黒環(こっかん)
放課後の教室は静まり返っていた。
窓の外が赤い。
黒板の隅に、まだ消えていない文字がある。
死ね。
見つめると、胸の奥がざわつく。
嫌な感覚なのに、なぜか落ち着く。
「黒眼くん?」
背後から声がした。
振り向くと、知らない少女が立っていた。
制服が違う。胸元には、黒い輪のバッジ。
「誰だよ」
「黒環。マリスを排除する組織」
淡々とした声だった。
「最近、この学校でマリスが出ている。発生源は――君の周囲」
どくり、と心臓が鳴る。
その瞬間、黒板の文字がにじんだ。
床から影が浮き上がる。人の形をした、歪んだ黒。
目だけが、こちらを見ている。
マリス。
自然と、その名が浮かぶ。
少女が銃を抜いた。銃身にも黒い輪の刻印。
発砲。
乾いた音が教室に響く。
弾丸は影を貫くが、消えない。
『お前は、こちら側だ』
頭の奥に直接、声が響いた。
心臓が熱い。
怖いはずなのに、体が拒まない。
影が少女に伸びる。
その瞬間、世界が遅くなった。
音が遠ざかる。鼓動だけがやけに大きい。
気づけば、俺は影に触れていた。
ただ、それだけ。
触れた場所から影が崩れる。
砂のように、黒が空中へ溶けた。
静寂が戻る。
少女がゆっくりと銃を下ろした。
その目は驚きではなく、確信だった。
「やっぱり」
喉が乾く。
「何が」
「マリスを直接消せるのは、マリスだけ」
息が詰まる。
「君は人間じゃない。マリスと人間のハーフ」
否定できない。
さっきの感覚が、まだ体に残っている。
少女は一歩近づいた。
「安心して。黒環は君を殺しに来たわけじゃない」
教室が、ゆっくり暗くなる。
「利用しに来たの」
心臓が、強く鳴った。
黒環。
敵を消す組織。
そして――俺を使う組織。
物語が、静かに動き出した。




