本部
「結局お前は誰なんだよ」
少女が振り返った、無表情。黒い輪のバッジ。
「そういえば自己紹介がまだだった。私の名前はミオ」
「ミオか、よろしく。俺の名前は神代黒斗だ」
名前を言った瞬間、少しだけ緊張が和らぐ。自己紹介はこれで終わった――と思った。
駅裏の古いビルに入り、エレベーターで地下へ降りる。数字のない表示が静かに下がっていく。沈黙が重い。
「俺、本当にハーフなのか」
「検査すれば分かる」
感情のない声。
扉が開く。白い廊下。無機質な光。すれ違う職員たちの視線が刺さる。観察する目。値踏みする目。胸の奥がざわつく。
奥の部屋に通された。ガラス張りの検査室。
「座って」
腕に冷たい機械が取り付けられる。モニターに数値が流れ、一瞬、画面が黒く染まった。警告音。赤い表示。
《適合率 87%》
ざわめきが広がる。
「高すぎる……」
「成功例か」
成功例。その言葉に背筋が冷える。
「ようこそ、黒環へ」
ガラスの向こうにスーツ姿の男が立っていた。
「君は我々の切り札だ。兵器としての、最高傑作だ」
血の気が引く。俺は知らなかった。生まれた理由も、選ばれた意味も。
「拒否権はない。暴走の兆候があれば即時処分」
処分。その意味は分かる。
視線がミオに向く。彼女は静かに腰の銃に触れた。それが答えだった。監視役。そして処刑者。
黒環は守る組織じゃない。俺を使う組織だ。
ミオがわずかにこちらを見る。
「大丈夫」
小さな声だった。
「まだ、撃たない」
地下の空気は冷たい。逃げ場はない。
物語は、もう戻れない。




