…………」
しかし、どんな夢だったかは思い出せない。馬小屋なんて慣れない場所で寝ているせいだろうか。隣を確認してみると沙耶が心地よい寝息を立てながら寝ている。まだ夜は長い。もう一度寝るか。
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峰岸沙耶は浅那が寝静まったころに体を起こす。
「ふぅ、やっと寝たのじゃ。ふむ、やはりあの夢を見るのかの…………。しかし、まだ時間はあるのじゃ。ゆっくりといくかの。それにしても上手く馬小屋で寝ることに成功したのじゃ。このまま上手く誘導できれば……いや、浅那の自由に任せた方がよいかの……何事も無ければよいのじゃが……。それにしても頭ぐりぐりは嫌じゃがあの冷たい視線はいいものよのぅ。おっと明日は早い、さっさと寝るかの」
浅那の寝顔を確認してから沙耶も本格的に眠りについた。ちなみに沙耶は一晩中浅那に頭ぐりぐりをされる夢を見て寝不足だったという。
名前:四ノ宮 浅那
職業:フラグブレーカー
加護:主人公補正の加護
装備:不滅の眼鏡・破滅の腕時計・黒木のトンファー×2
Lv.19
HP:67
MP:190
ATX:32
DEF:34
AGL:62
CLE:36
INT:25
マホ:『無属性魔法』
スキル:『武器』『女神より授かりし戦技』『ウィンドウ操作』『アイテムボックス使用』『鑑定』『解体』『成長率増加』『回復力強化』『詠唱破棄』『吸収』『身体変化の魔眼』『言語理解』
称号:異世界人・女神に好かれし者・女神の戦技を受け継ぐ者・変態に見守られる者・トンファー使い・とんだスプラッタークリエーター・勘違い野郎・馬小屋で眠りし者
浅那「なんか最後の方文字化けしてて読めなかったんだが?」
沙耶「そういう時もあるのじゃ」
浅那「そうか。それにしても馬小屋か……」
沙耶「我慢するのじゃ。それよりもプリンなのじゃ」
浅那「随分と呑気だな」
沙耶「なに、あの時に妾が歌っていたら危ないところだったのじゃ。少しくらいの気分転換はよかろう」
浅那「なんか今回結構危険だったよな」
沙耶「バッドエンドの方もよろしくなのじゃ」
浅那「あんまりよろしくしてほしくないけどな」
沙耶「まぁ、そう固いことを言うでない。それにしてもこれでようやく第一章の終わりじゃな」
浅那「そうだな。次回、『眠り姫誕生編 異世界トリップするの』」
沙耶「あれ?次回妾の出番がないのじゃ」
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バッドエンド:もしも沙耶が歌っていたら
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