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セイリオス

作者: イオ

ナユタは、星を眺めるのが好きでした。

特に、冬の寒い澄んだ星空を眺めるのが大好きでした。


そんなナユタの星の眺めかたは、少し変わっています。

そっと、まるでタンポポの綿毛を飛ばすような力加減で、夜空に息を吐き出します。

そして、その白い吐息の向こう側、きらきらと光る星をそっと掴んでみるのです。

当然手を開いた時、そこには何もありません。

けれども、ナユタは何かを掴めたようなそんな気がしていたのでした。


そして、自分の白い吐息の向こうで広がる星をナユタはこう思っていたのです。


「まるで、かくれんぼをしているみたいだ。」


そんな風に、ナユタは毎日毎晩、星を眺めているのでした。


そんなある日、ナユタはいつものように星を眺めていると、誰かの声がしたような気がしました。

それは、握った手の向こう側、ナユタの正面からのようです。

けれど、ナユタには何も見えません。

勘違いかしら?と、ゆっくり手を星空にかざすと、また声が聞こえてくるではありませんか。


「そんなに上に手を持ち上げないで!痛いじゃない。」


どうやら女の子のようです。けれど、やっぱりナユタには誰も、何も見えません。

とりあえず、女の子が言うには手を上げないでという事なので、ナユタは手を下してみました。


「ねぇ、誰かここに居るの?僕には見えないんだ。」


すると、また声が聞こえます。


「いつも私を見ているから、てっきり見えているんだと思ったわ。なぁんだ違ったのね。」

「いつも?」

「そう、いつも吐息の向こう、手を握るでしょう?その後に、その手を丸く輪にして夜空を見てみなさい。そうしたら、私が見えるから。」

「こうすればいいの?」


ナユタは、いつも星を見るように息を吐き出して、手を握りました。いつもはこの後、手の中に何も無いのを確認して終わりなのですが、今日は違います。

女の子の言うとおりに、そっと手を丸め星空を覗いてみました。

するとどうでしょう!

ナユタの前には、金色の髪に夜空の様な瞳、真っ白なモコモコとした服を着た女の子が浮いていました。


「君は、だれ?」


ナユタはビックリしすぎて、女の子になぜ空を飛んでいるのか、どうして見えるようになったのか、全く聞く事が出来ませんでした。


「私は、セイリオス。でもよく聞くのはシリウスね。けれど、一番気に入っているのは青星よ。だって、私が憧れる色だもの。」


それを聞いて、ナユタはまたまたびっくりしました。

なぜなら、それは星の名前だったからです。

冬の空に美しく輝く、ナユタの大好きな星でした。


びっくりしているナユタを見て女の子は、冷たくなったナユタの手を握ると、そっと息を吹きかけました。


「あったかい・・・ねぇ、どうして君は僕が君を見ていると思ったの?」

「君じゃなくて、アオと呼んで。私は、いつも空から下を眺めていたの。ナユタは、毎日星を見ているけれど、その中でも冬は、私を見ている時は楽しそうだったから・・・だから私が見えているのかと思ったのよ。」

「そんなに僕は楽しそうだった?アオ。」

「えぇ、つい私がナユタの手を握ってしまうほど。けれど、いつも気付かないで行ってしまうから、今日は名前を呼んだの『ナユタ』って。」


それで、ナユタが気付いてくれた。そう、アオは笑いました。

ナユタはそのアオの笑顔を見て、心のずっと奥いつもはゆっくりと動いている部分が、トクントクンと早く動いている気がしました。

けれど、だんだと来た時よりも寒くなって来ました。

ナユタはもう帰らなければいけません。


「アオ、もう帰らなきゃ。また明日も会える?」

「えぇ、ナユタが私を見てくれたら。だから、今日はおやすみなさい。」


そう言って、手を振りながらナユタは家に帰りました。

暖かなベットに潜り込んでも、ナユタはアオの事が頭から離れません。

毎日、毎日ナユタはアオに会いに行きました。

ナユタが大きくなってからも、それは続いたのです。


けれど、ナユタが十八歳になった冬、その日のナユタは、いつもよりも暗い顔でアオに会いに行きました。


「どうしたの、ナユタ。何か辛い事でもあったの?」


今では、小さかったあの頃のナユタと違って、アオは下からナユタの顔を覗き込む事が多くなりました。

アオも、ナユタに合わせた年齢の姿なのですが、それでも以前よりナユタを見下ろす事は無くなって来ていました。

そのせいか、アオはだんだんナユタの表情に気付けなくなってきていたのです。


「アオ、もっともっと君の事が知りたくて、僕は勉強をしていたんだ。」

「あぁ、知っているよ。ナユタはとっても頑張っていたじゃない。それがどうかしたの?」

「僕、来年の春から遠い学校へ通う事になったよ。そこは、星の事や君の事をたくさん学べる。けれど、行きたくないんだ。」

「どうして・・・頑張って来たんでしょう?どこででも、私はナユタに会いに行くよ。」

「来れないよ。そこは、星が見えないんだ。ここよりもうんと街で、明るい光に包まれてる。だから、もう会えないんだ。」


アオは、ナユタがぎゅっと握ってくる手に、そっと手を乗せる事しか出来ませんでした。

本当は、行かないでと言いたい気持ちを心の奥底にしまって、アオは言いました。


「大丈夫。私はいつまでもナユタを待っている。だから、行っておいで。そして、うんと勉強してきたら、私にその話を聞かせて。」


ナユタは、泣きそうになりながら、


「約束するよ。絶対に学者になって帰ってくるから。だから、待っていて。」

「えぇ、約束。」


そうして、ナユタとアオは会えなくなってしまったのです。


それから、何年の月日が流れたでしょうか。

ナユタの住んでいた町は、何も変わらず、アオと会っていた場所もそのまま。

けれど、最近小さめではありますが、プラネタリウムが出来て町は少し賑わっています。

そのプラネタリウムは、名前を『セイリオス』。

不思議な事に、このプラネタリウム、冬は開いていません。

冬は、館長さんが望遠鏡片手に、恋人に会いに行ってしまうからです。


「アオ、お待たせ。今日はどんな話しをしようか?」

「まったく、待ちくたびれる所だったわ。ナユタ、今日は一緒に星を見ましょう。」

「そうだね。この星は、この季節だけ・・・」

二人の楽しそうな声は、空が明るくなるまで続きました。


そうして、ナユタとアオは冬が来ると毎日星を見て、色々な話しをするのです。

もう、離れる事がないようにと・・・




初めての童話です。

以前より書きたいと思っていた、冬の星空を舞台にしてみました。


もしかすると、書き直しがあるかもしれません・・・

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― 新着の感想 ―
[一言] とてもロマンチックでした。いそいそとアオに会いに行くナユタの姿が思い浮かびました。
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