日常への一歩
朝の薄曇り。黒斗は膝をつき、微かに揺れる影を背に、呼吸を整えていた。
「……学校は、どうしてるんだろう」
黒斗は小さくつぶやく。修行に夢中で、現実の生活は後回しになっていた。
眉をひそめる黒斗。焦燥が胸に広がる。
「黒環には……出席停止とか、そういう制度はあるのか?」
ミオは首を振る。
「ない……授業には普通に出られる」
黒斗は息を呑む。
「……ずっと無断欠席扱いだったのか……」
遅れを取り戻さなければ、日常も学校生活も、何もかも取り返せない。胸の奥で焦りが沸き上がる。
「行くぞ、急ごう!」
黒斗は立ち上がり、影の微かな揺れを感じながら校舎へと走り出す。影はまだ戦いの余韻を残し、背後で微かにざわめく。しかし今日は戦うためではなく、取り戻すための日常の一歩だ。
通学路。久しぶりの景色。舗道を駆ける足音、校舎の陰から漏れる笑い声。日常の音が胸に刺さる。焦りと少しの安心が交錯する。
「……間に合う、はずだ」
校舎の扉を押す。教室の中は静かな日常が流れていた。
黒斗が席に着くと、周囲の視線が一斉に集まる。
「黒斗……久しぶり!」
「あれ、どうしたの?」
言葉が詰まり、黒斗は頭を下げる。無断欠席の分をどう説明すればいいのか、瞬間、頭が真っ白になる。
だが背後の窓際で、ミオが静かに見守っていることを感じ、わずかに落ち着く。口出しはしない。自分でこの場を取り戻すために、黒斗は踏ん張るしかない。
深呼吸をしてゆっくり顔を上げる。
「取り戻す……今日から、すべてを」
窓の外、風がカーテンを揺らす。静かな日常の一瞬が、戦いの世界と繋がる。




