花
数秒の沈黙の後に、彼が口を開いた。
「なら、死んでみせてよ。」
此処から飛び下りれば簡単だよ、と彼が小さく笑った。
飛び下りて、死ぬ…?
彼は歌うように言葉を続ける。
「他人を愛すってことはさ、その人に全てを捧げるってことでしょ?
僕のことを愛してるんなら、僕のために死んでみせてよ。」
椎名君に、全てを、命を捧げる。椎名君のために死ぬ?
私の想いを、愛を、証明できる?
私が死ねば、椎名君が愛してくれる!
愛される。私だけが。わたしだけが!
…あぁ、なんて幸せなことなんだろう!!
私は喜びに満ちて、フェンスに手をかけた。
愛しています、椎名君。
愛してる。あいしてる。アイシテル。
ねぇ、ちゃんと見ていてね。
ぐしゃ。
「あーあ、きったない。」
落ちていった彼女は、地面に真っ赤な花を咲かせ飛び散った。
愛を証明したつもりらしい。なんてバカな女なんだろう。
そういえば、あの子の名前も知らないや。
なんだか愉快になってきて、僕は思わず笑みをもらした。
姉さん、やっぱり世界は下らないモノばかりだよ。
…おかしいのは、どっちなんだろうね。
扉は鈍い音をたてて閉じられた。
残された赤い花は、幸せそうに微笑み、そっと呟く。
ア イ シ テ ル。