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雨乞い少女  作者:
1/3

発芽


夢みたいだと笑った君はどこへ行ったんだろう。

僕はただ追いかけることしかできなくて、影は離れていくばかりだ。

ねぇ、僕オカシイのかな?





なんてグロテスクなんだろう。

ざわざわと蠢く教室には独特の匂いがこもっていて、それが不快で仕方なかった。

汚い、汚い。

下品な笑い声、媚びた目つき、女って気持ち悪い。

それに群がる男達も同じだ。

この世界は腐りかけの生ゴミで溢れかえっている。


そんな害虫だらけの空間の片隅に、今日もあの人がいる。

窓際の席に座る彼は、ただ静かに空を眺めていた。

とても雨が似合う人。雨のような人。

彼の周りだけ空気が澄んでいるみたい。

あぁ、綺麗だ。

もっと近づきたい。触れたい。

その瞳に私を映してほしい。もっと、もっと。


「し、椎名くん!」

気付いた時には彼の名前を呼んでいた。

声は自分でも驚くほど震えていて、裏返ってしまう勢いだった。


「……なぁに?」

椎名君は窓の方を向いたまま、ゆっくり返事をしてくれた。

わたし、いま、椎名くんと、話をしている!

心臓の音が、かつてない速さで体中に響いていた。


「………。」

どうしよう。声が、言葉が出てこない。

私は黙ったままで、ぼんやり彼の横顔を眺めていた。

整った顔立ち。色が白くて、睫毛が長い。

風に軽く揺れている黒髪は、とても柔らかそうだ。


お互いに黙り込んだまま、どれくらい経ったのだろう。

予鈴の鐘が鳴っても突っ立っていた私は、周囲の視線でようやく我に返り、自席へ戻った。

椎名君は一度もこっちを見なかった。



それから毎日、私は彼を目で追っていた。

帰りに後をつけて、家の場所も知った。

登校時間、帰宅時間、就寝時間も全て把握した。

ねぇ、私こんなに貴方のこと知ってるんだよ。



その日もいつものように、帰宅する彼の数メートル後ろを歩いていた。

彼が家に帰り、部屋の電気がつくまでを見届けるつもりだった。

ところが椎名君は、いつもとは違う路地に入り、家とは反対方向に歩いて行ったのだ。

何処へ行くんだろう…?

そのままついて行き、30分程でたどり着いたのは薄汚れた廃墟だった。

錆びついた扉を慣れた様子で開き、彼はどんどん奥へ進んでいく。

こんな所に何の用なのかな。


かつん、かつん。

所々ヒビ割れたコンクリートの床は、二人分の足音を鮮明に響かせていた。

















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