影との対峙
霧が薄れ、朝の光が山肌をかすかに照らす。
黒斗は膝をつき、冷たい地面を手で押さえながら呼吸を整える。背後の影は暴れを続けているが、昨日や一昨日のような単純な荒々しさではない。重く、反発力を持ち、まるで意思を持った相手のように黒斗を試している。
「今日は……本気でいく」
黒斗の声は低く、震えよりも覚悟の色が濃い。
ミオは少し離れ、銃を下げて冷静に見守る。
「……危険が大きいわ。無理はしないで」
しかし、その声も黒斗の鼓動を抑えることはできない。
玄真がゆっくりと間合いを詰める。
「お前の影の真価を試す。俺が攻撃するのは刺激だ。覚えておけ、戦う相手は影自身だ」
黒斗は踏み込み、影に手をかざす。
影の一部が鋭く尖り、重さと反発力を体に伝える。衝撃を受け止めながら、黒斗は逆に体勢を崩し、反撃の軌道を作る。
「……反撃に使えるか」
鋭い痛みが体を貫く。影の先端が体にぶつかり、岩を砕く衝撃が伝わる。だが黒斗はその瞬間、意識を集中させて影の力を利用する。
鎖を巻き、刃を振るい、盾で攻撃を逸らす。反発力を受け流し、逆に動力として返す。
「……これが、次の段階か」
玄真は一歩下がり、観察する。
「よし。恐怖や興奮ではなく、怒りや判断を混ぜろ。影を自分の道具として使うのではなく、意思をぶつけろ」
黒斗は息を荒くしながらも体を微かに沈め、影の揺れに合わせて攻撃を繰り出す。
暴れる影を押さえつけるのではなく、攻撃の一部として逆手に取る。
鎖が岩を巻き上げ、刃が空気を切り裂き、盾が衝撃を跳ね返す。
荒々しい動きが、彼の意思に呼応する瞬間、初めて**影と意思が“互いに試し合う感覚”**が訪れる。
ミオは少し顔をしかめ、息を呑む。
「……危なっかしいけど、やっと“使える”感じね」
黒斗は小さく頷き、影に目を凝らす。
揺れる、反発する、暴れる――だが確実に呼応する。
恐怖ではなく、戦術として意図を読み取り、逆手に取る感覚。
霧の向こう、遠くで何かが静かに揺れる。
視線。まだ姿は見えない。
しかし確実に――誰かが、黒斗の成長と影の揺れを見つめている。
「今日の教訓を忘れるな。揺れは力だ。制御するのではなく、ぶつけろ」
玄真の声が静かに響く。
黒斗は拳を握り、影の圧力と反発を体感として受け止める。
まだ荒削りだが、影は確実に彼の意思に呼応し、共に動く。
今日の試練は終わった――だが、次の戦いへの布石は、静かに回り始めていた。




