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第1話 始まりの日

 気づいたら、そこに立っていた。

 風が吹いていた。少しだけ冷たい。

 でも嫌な感じじゃない。むしろ、懐かしいような匂いがした。

 草原だった。見渡す限り、緑。

 遠くに小さな町が見える。煙が上がっていて、人が住んでいるのが分かる。

「……ここ、どこだ?」

 声に出してみる。

 ちゃんと音になった。少しだけ安心する。

 最後の記憶は曖昧だ。

 何かをしていたはずなのに、思い出そうとすると、そこだけぼやける。

 ただひとつだけ、はっきりしていることがある。

 ――たぶん、俺は死んだ。

 根拠はない。けど、そうとしか思えなかった。

 この状況を説明する言葉として、一番しっくりくる。

「……転生、ってやつか?」

 思わず笑う。

 そんな都合のいい話、あるわけない――そう思っていたのに。

 でも、ここはどう見ても“そういう場所”だった。

 剣と魔法の世界。

 ゲームや漫画で何度も見たような風景。

 なら、やることは決まっている。

「とりあえず、町に行くか」

 歩き出す。

 足取りは軽い。体はちゃんと動くし、痛しばらく進むと、土の道に出た。

 人が通っている形跡がある。間違いなく、あの町に繋がっている。

 ――そのとき。

 遠くから、誰かの声が聞こえた気がした。

 振り返る。

 でも、そこには何もない。草が揺れているだけだ。

「……気のせいか」

 そう言って、また前を向く。

 なぜか少しだけ、引っかかるものがあったけど。

 今は気にするほどでもない。

 町に近づくにつれて、人の姿が見えてきた。

 荷物を運ぶ人、立ち話をする人、子どもたち。

 普通の光景だ。

 なのに。

「……あれ?」

 すれ違った男が、こちらを見なかった。

 いや、見ていないわけじゃない。

 視線が、ほんの少しだけ――ずれている気がする。

 気のせいだろうか。

 もう一人、今度は女性とすれ違う。

 やっぱり、目が合わない。

「……まあ、いいか」

 軽く肩をすくめる。

 知らない場所なんだ、そんなこともあるだろう。

 それよりも。

 ここから、俺の物語が始まる。

 そう思うと、少しだけ胸が高鳴った。

 何者でもなかった俺が、

 何かになれるかもしれない世界。

 剣を手にして、魔法を覚えて、仲間と出会って。

 いつか、この世界を救うような――

 そんな未来すら、あり得る気がした。

 ――そのとき。

 町の奥の方で、大きな歓声が上がった。

「おおおおおおお!!」

 人々が一斉にそちらを向く。

 誰かが走り出し、他の人もつられて動く。

「なんだ?」

 気になって、俺もそっちを見る。

 けど。

 人の壁で、よく見えなかった。

「……まあ、あとで分かるか」

 無理に近づこうとは思わなかった。

 どうせ、これから関わることになる出来事だ。

 そんな気がしたから。

 俺はそのまま、町の入口へと足を向けた。

 誰にも呼ばれず、

 誰にも止められず、

 誰にも気づかれないまま。

 ――物語は、もう始まっているのに。

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