自我を宿す影
黒斗は膝をついたまま、呼吸を整える。
影が背後でざわつき、微かに暴れたまま立ち上がる。
父の影とは違う。荒々しく、鋭く、そしてわずかに自我を宿しているように見える。
「これが……俺の影か」
黒斗の声は震えていた。恐怖と興奮が混ざる。
ミオは彼の横で静かに観察する。
「……まだ、制御できてない」
声は低いが、揺るがない。
玄真がゆっくり一歩前に出る。
「焦るな。制御するんじゃない。飲み込め、黒斗。揺れを恐れるな」
黒斗は膝を伸ばし、影に手をかざす。
影が反応し、勝手に膨らみ、空中で揺れる。
微かに形を変え、まるで生き物のように黒斗の周囲を覆う。
「うっ……!」
黒斗は息を荒くしながら、影の暴れを受け止める。
暴力的に振る舞う影に押され、体が揺れる。
だが同時に、影はわずかに黒斗の意思に呼応している。
「面白い……!」
思わず笑いがこぼれる。
恐怖を感じながらも、心の奥が熱くなる。
ミオが横で小さく頷く。
「……それでいい、黒斗。恐れず受け止めろ」
玄真は低く息を吐く。
「これが、揺れる影の力だ。父の影とは違う、あくまでお前自身の影。今日からは、この影を使って自分を超えろ」
黒斗の影がさらに膨らむ。
鎖のように伸び、剣の形を取り、盾となって空気を切り裂く。
微かに自我を持つように、鋭く動き、黒斗の動きにわずかに逆らう。
だが、その不安定さが力を増幅させる。
「飲み込め……俺の影よ!」
黒斗は拳を握り、影の暴れを全身で受け止める。
痛みと衝撃が体を貫く。
地面が震え、岩が砕ける。
影は暴れながらも、彼の意思に呼応して攻撃を繰り出す。
玄真がゆっくり前に歩み寄る。
「見ろ、この感覚を忘れるな。揺れは恐怖じゃない。力だ」
黒斗は影を押さえ、揺れと意思を同時に抱き込む。
初めて、自分の影が“自分の力として独立して動く”感覚を掴む。
霧の向こう、遠くで何かが静かに揺れた。
観察する視線。まだ姿は見えない。




