影と日常の境界
黒斗は、自宅の狭い部屋の窓から夜空を眺めていた。
街の喧騒は遠く、今日の戦いの痕跡だけが残る。
肩と腕の打撲、擦り傷。痛みが体に刻まれる。
「…やっと帰れたか」
影の力は少しずつ手に馴染むが、完全ではない。
剣や鎖、盾に変わる感覚が、まだ勝手に動く。
玄関のチャイムが鳴る。
開けると、ミオが立っていた。黒いバッジと冷静な視線。
「今日からお前の家に住むことになった、よろしく頼む」
黒斗は少し戸惑いながらも、頷く。
「…両親はいないのか?」
「親は事故で死んだよ」
「悪いことを聞いてしまったな」
短く、だが互いに意味を理解した会話が交わされる。
静かな同意。緊張感と安心感が入り混じる。
部屋に入り、軽く荷物を整理する。
ミオは黙って周囲を観察し、たまに口を出す。
「肩はまだ痛むな」
「わかってる…昨日の戦いでな」
傷を押さえながら返す。
二人で簡単な食事を済ませる。
ミオは黙々と食べるだけだが、その背中には安心感がある。
「影の力は…今日はどうする?」
短く尋ねる。
「少しだけ触って、感覚を確かめる」
手の中で影を剣や鎖、盾に変える。勝手に暴れそうになるが、少しずつ意志が通じる瞬間がある。
「悪くない。昨日より安定している」
ミオの声に、胸の奥でわずかな自信が芽生える。
だが、戦闘は終わっていない。次の危機は必ず来る。
「…次はもっと強くならないと」
黒斗は自分に言い聞かせる。
夜が深まる。街は静かだ。
窓の外に見える灯りの向こう、いつまたマリスが現れるか分からない。
それでも今は、ミオが隣にいる。
戦闘の緊張と日常が交錯する、この瞬間。
黒斗は、影の力を制御する日常を、少しだけ信じられる気がした。
影と日常の境界は、まだ曖昧だ。
だが、その先には必ず、戦いが待っている――。




